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第62話 M26:薄雲 Nuvola leggera

 建国2年渦月(うず・つき)15日(15/Spirale/Auc.02)

 今日も朝からいい天気だ。今は乾季らしく雨はほとんど降らない。まぁ砂漠地帯だし

 ルノー師匠の所にお世話になってるけど、執事(セバスチャン)さんに長期で居座っても問題ないのか聞いてみた。

 師匠は偶に帰って来るだけだし、一番弟子の人はほとんど帰らないので、居てくれた方がいいとのこと。

 そういうものなのか。


 今日も貰った個室でジョルジュとお茶しながら話をしている。

「ここのお茶は美味しいね。お茶菓子のクッキーも甘味控え目で香が良いし」

「そうですな。ルノー殿はベテランですし、稼ぎもかなりのもので、しかも美食家ですからな」

「そーいえば、こういう嗜好品ってどうやって入手するんだろ?」

「町の北側には個人経営の高級店がありますからな。様々な高級品が入手できます」

「やっぱり稼ぎが重要だなぁ」

「世知辛いのは現実(reale)と同じですな」ポロロン♪

 いや、竪琴(arpa)はいいからさ

「失礼します」

 ドア(porta)の向こうから執事(セバスチャン)さんの声がする。

「はい、何でしょう?」

「お客さまがお見えです」

「え? 誰だろ?」

「これは、何か冒険の香がしますな」ポロロン♪


「こちらでございます」

執事(セバスチャン)さんに案内されて、はるっちとサブが入って来る。

「二人とも、どうしたの?」

「ちょっと、サブから相談があるのじゃ」

「へぇ、何なの? サブ!」

 サブは珍しく神妙な顔をして話始める。

「実は、可愛がっていた猫を亡くして悲しんでいるお姉さんが居るんや!」

「サブやん! 浮気?」

「腕輪はん、ワイは一筋やぁ~」

「ほう、自動起動する幻影(visione)ですか、珍しい」ポロロン♪


「サブと幻影(visione)置いといて、(せつ)から説明するとしよう」

「はるっちさま、置いとかないで下さい」

「サブやん、話はまだ終わってません!」


 女性は、ヌーヴォラ・(Nuvola)レッジェラ(Leggera)という名前で、ちょっと高級な酒場のお姉さん。

 飼っている猫のため、友禅を使って寝床を造り、緋縮緬の首輪に純金の鈴、更にどこへ行くにも連れて行く。

 お客に評判の猫だったらしいのだが、急に死んでしまった。

 とても落ち込んでいるそうな。


 猫は三毛で、名前は “ミケゴロウ„ 

「え、雄の三毛猫?」

「いや、性別不明やな。雌だとは思う」

「雄の三毛猫と申しますのは」ポロロン♪

 ポロロン♪やめぃ!

「クラインフェルター症候群という遺伝子系の病気で、かつそういう毛並の遺伝子を持ってないと発生しません。非常に珍しいものです」ポロロン♪

「でもさ。代わりの猫じゃダメなの?」

(せつ)もそう思うのじゃが、代わりの猫を連れて行っても、いつか死んでしまうと飼う気にならないそうじゃ」

「何とか元気付ける方法はないやろか?」

「死なない猫? ぬいぐるみとか?」

「喋らん動かんで駄目や!」

「鳴いて動く死なない猫かぁ……絡繰(からくり)?」

「ほぅ、絡繰(からくり)猫とな。良いかもしれんのぅ」

「ワイにもワンチャンが」

「サブやん!」

「いや、ワイは……」

 サブ、幻影(visione)の尻に敷かれてないか?

「そうすると」ポロロン♪

「外側の猫の風貌と中味の絡繰(からくり)が必要となりますな」ポロロン♪

 そうするとここに居るメンバーだけでは無理、生産に強い人が必要となる。

伝手(つて)を集めよう」


 ということでカタケルススとディアを呼ぶ。

 幸い二人とも町に居たので直ぐ来てくれる。

 六人では、この部屋は少し狭いかな。まぁお茶飲めるからいいでしょ。

「うむ、なかなか美味しいお茶ですね」

「自分はお菓子が気に入ったな」

「ここの茶葉は上等ですからな」ポロロン♪

 いや、お茶が気に入ってくれたのは嬉しいけど、本来の目的に沿った話しようよ。


「そうですね。猫の外見を造るのはそれ程難しいことではありません」

 カタケルススが説明する。

「材料、つまり毛皮や爪、歯、目に使用するガラス玉などがあれば何とかなります。後は猫の形をした木彫のようなものを芯として外側を付加して行きます。装備品(accessorio)などを付けたいのであれば、それに類するものが必要ですね」

「猫の形をして動くものを造るのは可能。でも自動で動かすのは大変そうだ」

 ディアは絡繰(からくり)について見通しがあるらしい。

「どうして?」

「動力源がない。こっちには電池とかないんだよね~」

「何か他のエネルギー源が必要なのを基にして動かせない?」

「そうじゃ、発条(バネ)みたいなものは使えんかのぅ。サブ! お前も考えんかぃ」

「ワイはそーゆーのは苦手や。でも、本物そっくりに動かんでも、鳴いたり、前脚上げたり、尻尾ふるふるくらいでいいんじゃないか」

「ふぅむ……」

「ディア何かアイデアあるの?」

「モンスター・コア――それも、ゴーレムのコアなら何とかなるかもしれない。エネルギーが尽きた時の交換用として数個は必要になりそうだ。面倒だけど集められる?」

「おっしゃ、ワイが集めたるわ!」

「いやいや、集めるならみんなで行こう」

「三毛にするなら毛皮は三色必要じゃな。爪や歯はも数集めることになるじゃろうし」

「ほぅ、何とかなりそうですね。小拙(しょうせつ)もお供いたします」ポロロン♪


 取り合えず計画(progetto)は動き出す。


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