第36話、ポータル
転移魔法をより上手く使うために考えてみた。
まず浮かんだのはワープゲート的発想。A点とB点にそれぞれ出入り口を置き、跳躍というイメージだ。アニメや映画で見ているから、俺としては想像しやすい。
いわゆる設置型転移魔法。ダンジョンなどにある転移魔法陣と同じく、ゲートを利用することで、術者である俺はもちろん、他の人間も使えるというのが利点だ。
転移魔法陣と違うのは、地面に魔法陣を描いたりすることなく、時間をかけずに転移ゲートを設置しようってところだな。
ダンジョンで転移魔法陣を見たけど、あれ真面目に描いたらどれだけ時間がかかるんだろうね? 魔法陣が崩れない限りは半永久的に使えるみたいだけど、使えるまでに入念な準備と時間が必要になるのがネックと言える。
意識を集中して、目を開けたら瞬間移動していた程度の手間で、誰もが利用できる転移魔法ゲートをやってみる。考え方としては難しくはない。転移魔法陣をゲートにするだけだ。
SF映画のワープゲートを想像して……。魔力に働きかける。そしてできあがる、発光する魔力のリング。
「ほう……」
ベルさんが、俺が出した魔力リングを見やる。センシュタール工房の裏庭。城塞都市カスティーゴからは死角となっている。
ちなみに少し離れたところで、エルティアナと、好奇心旺盛な妖精が何人か見守っている。
俺は、数メートル離れて、先に出したゲートと異空間でくっつけるイメージで、もうひとつ魔力リングを具現化させた。A点が入口で、B点が出口になるように。
「最初に出したほうに物を通過させれば――」
えいっ、と、適当な木片を投げれば、魔力リングに吸い込まれるように消える。だがほぼタイムラグなしで、もう片方から、先ほど投げた木片が出てきた。ちなみにリングは、横に並べたから、この木片の出現はリングをくぐったのでなければ説明できない。
「こっちのリングから物が出てきますよ……っと」
俺は落ちた木片を拾い、異常がないかを確認。リングくぐっている間に、燃えたり割れたりしていたら怖いからね。
「……問題なさそうだ。成功だ」
ぱちぱち、と妖精族から拍手があがった。
「とりあえず、おめでとう」
ベルさんは相好を崩した。
「なあ、お前ってひょっとして天才だったりする?」
「何で?」
「ふつう、挑戦して一発で成功するもんかね」
想像の賜物、というか、前の世界でワープシーンをいっぱい見て、イメージできたからだと思うよ、今回の例でいえば。……ガキの頃からイメトレだけは一人前だったんだ。若干の黒歴史。
「ベルさんの指導がいいんだろう。魔法に関しては、難しく考えず、できない、とは思わないのがコツだろ?」
「たしかにそう言ったけどさ」
「それに俺だって、失敗することも多いさ。これまで一緒にいて何度もやったろう」
「そうだっけ?」
またぁ、そうやってお惚けになられる。俺が苦笑いしていると、眼鏡っ娘妖精であるリリ教授がやってきた。
「面白いことをやってるね。魔法陣や転移石なしでの転移門か」
「転移石……?」
「魔法具の一種だよ。その石の欠片を持って発動させると、別の場所に置かれた同じ石のもとへ瞬間移動できるアイテムだ」
「へぇ。……このゲートと似てますね」
「まさに。転移石は結構希少で手に入りにくい品だからね。君の転移門は、便利そうだ。……生き物で試したかね?」
「いえ、まだです」
「そうか。なら、うちで飼っている鶏で試そう」
そう教授はいうと、妖精さんのひとりに、鶏を持ってこさせた。そしてさっそく実験。やり方は簡単。片方の魔力リングに、鶏を放り込むだけだ。もう片方のリングから生きたまま瞬時にでてくれば成功。
妖精さんが、おりゃっ、と鶏を思いっきり放り投げた。声を荒げ、バタバタと翼を動かした鶏がリングに吸い込まれ――もう片方から騒がしく出てきた。
おおっー、とギャラリーからの声。すっかり慌てふためている実験台の鶏だが、教授が魔法を使ったらしく、大人しくなった。むんず、とつかんで観察を開始するリリ教授。
「問題なさそうだな。念のため、何回か実験に動物を使ってみて、さらにこの転移魔法を完全にしていこう」
何故か、俺より教授のほうがノリノリなんだが。ベルさんが口を開いた。
「なあ、妖精族にとって転移魔法ってそう珍しいものじゃないと思ってたんだが、違うのか?」
「ん? ああ、自分ひとりとか、他にもうひとりくらいなら、種族にもよるが転移魔法を使える者も少なくないよ」
リリ教授は、しげしげとリングを観察しながら答えた。
「ただ不特定多数の対象を同時転移させるなら、フェアリークィーンとか、限られた上位種族の中の一握りくらいだ。だがらこの転移門は興味深くはある」
と、教授がそろりと手を伸ばした瞬間、目の前でリングが消滅した。
「おい、ジン君。勝手にリングを消さないでくれ」
「いや、俺は何もしてませんよ教授」
たぶん、リングを形成する魔力が切れたんじゃないかな? 肩をすくめる俺を見て、リリ教授は顎に手を当て首をひねった。
「時間制限あり、ということか。常に固定できたら、それこそ遠方からの行き来も楽になるのにな」
新幹線に乗るように、駅から駅へ移動。それも瞬時にできるなら、確かに田舎から首都とか王都へあっという間だ。ベルさんが頷いた。
「ああ、ぜひ固定化するべきだ。そうすりゃ、邪神塔の探索で、スタンピード直前まで探索ができる」
「おいおい、繋ぐのはいいが、ここではやめてくれよ」
リリ教授が腰に手を当てた。
「ダンジョンのモンスターが、あたしの庭を荒らすのは勘弁だ」
「それもひとつの課題だな」
設置型転移魔法は、通過するものを選ばないから、設置場所に気をつけないと、教授の指摘どおり、敵を引き入れてしまうことになるだろう。
ただ、魔法として形はできているので、後は改良していくだけだ。
そんなわけで、俺は、設置型転移魔法――のちの『ポータル』となる魔法を作り上げていくことになる。
さて、転移魔法を進めていく中、いよいよ俺たちは邪神塔ダンジョンを実際に攻略する際に問題になる点の洗い出しと検証を進めていくことになる。何せ探索に何日かかるかわからない未踏破ダンジョンである。
スタンピードを避ければいい、という問題でもなく、こもっている間のモンスター襲撃なども想定しておかないといけないのだ。
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