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第28話、新しい装備をもらった


 その日、冒険者ギルドへ行くと、またもギルマスに呼び出された。


「お前、アンデッドもやれるそうじゃないか。実はアンデッド絡みで、重要討伐依頼がきているんだ。お前、ちょっと行ってきてくれ」


 ロバール氏は、まるでお遣いを頼むように軽い調子で言った。アンデッドと聞いて思わず表情に出たのだろう。俺を見ながらギルマスは「拒否するならランク降格な」と言いやがった。……それ、パワハラいうんじゃないかね。


 ま、こういう世界だ。パワハラなんて日常茶飯事だろうよ。現代だって、一昔前までは問題ではあっても、中々取り上げられなかった話だし。


 きちんと高額な報酬が出るようだし、面倒ではあるが、ランク相応の仕事を選んでくれたと思えば、中々面倒見がよいギルマスと言える。……面倒ではあるがな!


 さて、ギルドでの要件を済ませ、俺はセンシュタール工房へと向かった。昨日の、双頭竜の素材の防具を受け取るためだ。正直、これが楽しみで、さっきのロバール氏とのやりとりもさほど苦ではなかったのだ。

 カスティーゴの外に出て、センシュタール工房へ。今日も建物の屋根には、フェアリーの姿があった。


「どうも」


 挨拶したら、手を振ってくれた。……何でこの妖精ちゃん、素っ裸なんだろう。体にあまり『おうとつ』はないんだけど、なんかいけないものが見えている気がしないでもない。


「世の中の生き物を見渡したら、服を着ている種のほうが少数派だろうよ」


 ベルさんが冗談めかした。そりゃ野生動物は服着ないけどさ、人型やそれに近い亜人種族は大半が着ていると思うんだが。


 首をかしげつつ、ノックしたのち中へ。返事はなかったが、鍵もかかっていないし、昨日また来ることは言ってある。


 小人妖精が何やら荷物を抱えて、視界を横断した。特に咎められることもなく、素通りされた。まあ、怒られないならいいや。


「リリさーん! ジンです! おはようございまーす!」


 奥にいるだろうリリに呼び掛ける。すぐに返事がなく、二度、三度繰り返して、どうしたものかとベルさんと顔を見合わせる。

 すると、ギシッと階段のほうから音がした。どうやら昨日と同じく二階にいて、そちらからご登場のようだ。


「……は~あ。聞こえてるよ……」


 どうも寝ていたところを起こしてしまった様子。眠そうな声は、いささか艶やかな響きだった。


「おはようございます、リリさ……」


 そこで俺は絶句した。ハンマーでぶん殴られたような衝撃。階段から降りてきたのは、茶色い長い髪の、グラマラスな全裸美女――


 全裸ッ!?

 なんで? というか、誰!? 


 髪をかきながら、眠そうな目を美女は向けてくる。


「やあ、君か。早いな、そんなに防具が待ちきれなかったのかな?」

「え、リリさ、ん? えぇ……」


 その声、喋り方は昨日あった少女の姿をした妖精族そのもの。その顔立ちはリリによく似ているが大人びていて、彼女のお姉さんかと思ってしまった。


「ああ、この姿か。すまんね、慌てて起きてきたもので、気にしてなかった。言ったろう、アタシは妖精族で……」

「あの、服を着てください……」


 とても、かなり、刺激が強すぎる。その立派なお胸さまはF、いやGはありそうで……いやいや、それを含めてもうHなシルエットに、俺の愚息が起きてきた。



  ・  ・  ・



「いや、済まなかった。妖精族は割と、衣服に無頓着なヤツが多くてね」


 カラカラとリリは笑った。昨日に比べて、表情が豊かになっている気がする。ただ眼鏡は着用するようで、着ているものも昨日の野暮ったいローブではなく、いかにも魔女といったドレスだった。胸元、谷間! ふとももチラリのミニ!


「そもそも妖精は魔力と密接に関わっている種族でね。自分の姿を変えたり消えたりは、呼吸をするようなもので、アタシも特に姿についてこだわりはないんだ」


 やたら色っぽいんですけど、今日のリリさん……。思わず『さん』付けしたくなるそのお姿。


「それで、防具だったね。安心したまえ。職人たちが仕上げてくれたよ」


 リリが指し示すと、そこにいた五人ほどの小人たちが手を挙げた。目深に帽子を被った髭の小人たち……この人たちは、ちゃんと服を着ている。


 と思ったら、ひとりだけ上着を着ていないのがいて、ボディービルダーさながらのマッチョボディを披露した。……この人たち、服の下はみなこうなのだろうか……。


 それはともかく、双頭竜の素材を使った防具が、机の上に並べられた。竜の鱗を貼り付けたベストのような胴体防具。同じく鱗を使った腕甲、(すね)当て。元から青味を帶た灰色だったが、いいね、これ好き。

 さっそく防具を試着する俺に、リリは言った。


「あと、君からもらった素材を使って、いくつか作ってみた。よかったら使ってくれ」


 双頭竜の牙を使ったと思われるダガーが二本と、腕に巻きつけて固定するタイプの小型盾バックラー


「これ、もらっちゃっていいんですか?」


 ダガーを手に取る。牙を削って刀身にしているようだが、文字のようなものが刻まれている。これは魔法文字かな?


「ひょっとして、この魔法文字、毒とか出るように細工してあるとか……?」

「いや、そんな機能はない」


 ばっさり否定された。しかし――と、リリはその細い指を顎に当てた。


「面白いな。刺したら毒が流れるとか」


 ……言い出しっぺは俺なのだが、凶悪な武器だなそれ。


 あ、それはそれとして――


「リリさん、魔法文字に詳しいですか?」

「君は、アタシを馬鹿にしているのかい? 魔法具職人だぞ」


 知っていて当然だろう、と言わんばかりに、その立派なお胸を張った。愚問だったかも、と思いつつ、俺は異空間収納から魔法文字の辞書と思われる発掘品を取り出した。


「遺跡で見つけたものなんですけどね。図があるので何となく理解できる部分もあるのですが、きちんと読めないので怖いところもありまして」

「ほうほう……大昔の文明のものだね」


 リリは眼鏡をかけ直した。その目つきが鋭くなる。


「アタシたちが使っているものより、さらに古いね。ただ根っこの部分は同じだから、解読するのは難しくないだろう」

「そうですか」

「まったく。君は本当に面白いね。ひょっとして、魔法具に興味があるのは、これを持っていたからかな?」

「ええまあ。……自作できたら、と思いまして」

「よしよし、ならアタシの魔法具の作り方も教えてやろう。……その代わり、この本、少しの間、貸してくれ。君の問いに答えられるようにしておくから」

「……わかりました。お願いします」


 貸すことに、ちょっと躊躇いがあったが、今のままでは宝の持ち腐れ感もある。専門家に解析してもらうと思えば悪くはない。代わりに魔法具を教えてもらえるなら、お釣りはくるだろう。


「それで……これからどうするね? 予定がないなら、さっそく魔法具の話をしてもいいが」

「あいにくと、ギルマスからクエストを遂行するように言われまして」


 本当に残念ではあるが、無視するわけにもいかないからね。偉い人に逆らうと、ろくなことがないから。

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英雄魔術師はのんびり暮らしたい2巻、4月10日発売予定。こちらもよろしく。

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