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第96話、エピローグ


 結局、金をすべて片付けるのは一日がかりの大仕事となった。


 本当に邪神塔ダンジョンは崩壊したのかは、起こるはずだったダンジョンスタンピードが起きなかった時点で確定した。


 カスティーゴに撤退。しかし、ここは一時的とはいえ放棄されたので、俺やクーカペンテ戦士団以外の人間はいない。つまり、邪神塔ダンジョンの崩壊とその後のお宝の事実を知る者はいなかった。


 皆が口を閉ざせば、邪神塔の財宝は存在しないことになるのだ。


「邪神塔は攻略された。それを報告しないといけない」


 ヴィックは言った。


 ウーラムゴリサ王国を悩ませていた邪神塔は消え、今後スタンピードも起きない。


「そうなると、このカスティーゴは復興されずに放置かもなぁ」


 邪神塔に睨みをきかせ、ダンジョンスタンピードの最前線として戦い続けた町。壊滅的被害を出したが、監視対象だった塔がなくなった今、王国としては復興させる意味はほとんどなくなったと言える。


「それで、あんたはこれからどうするんだい、ヴィック?」


 俺が問うと、クーカペンテ戦士団の団長は朗らかに笑った。


「一応、この国に対して報告義務があるからな。その後は、得た財宝を活用して軍を起こそうと思う。故郷を取り戻すために」


 君は?――とヴィックが俺を見た。……うーん、俺ねぇ。


「まあ、冒険者として邪神塔を攻略したってことで箔はついたよな。で、一生食っていくには困らない金も得たし」


 どこかのんびりできる場所で、悠々自適な生活を送りたいね。少し、疲れたから。


「そうか……」


 ヴィックは頷きながら小さく首を横に振る。何か言いたげだね。そんな俺の視線に気づいたのか、彼は言った。


「君がもし、おれたちの仲間に加わってくれたら……と思ってな」


 いや、贅沢は言うまい、とヴィックは苦笑する。


「これはおれたちの国の話だからな。だから、無理強いはできない」

「……」

「もし、気が向いたら、その時は声をかけてくれ。君たちなら歓迎する」

「どうも」


 俺は、それ以上は答えなかった。大帝国とやらに占領されたクーカペンテ国を取り戻す戦いというやつ。確かに、俺には縁もゆかりもない話だ。


 ヴィックと、その仲間たちには友情めいたものを感じていて、困っているなら助けたり手伝ったりはする。だがそれが『戦争』となると、簡単に決められるものではない。よく、考えさせてほしい。



  ・  ・  ・



「やあ、おめでとう、邪神塔を攻略したんだね」


 センシュタール工房。リリ教授のもとへ行ったら、俺が告げるより先にそう言われてしまった。


「成し遂げました」

「はい、お疲れさま」


 教授はすっとお辞儀した。


「長年存在し続けた塔がなくなる、というのもまた不思議なものだ。もう一週間に一回のスタンピードはなく、この辺りも静かになるんだろう」

「まさか、寂しかったりとか?」

「もう『ない』と思うと、感じることもあるという話だ。ただ、ダンジョンスタンピードはなくていい。これでようやく昔に戻ったという話だな」


 そういうものですかね。俺には、いまいち実感のわかない話だ。そもそも、俺はカスティーゴに来て大した時間が経過していないからね。


「それで、あの塔の最後を聞かせてくれないか? ……妖精たちも、聞きたがっている」


 リリ教授の後ろには、すでに工房に住むあらゆる妖精たちが集まっていて、好奇心のこもった視線を向けてきていた。


 ここに初めて来た時は、人間ってことで警戒されていたと思うけど、すっかり馴染んでいるよなぁ。


 というわけで、斯く斯く云々。邪神塔に出た闇の大竜、そしてダンジョンコアの破壊、その一連の話と、財宝の話をした。


「――ふうん、財宝は金か。ふうん」


 反応はいまいちだった。


「妖精は鉱石をあまりありがたがらないんだ。ドワーフもノームも、金にはそれなりの価値は示すが、とりたてて凄いって思わない。むしろ、大竜のほうが興味あると思うよ」

「そうですか」


 金と聞いて、目の色を変えないのは、ある意味ありがたいというべきだろうか。塔全部が金になったとは言わず、小部屋いっぱいくらいと過小に告げたが、これなら本当の量を言ってもよかったかもしれない。


 いや、どこでどう、誰に話が伝播するかわからないから、正確な金の量は、やはり黙っておこう。教授の口ぶりでは問題なさそうだが、無用なトラブルは避けるのが得策だ。


 元の世界で、宝クジで億の金額を当てた人の元に、教えてもいないのに、突然湧いた親族や宗教が寄ってくるなんて話を聞いたことがある。こういうのは臆病なくらい慎重でいいと思う。


「それで、ジン。闇の大竜の素材を見せてくれ!」


 教授は抑えられないとばかりに、催促してきた。倒したあと、ストレージで保管していたやつ、ありますよー。ここに来るまで解体は済ませてきたからね。


 闇の大竜の鱗、爪、牙、骨などなど――


 並べた素材を、リリ教授と妖精たちが手にとり、あれこれ話し合っている。


「その素材で、また何か作ってもらえます?」

「希望はあるかね?」


 教授は、大竜の爪で机を引っ掻いた。あーあー、やめ、傷がつくじゃん!


「俺は、まだ考えている段階なんですけど、何かアイデアがあれば」

「ふむ。素材も大量にあるし、一通り作ってしまってもよかろう」


 リリ教授の発言に、妖精たちが歓声を上げた。


 素材を思い思いに、持ち運びそれぞれの作業台に向かう妖精たち。素材はまだまだいっぱいあるから、妖精たちが好き勝手やっても問題ないが……。この光景ももう最後になるかもしれないんだよな。


「それで、ジン」


 リリ教授は言った。


「君はこれからどうするんだい?」

「晩ご飯の話ですか?」

「邪神塔はなくなった」


 淡々と教授は手にしている爪を眺めている。


「カスティーゴは、もはや町として機能していない。流れ者の君は、もうここに留まる理由はないのだろう?」


 冒険者だから。故郷でもなく、そこに仕事がないとなれば、残るなんて選択肢はない。


「そうですね。ここには、もう来ないかもしれない」

「寂しくなるな。気に入っていたんだがね、君のことは」

「恐縮です」


 俺は頷いた。


「お世話になりました」

「うん。お世話した」


 リリ・センシュタール教授は、俺に目を向け、ニヤリとした。


「でもな、ジン。別にいつでもここに来ようと思えば来れるんじゃないかね? ポータルを置いていけばさ」

次話が第一部最終話になります。

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