第34話、三人パーティーも悪くない
俺がカスティーゴにきて三度目のダンジョン・スタンピード。その頃には宿に戻っていて、冒険者ギルドのロバール氏に、依頼達成の報告をしてきた。ギルマスは相変わらず不機嫌そうではあったが、特に文句などもなく報酬をきちんと払ってくれた。……物凄く苦々しそうな顔で。
さて今回のスタンピードは、スライム・カーニバル。圧倒的多数のスライムの群れ――それはさながら川のようであり、はた迷惑なことに城塞都市へと流れてきた。
それ自体が、まるでひとつの巨大なスライムのようにも見えるのだが、個々のスライムが属性や種類によって色が異なっているため、極彩色、ここに極まれり。身体に悪そうな色をしたお菓子の群れみたい。
スライムなんて、火の魔法でちょっと焼けば倒せる――なんてこの世界では言われているのだが、先にも言ったように、複数の属性のスライムが絡んでいるため、火だけでは撃退できなかった。……それでも結構な数のスライムを倒せたんだけどね。触ると引火するという厄介な火属性スライムさんが元気に襲いかかってくるのだ。
基本、スライムは魔法で対応する。物理攻撃は非常に効きにくく、魔法で属性を付加しない限り、倒すのにとてつもない労力を要する。しかも、溶かされたり、火だるまになったり、毒を食らわされたりと、近づいて攻撃する利点がない。
そしてカスティーゴには、多くの冒険者がいる。その中に魔法の心得のある者も少なくなく、ひと通り属性が揃っているので、何の属性のスライムが来ても対応可能だ。
俺も、そんな魔術師たちに混じって、スライム駆除に参加した。もちろん、スタンピード慣れしている冒険者、カスティーゴ守備隊が勝利に終わり、俺もそこそこ活躍したと思うが、特に目立つような戦果ではなかった。おかげ、というわけでもないが、今回のスタンピード直後は、比較的穏やかに過ごすことができた。
週に一回のイベントも終わり、俺とベルさんも、まあまあここでの生活に慣れてきた。先の王家の墓依頼の報酬でザーニャさんに癒やしてもらい、リリ教授の工房に通う。
そうそう、俺はリリさんのことを『教授』と呼ぶようになった。最初は「はい、先生」みたいなノリで返事していたのだが、ふと教授と呼んだところ、彼女はその呼び方が気に入ったらしい。
魔法具やアイテムについての教えを乞う生活。そこへきて、俺の周りでもうひとつの変化があった。
エルティアナだ。彼女が、俺についてくるようになった。
王家の墓ダンジョンで、数日宿を離れた時、彼女はヴィックの仲間にお世話になっていたのだが、何か心境に変化があったようだ。俺が部屋に帰ったら、いきなり抱きつかれたのはさすがに面食らった。まるで、親の帰りを待ちわびた幼子のようだった。
それ以後、俺についてくるようになったエルティアナだが、相変わらず、ほとんど喋らなかった。前々からこんな感じだったのだろうか? ともあれ、教授の工房での約束もあって、ついてきたエルティアナのことを説明したところ、我らが妖精族の先生は、事件の前の記憶や人格を封じてしまっているのかもしれない、と言った。
「つまり、彼女自身が一から作った変わり身というか、別人格だな」
それだけ、本来の人格が深すぎるダメージを受けたということなのだろう。ただ、これまで得た知識や能力などは、覚えているようだった。
精神年齢が一気に後退した、という感じなのか。……それでも一から教育しなくていいのはありがたい。が、完全に彼女の保護者になってしまったなぁ。
「何をいまさら……」
ベルさんは呆れたように言った。
「保護したってことは、そういうことだろう」
ぐうの音も出ねぇ……。まあ、いいだんけどさ。
しかしあれだな。俺とエルティアナの年の差を考えると、従兄弟や兄弟の子供を引き取ったみたいな……。
さてさて、俺は冒険者であり、邪神塔ダンジョンを攻略しようと考えている身だ。
モンスターが跋扈している場にも赴くが、エルティアナがついてくるとなれば、当然、彼女にも危険がつきまとうことになる。元々は冒険者なのだが、果たして今のエルティアナは……大丈夫なのか?
