第57話 F22:キラー・モンスター mostro assassino
「さて、同居後の初仕事だ」
早速、四人の同居人で仕事をする。
「何かいいものあった?」
冒険者ギルドの掲示板で依頼を探している。
「無理をするつもりはないが、せっかくの同居後の初仕事だ。何か面白そうなのがいいだろうな」
サヤが独り言のように言う。
「うむ。四人揃ってる訳だ。収集モノやお使いなどでは物足りん」
ゲッツの言う通り、討伐ものが良いよね。
「これ何か面白そうですよ」
コーリが掲示板にある依頼のひとつを指差す。
「旅立ちの村との間に居るキラー・モンスターの退治?」
「キラー・モンスターって何ですかぁ?」
「えとね。フィールド内で特別にレベルが高く強いモンスターのこと。プレイヤーが不注意で戦ったりすると大抵やられちゃう」
「俺たちがこっちに移動するときには、出会わなかったな」
「馬車で一気に来たからね」
「何はともあれ、ギルドの担当に聞いてみよう」
サヤが依頼を手に持って、ギルドのお姉さんの所に行く。
彼女は丁寧に説明してくれる。
「みなさまは、この依頼は初めてですか?」
「確かに、初めての依頼だが」
サヤが代表して話をする。
「この辺りでは一番危険なモンスターです。初心者たちの安全のために、定期的に依頼を出して排除しているのです」
「わたしたちは、この町でかなり実力を付けているつもりなのだが」
「それについては、信用してますが、かなり強い敵なので……」
お姉さんは少し考えていたが
「そうですね。問題ないとは思いますが、一応マスターとお話してください」
そう言うと、ギルド・マスターの所に案内してくれる。
マスターは難しい顔をして話始める。
「大丈夫だとは思うが、初めてということに一抹の不安を感じる」
「そうですか、マスターがそこまで仰るのでしたら……」
サヤが残念そうに応える。
「いや、万が一にも将来性のある冒険者たちを失うわけにはいかないのだよ」
「マスター、ベテランの方の同行をお願いしてはいかがでしょう?」
ここで、お姉さんからの指摘がある。
「なるほど、ちょうど彼が居るようだしな」
マスターはサヤに説明し始める。
「初心者指導所の教官が連絡のため、こちらに来ている。安全のため彼に同行してもらおう」
お姉さんに案内されて、目付きの鋭いお兄さんが入室してくる。
大きな槍を担いでいる。どこかで見たような……。
「教官!」
「ゲッツ、元気そうだな」
ファズル・ユルドゥズさんか、旅立ちの村、初心者指導所でゲッツの教官だった人だ。
「教官が同行して頂けるのでしたら、安心です」
「はははっ、俺は着いて行くだけだ。基本的に手は出さないつもりだから、自分たちで好きなようにやってくれ!」
ユルドゥズ教官が差し出す右手をサヤがガッチリと握る。
話はまとまって、ユルドゥズ教官を含め五人でキラー・モンスター討伐に向かう。
「俺は保険だからな。居ないものとして行動して良いぞ!」
ゲッツ、サヤ、コーリ、ボクの順で警戒しながら進む。
周囲は森林、旅立ちの村への道――いつか来た道だね。
キラー・モンスターは明日に向かう町と旅立ちの村の間に、ランダムで出現するらしい。
「二重撃!」
オオスズメバチがはじけ、光になって消えて行く。
この辺りは、飛翔モンスターが多いのでサヤの弓攻撃はとても有効だ。
「炎の絨毯!」
フタバアケビを焼き払う。
こいつは結構厄介、他の植物群に紛れて突然襲って来る。
油断してるとダメージを受ける。
「なかなか見つかりませんね~」
「二つの村の間で、ランダムに出現するらしいから、運も必要かも」
「まぁしょうがあるまい。根気よく続けようぜ」
