第21話 番外編 ランベルト。
昼下がり、ご機嫌の良い陛下とお茶をご一緒する。
お茶を飲みながら、陛下は先ほど届いた報告書を読んでいる。
…アルバ国からのものね?
夏の避暑にお出かけになった山荘であの女を拾ってからというもの、陛下は新しい玩具を手に入れた子供のように楽しんでいる。いつもなら、ほんの少しの時間で飽きてしまわれるのに…今回はもう、何年になるかしら?
力のない、何のメリットもない国の王女など…いっそ、側室にあげさせてしまえば、すぐに退屈なさったものを。
あの女も、陛下の力を貸していただくなら、色仕掛けでも何でもしさえすれば、愛欲に溺れでもしたら…すぐに捨てられてしまうのに…。
紅茶を飲む。
私は正妃としてここにいる。
子供ももう3人もいて…それでも毎日、この方に縋り付きたい思いでいっぱいだ。私を捨てないでほしい、と。
「…ランベルトのとこは、また子供が産まれるらしい。やつもまめだな。何人目だ?」
「まあ。お祝いをお贈りしなければね。4人目でございましょう?」
「くくっ、貧乏人の子沢山、だな。」
頬杖をついて、目を細めて報告書を読んでいる陛下。
私が一人目を懐妊したときでさえ、そんな優しいお顔をなさったでしょうか?
…ランベルト…私の可愛い幼馴染。
許嫁の弟だった。私たちは小さいころから仲良しだったわね。
許嫁との婚約はあっさりとないことになって…帝国に嫁いでいく私にあの子は騎士の誓いをした。
帝国軍の謁見式に、エルゼ国の白の紋章を付けたあの子を見た時、私がどんなにうれしかったか…
私はあの子を労り、声をかけ…私はただ、そばにエルゼ国を感じられるものを置いておきたかった。ほしかったのは王女としての尊厳?母国への恋慕?
…あの子が分不相応に私に恋心を抱いているのは知っていた。
手を振ってあげるだけで、あの子は真っ赤になってうつむいた。
いつでも捨てられる仔犬を飼うような愛、だった。
そう…わたしも、そんな愛にしがみついている。
ランベルト…あなたは…幸せになったのね?
「アルバ国も随分落ち着いたようだし、様子見がてら行ってくるか。お前も行くか?ランベルトが喜ぶだろう。」
「まあ、陛下…。」
陛下に微笑みを返す。
春の午後の日差しが差し込むラウンジ。