ベルさんと相談していたら、彼女が俺の袖を引っ張った。何事かと思えば、エルティアナは武器を指さしてした。
「私も戦える、そう言うのか?」
そう聞いたら、エルティアナはコクリと頷いた。俺はベルさんに向き直る。
「いいのかな?」
「いいんじゃねえか? 働かざる者食うべからず、とも言う」
ベルさんは他人事だった。エルティアナのことでは、俺が面倒を見ることになっているから、彼からしたらそうなんだけど。
「いざとなれば、守ってやればいいだろ」
そうさりげなく付け加えるところが、何だかんだ面倒見がいいベルさんである。
では、エルティアナの装備を整えてあげよう。ゴブリンの巣から救助した時に、武器を失い、彼女が泊まっていた宿にも予備はなかった。
防具については、双頭竜の素材を、例の時空のカードで作った異空間ストレージに保存しているので、彼女ひとり分の装備を作って揃えるのは可能だ。
武器は、双頭竜の牙を使ったダガーがあるけど……エルティアナって、本職は確か弓使いだったような。
弓は持っていないから、調達しないといけないな。とりあえず買いにいくとして、それまでは先日作った魔法銃を持たせるか。
雷属性の魔石を仕込んだ魔石拳銃、その名もサンダーバレット! 引き金を引けばライトニングの魔法が発動するそれは、ちょっとSFチックな武器かもしれない。まあ、異世界ラノベにもそういうの作ってたキャラもいたし――
いや、待てよ。銃というものを知らない人に、いきなり拳銃を渡して、果たして大丈夫なのか。むしろ、アーチャーなのだから、せめて弓……クロスボウ型のほうがよいのではないか?
うん、そうしよう。俺は改めて、投射武器を製作。もっとも、本物のクロスボウなんて作ったことないし、玩具やゲームでの知識しかないけどね。
そんな俺でもできること。クロスボウの形をした魔石銃を作る。要するにただ形を変えただけで、サンダーバレットと一緒ということだな!
蛇神神殿で手に入れた風のオーブとかいう魔石をベースに、クロスボウを構成する台座などの部品を作る――いや、妖精さんたちがそれらのパーツを作ってくれた。俺もすっかりこの工房の妖精さんたちと馴染んでいるなぁ。
かくて出来上がったのは風の魔弾を撃ち出す魔法クロスボウ、エアバレットと名付けよう。
妖精さんたちが、エルティアナを採寸して、防具を製作。世にも希少な双頭竜素材の装備をまとったアーチャー誕生。……なお彼女は例によって反応が薄かったけど。
同行する以上は戦力になってもらわないと困る。駄目なようなら、街に残ってもらう。 ――そのつもりだったが、試しに魔の森の序盤エリアで魔獣狩りをしたところ、予想以上に好感触を得た。
魔獣に怯むことなく、射手としての腕はよく、またこちらの指示によく従ってくれた。やや人形じみているというのは、戦う分には関係ない。唯一のネックは、大きな声を発しないということ。状況によっては致命的にも成りかねないのだが、まったく喋らない、声を出さないというわけではないので、追々慣れて声を出してもらうようにしてもらおう。
総括すれば、エルティアナの加入は、後方からの援護役として十二分に使える、という評価になる。何だか彼女が忠犬みたいに思えてくる俺である。
実際、エルティアナの変化は、劇的と言えた。喋らない、無表情は変わらないが、自分のことは自分でするようになったし、俺の手伝いや用事も積極的にこなすようになった。
俺のそばを、自分の居場所だと考えているのだろう。ほかに頼れるものがいないから、というのもあるが。ただ、彼女は俺に恩を感じ、そのお返しをするようになったのは、俺としても歓迎すべきことだった。
俺とベルさん、そしてエルティアナは、パーティーを組んで活動するのが、当たり前になっていくのであった。
エアバレットは「英雄魔術師はのんびり暮らしたい」にも登場した魔法武器(1巻発売中)。




