第19話 恋。
ハンネス…俺やっと自覚した。自覚したと同時に失う恋だと気が付いたよ。
二人でいられる時間が短いことにようやく気が付いた俺たちは、求め合った。アンナに触れられるところがみな熱を持った。アンナのうるんだ瞳が俺を映しているだけでも泣きそうだ。
時間がなかった。
いつものように抱き合って眠ると、なぜ今までそうしなかったのかが不思議なほどだった。
2年間ずっと一緒にいたというのに…俺たちにはあとどれくらい時間があるのだろう?
*****
1週間また荷馬車に揺られて、帝都に着いた。
荷馬車で皇帝宮を訪れる人はそうそういないらしく(まあ、そうだろうな)荷馬車は勝手口の方に引かれて行った。
話は通っているらしく、侍女がわらわらと出てきて、アンナを連れて行った。
俺は客間に通されて、休むよう言われる。
制服を出してブラシをかけたり、出されたお茶を飲んだり、落ち着かなかった。
2時間ほど待って、陛下との謁見の時間になったと執事が呼びに来た。
廊下に出ると、隣の部屋のドアが開いて、ドレス姿の女性が出てくるところだった。
落ち着いたグリーンのドレスに、銀色の髪が結い上げられている。
「…アンナ?」
「ランベルト、エスコートしてちょうだい。」
そう言ってその女性がいたずらっぽく笑って、レースの手袋をした手を差し伸べる。
並んで歩いて違和感があるのは、こいつがヒールのある靴を履いているからだとわかった。馬子にも衣裳?…いやいや…これが本来の姿なのだろう。
ちらりと顔を覗き込むと、目が合った。化粧して別人のようになっているが、瞳は変わらない。きらきらした紫…
入りなれた陛下の執務用の部屋のドアが、いつもより大きく重く感じる。
アンナの手を取って、中に入る。
「来たか。」
アンナが跪いて礼をする。俺は半歩後ろに下がり軍用の礼を取る。
椅子を勧められたので、アンナの椅子を引く。俺はその後ろに立った。
「報告は読んだ。ゲルダ国での開墾、ご苦労だった。」
「いえ、陛下。駐屯地の兵士の皆様の手もお借りしましたので。」
「そうだな。それで?二年たったが、お前はどうする?」
「私は、アルバに帰ろうと思います。この二年間で乾燥地用の麦の種籾も出来ました。それを持って。」
「国元の情報は入っているのか?」
「姉であるウーノ国王妃から、いくらかは聞いております。私が殺された後も、雨は降らなかったと…」
ふふっ、と面白そうに陛下が笑う。
「そうそう、お前の姉だったな。なかなかしたたかな女だな。新王の尻を叩いているんだろう?ウーノ国はうちと交易をすることになった。」
いやいや…。どうせみな陛下の謀でしょう?ウーノの商隊にわざわざアルバの通行証で通れって言ったのだって、姉が生きてるぞ~っていう前振りだったんでしょう??
「国元に帰るにあたって、陛下にお願いがございます。」
「なんだ?言って見ろ。」
「兵を1000、貸してください。」
「ほう。それで、お前ごときに兵を貸し出して帝国に何のメリットがあるというのだ?」
「アルバ国はドラッヘン帝国に下ります。今は何のメリットもございませんが、10年…いえ、5年お待ちいただければ、アルバを併合してよかったと思わせますので。」
…アンナ?
「ふーん…」
陛下が頬杖をついてアンナをじっと見る。
アンナは相変わらず臆することもなく、背筋を伸ばしている。
「いやだ、といったら?」
「…一人で国元に帰り、ゲルダでしたことを繰り返して国を緑にするだけです。」
へえっ、と言いながら、陛下がチラリと俺を見た。
…?
「お前に3000兵を貸そう。兵糧付きでだ。ハンネスのところにいた若い奴らは使えるだろう。期限は2年間。アルバ国の王城はうちが抑えていいな?役人もうちで送る。若くて能力を持て余している奴らがたくさんいるからな。」
アンナが…椅子から立ち上がって、陛下に膝をついた。
「ありがとうございます。私は…王になります。」
「ふむ。まあいいだろう。力が無かったらつぶすだけだ。」
「はい。」
「それからな…」
にまっと、陛下が笑った。
「力がなくても窮鼠猫を嚙む、ということもある。うちから腕利きの司令官を出そう。ちょうど休暇明けの副将軍がいるんでな。そいつを貸してやる。こいつの期限は…お前が決めろ。」
…え??
「国が落ち着いたら、皇妃と遊びに行ってやる。努めよ。」
「ありがとうございます。」
…えええええっ?
お茶が運ばれてきたので、席に着く。俺も座れと言われたので、アンナの隣に座る。
「そういえば…お前は処女のままあの国に帰るのは危険だろう?また雨乞いで放り込まれたりしたらこまるだろう?私が手伝ってやるか?」
俺は飲みかけた紅茶でゴホゴホと咳き込む。
…陛下?何言いだしてくれるんですか???
「いえ。そちらの方は、もう対処いたしましたので。ね?」
いや…アンナ?俺を見て笑う場面デスカ?デスヨネ。
もう…恥ずかしい…。
あはははっ、と声を出して陛下が笑う。
…もう…俺は両手で顔を隠したけど、多分耳は赤い。




