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転移ママの異世界奮闘記  作者: 平館 あや
第5章 『冒険者活動』
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35話 森の異変

「夜の見張りは交代制よ。」


夜の見張りももちろんある。2時間交代だ。

基本的に眠気の少ない比較的楽な時間を弱者が、深夜、一番辛い時間帯を強者が担当する。


「初めはエマとリサが2人で。次が私、その次がアルク、明け方までがブルースで良いかしら。」

「わかった。」

「良いぞー」

「りょーかい!」

「ok!じゃあリサ、私が色々教えるわね。」


夜の見張りは単純だ。

ただただ、眠らず、敵が来ないか警戒する。

単純だが、深夜ともなれば睡魔との戦いだ。

2時間ただボーッとしていると眠くなる。

もっと危険の高い場所での野営は必ず二人一組でやるそうだ。


今回の私の順番は22時〜0時。

エマと二人で話していればすぐに終わる。

もちろん警戒は怠らないが。


「リサ、体調は大丈夫?」

「大丈夫よ。全く辛くないわ。こっちに来てからつわりも本当に無いの。今回の妊娠がたまたまそうだったのか、この世界の環境のせいかはわからないけど。」

「なら良かった。くれぐれも無理しないで。なんならすぐに王都に帰るし。」

「ありがとう。」

「ところでさ、リサはアルクの事、どう思う?」


唐突にガールズトークが始まった。



色々話しているうちに、私たちの見張り番は終わった。


見張りをララと交代して眠る。

床に敷いてあるのはエマ持参の黒い布。

前に魔術師のローブをオーダーする時に私が選ぼうとして止められた生地だ。


「物理軽減の効果が付いてるから、床に敷くのに良いのよ。寝転んでも痛くないでしょ?」

「あ、ほんとだ!」


ペラペラの布なのに、石の転がる土の上でも痛くない。

普通に敷布団で寝ている感覚だ。


「これ、ピクニックのレジャーシートにいいわね。」

「冒険者ならみんな持ってるわよ。これはただの痛くない布だけど、サナちゃんのローブに使った生地なんか、耐寒、耐熱効果も付いてたし、色もピンクで可愛いんじゃない?」

「買う!絶対買う!」


これで薬草採取ピクニックがより楽しくなりそうだ。


ーーーー


魔道具生地のお陰でぐっすり眠れた。

夜中に獣二匹がにゃんにゃんしているような声が聞こえた気がしたが、きっと森の獣だろう。

決して満月の夜に、人狼が狼になったわけでは無いと思う。



朝、携帯食を食べながら森に向かう。


「朝ご飯、これだけ?」

エマが不満そうに言う。


「おにぎり持ってきてたでしょ。」

「昨日食べちゃった。」

「エマ、いつも計画性なさすぎ。その辺で木の実とかウサギでも捕ってきなさい。」

「はーい。。」

と言うと、エマは1人走って森に入って行った。


それから数分後。


「うさクマゲーーット!」

ウサギを探していたらラビットベアに遭遇したらしい。

大型犬サイズのウサギを抱えて誇らしげに戻ってきた。



「こんな浅い森にC級か。アルク、どう思う?」

ブルースがアルクに問いかける。


ラビットベアは本来、森の深いところに生息しているそうだ。

私たちのいる浅い森の入り口にいるような魔物ではないらしい。


「南の森がB級以上の魔物に荒らされてるのかもな。」

アルクが言った。


今いる森からさらに南に行った深い森、通称 “南の森” に強い魔物がいて、C級のラビットベアが追い出されたのでは?という推測だ。


「1匹見かけただけでは判断し難いわね。」

「そうね。もう少しこの森を散策しましょう!とりあえずこれ、食べていい?」

「うさクマは高く売れるからダメ!」

「えー。。」


ララ、がめつい。だ。


ーーーー


2時間ほど森の中を散策した。


「ラビットベアが8匹か。ほぼ確定だな。」

「もう持てない。。」

「とりあえず王都に戻って報告しましょう。」


どうやら異常事態らしい。


「リサ、悪いんだけど今日の探索はこれでお終いでいい?」

「それは良いんだけど、そんなに危険な状態なの?」

「危険よ。」

「リサさんはあっさり倒してたから実感わかないんじゃないか?」


ラビットベアは全て私が倒した。

離れたところからファイヤーアローで脳天直撃だ。


「この森は本来EF級の魔物しか出ない領域よ。そこにC級の魔物が8匹。もしF級のパーティが遭遇したら1匹でも致命的でしょうね。」



『キャーーー!』『うわーーー!!』

遠くで叫び声が聞こえた。


「あっちだ!」

私たちは叫び声の方に向かって走った。



「見て!あそこ、うさクマ!」

「ファイヤーアロー!!!」


ラビットベアを確認したところで火の矢を放った。

狙い通りに頭に刺さり、ラビットベアが絶命した。


「リサ、ナイス!」


エマ達が襲われていた人達の方に走って行った。



「っつ!!」

走ったせいだろう。お腹が張る。


(ちょっと良くないわね。。)


