36話 ギルバートとドラゴン
南の森にドラゴンが出た。
すぐに討伐隊が組まれ、討伐に向かうことになった。
ドラゴンはS級の魔物。非常に強く、危険だ。
討伐はA級冒険者に任される。
もちろんS級冒険者のギルバートもだ。
B級の冒険者も実力によって選ばれることがある。
その中でも勇者アルクは必須メンバーらしい。
「アルクがいると、聖剣が使えるからね!アルクさえちゃんとできれば楽に討伐できると思うよ。」
「聖剣、、そんなものがあるの?」
聖剣とは、歴代の勇者に受け継がれている剣だ。
聖の属性があり、魔王はこの剣でないと倒せないとのことだ。
魔力を込めることで斬れ味が増すので、
普通の剣では刃が通らないドラゴンも、聖剣ならば一刀両断できるらしい。
チート武器だ。
「王都付近でドラゴンが出たのは100年ぶりくらいになるのかな?その時は勇者もいなかったし、討伐するのにかなりの犠牲者を出したよ。」
30人以上のA級冒険者で討伐隊を組み、
時間をかけて少しずつドラゴンを消耗させて行ったが、強力すぎるドラゴンのブレス攻撃により、何人もの犠牲を出したそうだ。
「その討伐はギルバートもいたの?」
「ああ。もう100年も前のことだ。あんまり覚えてないんだけどね、、っ!」
「どうしたの?」
「いや、ちょっと一瞬頭痛がしただけ。」
「大丈夫?」
「うん。大丈夫。あー、ドラゴンね。何か大事なことを忘れてる気がするんだけどね、思い出せないや。」
「100年ぶりですものね。」
100年も前の事を覚えている方が逆にすごい。
「ドラゴンは、聖剣を持ってるアルクが中心になって戦うの?」
「ああ。僕とか他の攻撃魔術師がサポートしながらね。」
「攻撃魔術師、、私もそのうち戦うのかしら。」
「ああ。魔術師のサモンドだ。いつか必ず戦う。もちろん何度もね。魔王が復活したらドラゴンなんてゴロゴロ転がってるからね。」
「ゴロゴロ、、、それで世界は大丈夫なの?」
「ああ。多少はブレスで燃やされちゃう街もあるだろうけど、世界が終わる程でもない。」
「街が、、、そんなに簡単に、、、!?」
「魔王が復活してる時期は仕方ないよ。でも先代勇者は、ドラゴンをサクサク斬ってたなー。懐かしいなー。聖剣でズバッと一刀両断。アルクもそろそろ、ちゃんとできるかなー?」
「ドラゴンを一刀両断、、、そんなことできるの?」
「アルクがちゃんと鍛えてればね。うん、実に不安だな。一発で仕留められなかったらブレスが来るからね。ドラゴンのブレスだけは本当に危ないから、何があってもとにかく勇者だけは守らなきゃなんだよ。」
「ねえ、もし勇者に何かあったら?世界はどうなるの?」
「勇者の変わりは誰も務まらない。聖剣が使えないからね。もし死ねば世界が終わる。」
「世界が終わるってどういう事?過去に勇者が死んだことは?」
「あるよ。記録が残っているものだと、2000年前、勇者は魔王に敗れ、殺された。次の勇者が魔王を倒すまでの間、世界は魔王に支配された。地上は魔物に占拠され、生き残った人族はごく僅か。他の種族は、地下シェルターや、森の聖域、結界のあるエルフの里でひっそり暮らして、次のサモンドが揃うのを待ったそうだ。」
なんだか怖い話になってきた。
とにかく、勇者は死んじゃいけないらしい。
「ま、今回のドラゴン討伐はエルフも沢山いるし、大丈夫でしょう!」
ギルバートはパンっと膝を叩いて立ち上がった。
「ギルおばちゃん、あーそーぼ!」
「うん!何して遊ぶ?」
「鬼どっとー!」
「鬼だぞー!食べちゃうぞーー!ガーーーー!!!」
カプカプカプカプ
「違うのー!!ほっぺ食べないで!走ってちゅたまえるのー!」
「あ、そうなの?じゃあ、まてまてーー!」
「キャーー♪」
「捕まえた!」
「キャーー♪どぅるどぅるしてー!」
「そーれ!ぐるぐるーー!!」
「キャーー♪」
ガシャーーーーーン
「「あ、、、、」」
「自分の家の家具でしょ。私は知らないわ。」
「うん!気にしない!ぐるぐるぐるーー!」
「キャーー♪」
パリーーーン
その夜、紗奈が電池切れを起こすまで、
2人は家中を走り回っていた。
ーーーー
翌朝、ギルバートはアルクらとドラゴン討伐に出発した。
「じゃ、行ってくるね。南の森は近いけど、相手はドラゴンだからね、少し時間をかけるかもしれない。
日帰りできなくても、僕が留守の間も鍛錬を怠らないようにね!」
「わかったわ。気を付けて!」
「いってらっちゃーい」
その日はエマと紗奈と薬草採取に行った。
「リサは薬草採取、好きよねー。」
「天気が良い日は薬草採取に限るわ。紗奈も走り回れるし、この辺に出る魔物は弱いし。」
「完全にピクニック感覚ね。」
「はーちゃん、おととであしょぶの好きー!」
紗奈は私が魔術で作ったゴーレムを上手に操りながらお人形遊びをしている。
「サナちゃんの魔力操作も上手くなったわよねー。」
「ほんと、遊びながら学ばせるギルバート流の指導方法は面白いわよ。子供の扱いも上手いし、あの人、幼稚園の先生とかに向いてそうね。」
「本人が遊び心を忘れてないからね。それに、実際先生だったらしいわよ。前世で。」
アルクに前世の事を聞いて怒られた教訓から、
ギルバートの前世について敢えて私から聞いたことはない。
ここにきて初めてギルバートの前世の話が出てきた。
「なんか、教え子を守ろうとして死んじゃったらしいわよ。」
重いやつだ。聞かなくて正解だった。
「ギルさんとアルク、そろそろドラゴンの所に着いた頃かしら?」
「近いって言ってたものね。そんな近くにドラゴンが現れるのも驚きだけど。」
「アルクの奴、上手くやれてるかしら?」
「ギルバートが付いてるから大丈夫よ。」
ーーーー
その日の夜は、ギルバートは帰って来なかった。
「ギルおばちゃん、帰ってほないねー。」
「そうね。ドラゴンだから時間がかかるかもって言ってたし、明日には帰ってくるんじゃないかしら?」
「帰ってきたら、また鬼どっとするんだー!」
「家具、壊さないでね、、、」
この時既に、ギルバートは、
二度と鬼ごっこができない事態になっていたらしい。
ーーーー
ギルバートが帰ってきたのは翌日の夜だった。
アルクに肩を貸りながら。
片手に松葉杖をついて。
「ただいまー!無事帰ってきたよー♪」
「全然無事じゃない。」
ギルバートの左脚、膝より下が無くなっていた。