「数日かかる場合も、あるらしいから焦ることはない」
警戒を続けながら、目標のキラー・モンスターを探索していく。
探索を開始してから二日目第三昼刻
「居た!」
やっと見つけた。
「思ったより大きいですね」
体長は5mくらい……大きな角を振り回しながらゆっくり近付いて来る。
「あれって」
「クワガタだよね」
「あぁ、山で捕まえたことがあるぞ」
「サイズの問題だけだな」
「おぃ、お前ら何を呆けてる。あれはオオクワガタだ。手強いぞ」
「よし、行くぞ!」
サヤが気合の入った声でみんなに檄を飛ばす。
「まずは属性確認だな。この辺の昆虫系なら風属性か?」
サヤが黄色に光る矢を取り出す。地属性の矢だな。
「二重撃!」
鋭い音を残して敵に向かった矢は見事に命中し深く抉って弾ける。
「間違いない、風属性だ。魔法は地属性で!」
「分かりました。地の加護!」
コーリの詠唱に反応して、黄色に輝く膜がそれぞれを覆う。
「ダメージは減りますが、ゼロにはならないので気を付けて下さい」
サヤの攻撃を受けた大きなクワガタは、敵意を剥き出しにしてこちらへ向かって来る。
「ゲッツは前で敵を抑えてくれ、ダメには注意だ。アルフィは遊撃で敵の体力を削ってくれ。コーリは回復最優先、特にゲッツに注意して!」
サヤの指示にしたがって夫々が行動する。
ゲッツは前に出て、盾を使って敵の攻撃を受け流しながら隙を見て反撃する。
「刺突!」
鋭く突き出された槍がクワガタの厚い皮に跳ね返される。
「堅いぞ! 長期戦になりそうだ!」
「地の壁」
コーリの防御魔法がゲッツを守るように展開する。
クワガタは角を振り回し、時折角で鋏もうとする。
「むっ!」
ゲッツは暴れるクワガタを往なして、巧みに抑え込んでいる。
かなり腕を上げてるなぁ
移動しながらスリングショットを連射する。
「石の連弾!」
隙を見て魔法攻撃も混ぜて行く。
「堅いなぁ……」
「アルフィ、手数で勝負するしかないぞ! 休むな!」
「分かった!」
後方をチラ見すると、ユルドゥズ教官が仁王立ちで戦いの様子を見ている。
「回復の花々」
黄色の光が周囲拡がり、地には幻想の花々が咲き誇る。
地属性の回復魔法だ。メンバー全員に回復効果がある。
苦闘数時間……第五昼刻から第六昼刻に入る頃
オオクワガタは、片方の角が折れ、厚い皮のあちこちが割れている。
さすがに積重なったダメージでよろけている。
「撃射!」
サヤの地属性矢を使った渾身の一撃がオオクワガタの頭部を貫く。
「やった!」
頭を破壊されたオオクワガタがゆっくり倒れて行く。
「ふぅ、何とかなったな」
オオクワガタの身体が光の粒子になって消えて行く。
「良くやった。こいつが倒せれば、明日に向かう町でもやって行けるだろう」
教官は嬉しそうに笑う。
「ありがとうございます」
サヤがみんなを代表して応えてくれる。
「強くなったな。これからも頑張ってくれ」
お褒めの言葉にみんな笑顔になる。
なんだか周囲から拍手が来ている。
「お疲れさま~、すごかったよ~、頑張った~」
えっと、見物人が十数人居る。
「お前たちは気付かなかったのか、この道は旅立ちの村から明日に向かう町に移動する初心者たちが通るんだぞ。野次馬が出るのはいつものことだ」
「何だか恥ずかしいです~」
「参考物件にされているようだな。まぁ悪いことではあるまい」
「みなさま応援ありがとうございます。これでしばらくは安全です。安心して町へ向かって下さい」
サヤが周囲の人に挨拶する。
教官とはここで別れる。旅立ちの村に戻るらしい。
「依頼も終了だ。町に戻ろう」
ボクたちの初仕事は終了した。
仲間たちと進めるゲームは楽しい。




