第66話 F26:お使い Messaggere
「やれやれ、やっと戻って来た」
インスタンス「海月の恩返し」終了で、元の場所に戻される。
「寒いです~。火の加護!」
加護は防寒に多少の効果がある。コート一枚分くらいはあるだろう。
「手間がかかったけど、こっちの時間はあまり経過しないんだよね」
「そうですね。半刻も経ってない感じです」
本当にインスタンスに引き込まれた直後のような気がする。
「あ、略綬増えてます。ちょっと嬉しい」
群青と空色の縞模様に海月のシルエット、感じの良いデザインだ。そういえば、狼退治のとき略綬貰ってないな。何が基準なのか良く分からない。
「綺麗ですね。これから冒険をするに従って増えて行くんですよね」
コーリにとっては三つ目の略綬になる。自力で達成して貰えた略綬だから嬉しいだろう。
「で、コーリ、それは何?」
「オリハルコンの腕輪、持って来ちゃいました。てへっ!」
てへぺろかぃ!
インスタンスの報酬だけじゃなく、拾ったアイテムでも持って返ることが出来るのか、根性あるなぁ
「大分手間取ったけど、依頼を達成しないとだね」
「そうですね。行きましょう!」
お使いの目的地に向かって北西へと進む。
低く薄黄色の草原が続き、所々に樹木が立っている。サヴァンナってこんな感じだっけ?
時間は掛かるけど、途中で出て来るモンスターたちを退治しながらだから、経験値はそれなりに入っているとは思う。
「新しい魔法が発動するようになりました。複合魔法です。この腕輪は基礎能力をアップする効果がありそうです」
複合は属性を二つ以上重ねることで発動する魔法だ。
「シャボン玉!」
コーリの手から複数の泡が放たれ、近くに居た五十センチくらいのツノトカゲを弾き飛ばす。
驚いたのか目から血を勢いよく吹き出しながら、ひっくり返り、黄色のに光りながら消えて行く。
「水と風の組合せです。特徴は敵に当たっても直ぐには破裂しない処です。強度も変えられます。集団戦用ですね」
「使える場面が多いといいね」
「フラグ立てました?」
「ははっ! まさか」
小高い丘の上、樹木が集まっている所に建物が見えて来る。
「あそこだね」
「やっと着きました~」
ホッとして一気に近付いたけど、とても立派な屋敷が建っている。
「何でこんな所に建てたんでしょうね?」
「コーリ、そこは突っ込んじゃダメ」
冒険者ギルドで預かった、箱と郵便を召使さんのような人に渡して終わりだと思っていたのだけど、どうしても主人が会いたいとのこと。
嫌な予感がする。何だか今回イレギュラーが多いからなぁ
応接間に案内されて待っていたのだけど、出て来たのは女主人だ。
なかなかしっとりした感じで、挨拶も手馴れており、若い頃はさぞやといった美人さん。
おば――いや、女主人は話始める。
「今日はありがとうございました。急に必要になったものがありまして、本当に助かりました」
「いえ、ボクたちはこれが仕事ですので、お礼には及びません。依頼についてはこれで終わりと思うのですが、何か問題があったのでしょうか?」
「いえ、そういうことではありません。実はこの屋敷にはひとつ不思議な部屋がありますの」
「不思議な部屋?」
「何か不思議な現象が起こるのでしょうか?」
コーリも首を傾げる。
「以前の持主からの話ですと、その部屋はずっとその状態が続いていたそうです。部屋の外には全く影響がないため放置されていたのです。最近部屋の外でも影響が出てきましたので、確認してみたのですが、全く原因が掴めません」
「どんな状態なのでしょう?」
「部屋には多数の人形が置いてあります。何時からそこに置かれていたのか分かりません。そして――」
「そして?」
「人形を移動させると、いつの間にか元の場所に戻ってしまうのです。部屋の外に持ち出しても同じ状況です」
「それは何かの呪い?」
「良く分かりません。人形自体はとても素敵なものなので、出来ればコレクションとして飾りたいのですが、そのようなことはできません」
「なるほど、それでボクたちに何をして欲しいのでしょう?」
「原因を確認して欲しいのです。原因が取り除けるなら、それが一番良いのですが、あなた方の手に余るようでしたら、本格的に冒険者ギルドに依頼しようと思っています」
「それは今回とは別の依頼となってしまいますが……」
「もちろん謝礼はお支払いします。確認だけで良いのです。原因を取り除こうとして無理をなさることはありません」
ふぅむ、どうしよう……
コーリを見ると、興味が湧いているみたいだ。
頷くと、頷き返して来る。
まぁいいか、とりあえずやってみよう。
こうやって深みに嵌るんだよな~
「分かりました。“状況の確認„ と “原因を取り除けなかった場合の冒険者ギルドへの報告„ ということでお受けしたいと思いますが、よろしいでしょうか?」
「ええ、結構です。無理をして不測の事態にならないようにして下さい」
今日中に帰りたいから、早く済ませたいとは思うけど、時間が掛かったら宿泊しても良いとのこと。
安全第一でやりましょ!
召使さんに案内されて部屋の前まで来る。
確かに雰囲気だけでも分かるほど不気味だ。
「怪しい雰囲気ですね。嫌な予感がします」
コーリも同じように感じているらしい。
「以前、私も部屋に入りましたが、常に同じ場所に同じ人形が居るようになっています。ただの呪いとは思えないのです。女の娘のすすり泣く声を聞いたという話もあります」
召使さんは、よろしくお願いしますと頭を下げて帰って行く。
とにかく対峙するしかないな。
「コーリ、行こう!」
「はぃ」
扉を開く。




