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第78話、防衛線、崩壊


「ワイバーンごとき、大竜に比べたら雑魚だ!」


 とはベルさんの言葉だ。確かにそうなんだけど、比較する対象に悪意がある気がする。


 実際、十メートルは超えないがそれに近いサイズを中量級というらしいが、それでも充分にでかいんですけど!


 相対したら『こいつは雑魚!』という気分にはならないな。


 ただいま、城塞都市カスティーゴは、中量級ワイバーンの大集団による襲撃を受けている。俺は浮遊魔法、その上位、飛翔魔法で空中にあった。


「アースストライク!」


 俺は大竜の魔法杖を向ける。正面から突っ込んできたワイバーンの顔面に、俺が具現化させた大岩が直撃。顔が潰れた飛竜はそのまま高度を落とし、城壁へと激突した。


 飛び散る岩壁の破片、ワイバーンの死体が突き刺さる。いくら空を飛ぶために体の構造が軽めとはいえ、図体がでかい分、投石器から放たれた一撃並の破壊力を見せつける。


 さて、戦果確認はほどほどに。敵機を撃墜した直後が危ない――とは、元の世界の戦闘機パイロットの言葉だったか。敵を撃ち落したと思った時が、一番油断してしまうからだ。


 そもそも空中にいる味方ってのはほとんどいないからな。ベルさんも飛翔の魔法でワイバーン相手に空中戦を演じている。


 敵の突っ込みを、闘牛士よろしくヒラリとかわして、二本の剣で体や翼を切り裂く。

 相変わらずの剛腕だ。すれ違いざまでもあんな簡単には両断できないぞ。逆に跳ね飛ばされるだろう普通は。


 俺の周りに、飛竜が集まりつつある。まずは牽制、ファイアボール特大!


 放たれた巨大火球が、不用意に飛び込んできた一体を炎上させる。翼が燃え上がり、おそらくもう少ししたら墜落するだろう。仕掛けてくるからだ!


「アースジャベリン」


 岩製の巨大スパイクを複数生成。


「行けよ!」


 魔法杖を向ければ、二メートルほどの岩のスパイクがマシンガンよろしく連続で飛翔。ワイバーンの体をミシン縫いのように立て続けに直撃して、叩き落とした。


 ……さすが大地竜の魔法杖。威力も申し分なし!


 飛翔で移動。ワイバーンの飛行針路上に岩の塊を具現化させて、顔面正面衝突を誘発させて、撃墜していく。いくら空飛ぶ化け物でも、脳震盪は効くだろうよ。


 額ではなく顔面というのがミソだ。石頭であっても当たり所が悪ければそれでおしまいだ。……こっちのほうが楽だな。そうしよう。


 一方、町や城壁では、守備隊や冒険者たちが必死に防戦を繰り広げている。

 だが町はすでに入り込んだワイバーンのせいで阿鼻叫喚。人間を喰らう飛竜。破壊される建物。悲鳴が木霊し、血が、壁や地面に飛び散る。


 町にいた頃はただの通行人だったり、あるいは職人だった人たちが犠牲になっている。ふと娼館の、ザーニャさんが無事かどうか気になった。ざわざわと胸の奥がうずく。


 爆発音が断続的に響く。弓を使う冒険者勢が、爆弾矢を使っているためだ。城壁の上では、対飛竜用の槍投射機が引っ張り出されていたが、敵の侵入のほうが早かった。そんな中で活躍しているのが、結果的に俺が流行らせた爆弾矢だった。


