第20話 そしてそれから。
「ここ?まじか?」
山脈を随分と登ってきた。道中の村々はさびれていた。人がいるのかどうかもわからないほどだった、
アンナが足を止めた先を覗き込む。
「間違って落ちるなよ?」
…いや…落ちたくはないな…
金〇が縮み上がりそうなくらい深い穴。はるか下の方にほんの少し波紋が見えた気がしたのは、さっきアンナが放り投げた石か?
岩盤が裂けたような1メートルあるかどうかの割れ目。
竜の泉…よくこれ見つけた人がいたな?
連れてきた兵士10人がかりで、その割れ目に大きな岩を押し倒して蓋にする。
アンナが、途中摘んできた花をその岩にそっと置く。
花が置かれると、それはまるで、大きな墓標のように見える。
「誰かの墓なんですか?」
新人の兵士に聞かれて、アンナが答えている。
「アイナ、という名の王女が生贄になって殺されたのよ。国が落ち着いたら、ここに小さな神殿でも建てたいわね。」
秋に3000の兵を率いてアルバ国に入り、王城を抑えた。たいした抵抗もないまま、王位についていたアンナの異母妹とその王配、先王、すべての大臣や役職関係者はすべてその場で処分された。
アンナが王位に就く宣言をして、玉座に座ったのは、ほんの1か月前のこと。
一番最初に王として行ったことが、この竜の泉を塞ぐことだった。
「皇帝陛下に危害が及ばないように。」
そうアンナが言っていたが…
なるほど…ここから毒など流されたらたまったもんじゃない。
そう、それから…俺の副官として派遣されてきたハンネスが兵を小分けにして、各地に麦やらイモやらを持って派遣させた。小隊のリーダーはアンナの仕事を手伝っていた新人兵が抜擢された。
「東の端から今度は西の端かよ。家にゆっくり帰りてえ」
愚痴をこぼしていたハンネスは今は、自らも小隊を率いて、あちこちに点在する干上がってしまった小さな貯水池の保全と植林に向かってくれている。
竜の泉のある高台からアルバ国が一望できる。
あちこちで煙が上がっているのは、畑を再生させるために枯草を焼いているためだろう。
俺の脇に立ったアンナが、同じ景色を眺めている。
これからだな。
来年もその次も、雨は少ないかもしれないけど、何の確証もないけど…
お前と同じ景色を見て行こう。
「ねえ、お父ちゃん、」
え?カッコいいこと考えてたのに、またそれ?
アンナが微笑んで、俺の手を取って、自分の腹に当てる。
?
「…子供ができた。お父ちゃん、これからもよろしくね。」
えええええっ!!
「泣くな、ランベルト。な?」
思わずアンナを抱きしめて、泣いてしまった。アンナが俺を見上げて、涙を拭いてくれる。綺麗な紫…その瞳の中で、俺はやはり泣いていた。
お前がアイナだったことも、俺の長い片恋もいろいろと終わって…またいろいろと始まっていくんだな。
本編 完です。番外編に続きます。




