第56話 F21:師匠またね Maestra a dopo!
「はははっ! 最近は聞かない話だなぁ」
リネカー師匠は、お茶を飲みながら話す。
アンデッド調査の依頼から帰還した後、リネカー師匠に話した結果だ。
第一夜刻、魔法の灯りの下で、お茶を飲みながら話す。
楽しいひと時でもある。
「オープン時には結構バグあったけど、最近聞かなかったからな」
「以前はあったんですか?」
「うん、落とし穴があって入ったら出てこられないとか、弾き飛ばしたら壁に埋まったとか、アイテム名が文字化けしたとか、何もない空間に閉じ込められたとか……うん、色々あったなぁ。フランスの古い騎士の名前を付けた奴と面白がって方々行ったもんだ」
「遠い目にならないで下さい」
師匠は、気を取り直すようにお茶を一口
「バグはしようがない。必ず出るものだから、素早く対処するしかないんだよ」
「そんなもんですか?」
「あぁ、開発に携わった者なら良く分かっているんだが」
「だが?」
「バグのない開発はできるなどと言った大馬鹿者が居たんだよ。しかも開発する会社の役員にな」
「そんなこと言っていいんですか?」
「もうその会社無くなってるからな。大丈夫だよ」
師匠、笑顔が怖いです。
「さて、ダンジョンの話だが、確かにこの辺でアンデッドが出たというは聞かなかったから、バグは納得できる。しかし、本物のダンジョンは結構厳しいぞ」
「そんなものですか?」
「そうだな。本格的なダンジョンは次の街へ行ってからだ。しばらくはアンデッドは気にしなくていい」
「先の話ですね」
「そうだな。しかし、意外に早いかもしれない」
師匠は少し考えるようにして、ゆっくりと話始める。
「アルフィ、一通りのことは教えた。私もそろそろ冒険に出発するつもりだ。少し北方面に行ってみたいからな」
「そうですか」
「おや? “師匠行かないで下さい„ と泣いて縋って来るかと思っていたが」
「そんな気がしてたんですよ。ここまま、ずっと習うわけにはいかないな。と」
「理解が早くて助かる。私が居なくなったあと、アルフィのパーティがこの部屋を使っていいぞ」
「えっ、いいんですか?」
「あぁ、構わない。ここは合宿できるようになっているしな。頼りになる仲間と暮らしてみるのも悪くないだろう」
「ありがとうございます」
「居なくなるときは、鍵をボックスに入れて、パスワードを郵便に書いて冒険者ギルドに渡せば良い。私が帰って来た時に受け取ればいいだけの話だ」
「分かりました。必ずそのようにします」
「さて、アルフィひとつ言っておく」
「はぃ」
「ここには、一度しか受けられない依頼がある。それをクリアできる実力が付いたら、次の街に進んでいいと思う。頑張りな」
「師匠、その依頼の名は?」
「“火の山の魔女„ だ」
「覚えました」
「この魔女は倒しても必ず復活するという設定だ。しかも、複数のパーティでは参加できない。一パーティのみのクエストだ。一度依頼が終わると魔女が復活するまで、次のパーティは実施できない」
「そんなのがあるんですね」
「今のアルフィには無理な依頼だな。これは長期戦になる。毎回状況が変わるらしいから、細かい注意事項は与えられないが、ソロではまず達成不可能だろう。今の内から良いパーティを見つけて置くことだ」
「心強い同期がいますので、今度相談してみます」
「お前は運が強いな。先が楽しみだ」
建国2年祈月22日(22/Preghiera/Auc.02)第一昼刻
師匠は笑顔で北へ旅立つ。
「これは良い。アルフィに感謝する。落ち着くし、部屋数も十分だしな」
「全くだ。俺は幸運だな。周囲も静かだし、完璧だ」
「あたしは長期に住む場所を探していたので本当に良かったです。経済的にも助かります」
師匠から部屋を使って良いと言われたので、サヤ、ゲッツ、コーリと、みんなを呼んだけど、喜んでくれて良かった。
「今日は初日だから、歓迎会として鍋にしたよ」
リビングの中央にある机に用意する。
「鍋材料も色々用意した。今日は豪華に行こう」
「俺はエールを持って来た。酒が足りんとは言わせんぞ!」
「あたしも用意しました~」
みんなで楽しい夕食にする。
これで拠点も出来たし、みんなと連絡を取り合う手間も無くなる。
夕食後、お茶にしながら今後の事を相談する。
「色んな会社の宣伝があちこちにあるのは面白いな」
「そうなんだよね。コンピュータとか情報通信の関係が多いと思ったけど、意外に生活用品が多いんだよね。家具とか服とか」
「装飾品にも入ってますし」
「これが俺たちの課金分に充てられていると思えば文句も言えん」
「このくらいが良いんでしょうね」
「ボスモンスターが登場するときに提供とか出たらガッカリするもんね」
「さて、話は尽きんが、近況報告と行こう」
サヤが促す。
「まずボクからだけど。師匠からの情報がある」
「ほぅ、それは面白い」
「 “火の山の魔女„ という依頼があって、一回しか受託できないらしい。そして、これをクリアすれば次の町へ行ける実力があるとのこと」
「これは良いことを聞いた。俺たちは、その依頼を目標にして腕を磨けばいいわけだな」
「 “火の山„ って言うくらいだから、火属性のモンスターがいっぱい居そうな気がします」
「とりあえず情報を集めよう。無理して挑んでも全滅するだけだ。これについて聞くことがあればここで情報交換しよう」
「ボクも賛成だね。師匠も今の状態では無理と言い切ってたし、焦ることはないと思う」
「火対策として、水系の魔法や装備を充実させることを優先します~」
「水属性の盾とか有効かもしれんな。探してみよう」
「次は私だな」
サヤはいつも凛々しい。現実はどうなんだろうとつい思ってしまう。人柄ってキャラクタにも反映する。
「次の街について情報があった。ここから西へ7日から10日程度の行程らしい。名前は “冒険者が集う街„ だ。移動も大変らしいが、実力者が揃っているそうだ」
「いよいよ、この世界の腕利きたちに会えるわけか。楽しみだ」
「ここでは、各地の初期拠点からのプレイヤーたちが集まっているそうだ。色々な情報も聞けると思う」
「俺からは、特にはないが、最近感じていることについて話して置きたい」
ゲッツは心構えというか、精神的なことを言うことが多い。リアルでは真面目な人かもしれない。
「このゲームは基礎能力も関係するが、プレイヤー・スキルの影響がかなり大きいと思う。これから先、色々な状況に対応するために、いつもとは違った戦い方を考える必要がある。例えば、ひとり怪我をして戦闘出来なくなった時など、一人欠けたからと言って何をすればいいか分からないでは済まされないからな」
「サッカーのレッド・カードで一人選手が欠けた時みたいだね。事前に検討して心構えを持つだけでも違って来ると思うな」
「あたしが最後ですね」
コーリはゲームを楽しんでるなって感じがする。
「あたしは、みなさんより少し誕生日が遅いし、この辺で頑張って実力を溜めて行きたいと思います。できれば色々な所に連れて行って下さい」
「さて、これからだが、食事について朝昼は個人に任せよう。それぞれの予定があるはずだしな。夜は出来るだけみんな顔を合わせて夕食にしたい。また、依頼などで遠出するときはメモを残しておいて欲しい。心配するからな」
「あ、小さいですけど掲示板を用意しました。ここにメモを貼り付けて下さい」
不思議の同居生活が始まった。




