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第88話、油断は厳禁


 油断しない、用心しなきゃ、でこれでは、あからさまにフリじゃないかと思った。

 九死に一生を得た俺は、仲間たちと次の41階へと登った。


「休んだほうがいいのでは……?」


 エルティアナは、死にかけた俺を心配してくれた。


「確かに普通なら、大人しく寝とけって話なんだけどな」


 俺は応急処置で穴を埋めた鎧を見やる。……魔力でそれっぽくでっち上げただけなので、見た目はともかく防御性能はおそらく低いと思う。


「大竜の血液入りポーション? あれ、めっちゃ効くな。傷も痛みもないし、ここ数日の疲労もすっ飛んだ感じなんだよ。むしろ、とても調子がいい」


 竜の血の効果って凄いもんだな。実際に、身体が軽くてね。まだ血がわいているっていうか、たぶん落ち着いて眠れないだろうな、これは。


「心配してくれてありがとう」


 そう言ったら、エルティアナは頷いてくれた。でもまだ、どこか不安そうにみえる。


 気を取り直して、先を進もう。もう残り五分の一もないのだ。


 気持ちの問題なのか、そこからは早かった。これまでの応用で迷宮を抜け、モンスターも返り討ち。ポーション飲んでから、やたら調子がよかった。


 ……ただ、こういうノリって、案外危ないものだ。風邪が直ったからもう大丈夫と思って動いたら、ぶり返しちゃうやつに似ている。


 45階。一瞬、塔の最上階に出たかと思った。青空が広がって……いや無数の雷が横方向へいくつも走っていた。


 空に見えたそれは塔内部の壁であり、五十メートルほど上方に天井が見えて、足場があった。


 ただ、俺たちがいる下から天井にいくまでにランダムに雷が走り、轟音を響かせていた。


「……あれを掻い潜れって?」


 無理でしょ……。俺は瞬く雷光から目を守る。ただ通るだけなら、浮遊の魔法でいけばいい。だが雷がランダムで飛んでくるのは、さすがに厳しい。


 さすがのユーゴも絶句しているし、レーティアも雷が轟くたびに顔を逸らしビクリと身をすくませる。

 というか耳が痛い。雷の音は、大の大人だって心臓を掴まれたような苦しさを感じるだろう。


「途中にいくつか浮遊している岩がある」


 ベルさんが、雷鳴の間に言葉を紡いだ。


「盾にしろってことなんだろうけど、たぶん、役に立たないと思う」

「雷はランダムっぽいからね。……魔法障壁かな?」

「それも強めにな。あれだけ至近で直撃したら、気を抜くと一、二発で剥がれる」


 ベルさんは、どこまでも真顔だった。それだけ、この雷がヤバイということだろう。


「そこでオレから提案がある」

「聞きましょう」

「オレとお前以外のメンツはポータルで離脱させろ」


 ベルさんの言葉に、俺はエルティアナやクーカペンテの戦士たちを見回した。


「最終的に、階を突破すればいい。全員がここを抜ける必要はない。ポータルを使えるお前とオレが上まで行ければ、それでおわりだ」


 全員に障壁をかけて、危ない橋を渡ることはない、ということか。……でも結局、俺は行かないといけないわけね。


 できれば、あの雷ゾーンは俺だって遠慮したい。


「というわけで、俺とベルさんでここを突破する。君らはポータルで待避していてくれ」

「ジン、わたしも……」


 エルティアナが言ったが、俺は首を横に振る。


「モンスターがいるわけじゃない。援護はいらない」

「……はい」


 彼女は引き下がった。ユーゴたちも頷いて、了承の態度を示した。

 というわけで仲間たちをポータルで帰した後、俺とベルさんだけが階段そばの床から、天井を見上げる。


「浮遊魔法、そして魔法障壁!」


 雷からの防御を固めつつ、浮遊する俺とベルさん。そこから飛行魔法で、一気に加速。直進して突き抜けるように飛翔。


 前方で雷が(ほとばし)る。……っ! これヤバッ!


 雷が意志を持っているかのような錯覚。まるで雷の蛇がひしめく巣穴に飛び込むような無謀さ。電撃ゾーンに入ったら、、まず間違いなく喰われる!


「ベルさん!」


 雷が突っ込んできた。魔法障壁にぶつかる青白い閃光に、網膜が焼かれるかと思った。そして間近の轟音に耳がいかれた。


 障壁で防いだはずなのに、何故か床方向へ叩き落とされていた。いや、本能的に俺は引いてしまったのかもしれない。


 仕切り直しだ、仕切り直し! いや、無理っ!


 視界がくらくらしているし、音もさっきから雷が鳴りっぱなし。治癒だ、治癒! 異常な部分を回復!

 少しして、落ち着いてきた。その時になって、ベルさんが俺の肩に手を触れていたのに気づいた。いつの間にかそばに戻ってきたようだった。


「大丈夫か!?」

「……ああ!」


 聴覚が戻ってきたようだ。まだ若干ボリュームが小さく聞こえるが。


「雷の直撃は障壁で防げたけど、他にも守らないといけないところがあったわ」


 目とか耳とか。その対策なしで、突っ切るのは自殺行為に他ならない。


「しかし参ったな」


 ベルさんが難しい顔で天を仰いだ。


「オレ様だけなら、何とかいけそうだが……」

「いや、大丈夫だと思う。あの雷ゾーンは抜けられる」

「本当か?」


 俺の言葉に、ベルさんが目を見開いた。俺は、天井近くの足場を指さした。


「馬鹿正直に突っ切る必要はないさ。……あそこまで転移すればいい」

「転移魔法! あぁ、何でそんな簡単な方法を見逃した」


 ベルさんが額に手を当てた。彼にしては珍しい仕草だ。


「じゃあ、さっさと転移しよう」


 というわけで、移動したい先が直視できるので、イメージを重ねて、転移。腹に響くような雷鳴は下から聞こえてくるようになった。


 ……うまくいったようだ。


 そして目の前には、次の階への階段があった。ベルさんも転移で合流し、これで45階もクリアだ。


「一時はどうなるかと思ったが」

「案外、楽だったな」


 ベルさんは笑ったが、俺は苦笑しかない。


「死にかけたけどな」


 さてさて、ポータルを出して、待避させていた者たちを呼ぼう。向こうもハラハラしながら待っているだろうからね。あまり心配をかけるのも悪い。


 このまま、俺とベルさんだけで行ったほうが早そうだと思ったとしても。そういう調子に乗っているところが、大惨事を引き起こすきっかけになることもあるのだから。


 案の定、エルティアナがすごく心配していた。……と魔法戦士のレーティアが教えてくれた。


 エルティアナはいつものように冷静ぶってはいたが、俺たちが顔を見せるまで落ち着きなく、ウロウロしていたらしい。


 クーカペンテの戦士たちに言われ、さすがの彼女も少しきまりが悪そうだった。恥ずかしがってるところも可愛いよ、エルティアナ。

タイトル変更しました。


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