 エルティアナや、クーカペンテ戦士団のラーツェルら弓使い、冒険者たちが町に降りてくるワイバーンに爆弾矢を浴びせて、撃退ないし撃墜している。


 城壁の尖塔から弓矢による対空砲火を発揮していた弓使いたち。だがそこへ一体のワイバーンが手傷を負いながら突っ込んだ。


「エルティアナ!」


 尖塔が砕けて、弓使いたちも巻き込まれて……と思ったら、浮遊の魔法具効果で跳躍したエルティアナ、そしてラーツェルがワイバーンを巧みに避けて城壁へ着地した。


 ……ふう、ヒヤヒヤさせられるぜ。


 耳障りな奇声が迫る。俺を喰おうとワイバーンが口を開けた。


「うぜぇよ、お前!」


 強力電撃弾が、ワイバーンの口の中に飛び込みその頭を貫通した。意思を失った巨大な肉塊が地面に落下する。


 ……こっちは飛翔魔法はそこまで慣れてないんだよね。浮遊はさんざんやってきたんだけど。



  ・  ・  ・



 町は地獄と化していた。ワイバーンが腹で着地するように家屋を潰す。倒れていた人に齧りつき、一飲みにする。


 立ち向かう守備隊兵だが、剣や槍のリーチ差から、踏み込むのを躊躇し、逆に噛みつかれた。


 カスティーゴにある教会。一般人や負傷者が運び込まれ、さながら野戦病院の様相を呈していた。


 クーカペンテ戦士団のセラフィーナは、ランベルト神父と共に負傷者に治癒魔法をかけて手当をしていた。


 飛び散った破片を受けて怪我をした者。飛竜の足爪にひっかかれ、肉がえぐられた者……痛ましく、うめきや悲鳴を上げる者も少なくない。だが彼らは軽傷の部類だ。


 重傷者は、腕がなかったり、足が切断されて歩行できなかったり、腹から内臓が出てくるほどの傷を負い、辺りに赤黒い血液の染みを作っていた。


 ほとんど無反応、いやすでに死んでいるのかもしれない。仲間や、冒険者、あるいは守備隊兵が、そういう怪我人を運び込むのだが、その運び込んだ者も戻ってそのまま帰ってこない者も少なくない。


 地上に降りたワイバーンは、それだけでも脅威なのだ。


 助けを求める声、泣き声、叫び声が教会内に響き渡り、手当する者たちの心身に疲労を重ねさせていく。


 セラフィーナも、何度使ったかわからない治癒の魔法で、思考がぼんやりしてきたし、魔法を使ってばかりのはずなのに、服はもちろん手に血がついていた。


「セラフィーナ」


 自分を呼ぶ声に、ハッとすれば、ランベルト神父が見ていた。


「マジックポーションを飲みなさい。このままでは貴女が倒れてしまいますよ」


 はい、神父様――そう応えた時、『来るぞー!』という声と共に、教会出入り口が吹き飛び、駆け込んできた数人が跳ね飛ばされた。


 悲鳴が響く。そして耳障りな飛竜の奇声が鼓膜を震わせた。


「ワイバーン!」


 その声はティシアだった。クーカペンテ戦士団の副団長は、負傷者らを収容する教会の守備に駆けつけたのだ。


 すっかり飛竜に怯えた兵士が我先に逃げ出すのを尻目に、ティシアがレイピアを手に前に出た。首を伸ばして噛みついてくるワイバーンを、細剣ながらうまく逸らしていく。


 だが時間稼ぎだ。かわしていはいるが、飛竜がより前に出てきたら、その分後退を強いられるのは明らかだった。


「ティシア殿!」


 男の声。額に角を生やした剣士が教会に飛び込んでくる。身も軽く跳躍すると、手にした刀で、ワイバーンの首を一刀両断にした。落ちた首がゴトリと音を立てて床に傷を作る。


「リューゾウ殿」


 クーカペンテ戦士団に所属する鬼亜人の剣士だ。


「怪我はありませんか?」

「ええ、大丈夫。助かりました、リューゾウ殿」


 ティシアは礼を言ったが、すぐに眉をひそめた。


「リューゾウ殿は、北門におられたはずでは……」

「もう、あそこに防衛線は存在しませぬ」


 端整な表情を曇らせる鬼の美剣士。


「この町の防衛網は、もはやあってないようなものでございます」

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