お腹の張りは妊婦にとって天敵だ。

思わず座り込む。


「大丈夫か?」

アルクが腰をさすってくれた。


「少し休めば良くなるわ。でも今は無理しない方が良さそう。」

ここは正直に言わないといけないところだ。

紗奈の時は無理して流産しかけた。


自分で回復したい所だが、妊婦に治癒魔法は使えない。

胎児の成長にどんな影響があるかわからないからだ。

しばらく休ませてもらおう。



しばらくすると、ララがこっちに戻ってきた。


「リサ大丈夫?」

「少しお腹が張ってるくらいよ。そっちは?」

「女性の方は無傷よ。でも男性の方はお腹を大きく切られて意識がないわ。エマの治癒魔法で表面の傷は塞げたけど、どうかしら、、」


「そっちに行くわ。私が治癒魔法をかければ少しは良くなるかも。」


エマの治癒魔法は初級、私は中級だ。

そう思い立ち上がろうとすると、


ふわっ


アルクにお姫様抱っこをされた。


「ちょっ!!恥ずかしい!!」

「子供優先だ。お腹の魔力が弱ってるだろ。」



ほんの数十メートルをお姫様抱っこで運ばれた。

みんながこっちを見ている。恥ずかしい。


「このお姫様がラビットベアを倒した魔術師だ。」

ブルース。変な紹介はやめてくれ。


「エマ、代わって。私が治癒魔法をかけるわ。」

「お願い。」

「お願いします。。」


私が治癒魔法をかける様子を、

思わず守ってあげたくなる程可愛い小動物のような女性が、潤んだ瞳で見ていた。


「彼、私をかばって。。」


聞くと、2人は恋人同士らしい。

15歳になってすぐに2人で冒険者になり、初めて訪れた森でC級のラビットベアに襲われたらしい。


普段はEF級の魔物しか出ない森だ。

不運としか言いようがない。


「っかはっ!!」

男の方が血を吐いた。

「ベル!!」


「大丈夫よ。内臓を少しやられてたみたい。喉に詰まっていた血が出てきたの。ちゃんと中まで傷を塞いだわ。」


ここまでの怪我人に治癒魔法をかけたのは初めてだ。

正直、目を覚ますか不安だ。

魔力を探り、他に悪い所がないか探す。


「魔力的には大丈夫だ。」

アルクが言う。


アルクの魔力探知力は群を抜いている。

彼がそう言うのなら大丈夫だろう。



「アルクがそう言うなら大丈夫ね。早く王都に帰りましょう。」

「じゃあ俺が彼を運ぶ。」

ブルースが男性(名をベルントと言うそうだ)を背負う。


「リサもアルクに負ぶってもらいなさいね。」

「え、でももう大丈夫よ?」

本当だ。お腹の張りは治っている。


「でもダメ。アルク。」

「うっす。」

無理やり背中に乗せられた。


ちなみに9匹のラビットベアだが、

ララ3体

エマ3体

ブルース1体

アルク1体

持っている。

小動物っぽい女性(名をソフィアと言う)も1体

持たされている。


ララがどうしても全部持ち帰ると言い張ったのだ。

大型犬サイズだ。

男性でも両脇に一体ずつ持つのがやっとだ。

持てない分はみんな頭の上に紐でくくってある。

見た目はかなり間抜けだ。


「私が歩けば私もラビットベアが持てるんだけど、、」

「「「ダメ!」」」

「重力魔術を使えば楽に、、」

「「「ダメ!」」」


『妊娠は病気ではない』は通じなくなってしまった。

ホワイト企業だ。


ーーーー



王都に戻ってきた。


ラビットベアに襲われて意識を失っていたベルントも帰り途中で目覚たので、ソフィアとベルントとはギルド前で別れた。


5人でギルドの報告カウンターに向かう。


「イーファーの森でラビットベアを9体発見したわ。サウンズの森からの北上が疑われる。サウンズの森の調査を勧めるわ。」

「わかりました。上へ報告いたします。」


エマがそう言うと、美人受付嬢はメモを後ろの職員に渡した。


ちなみに、イーファーの森とは先程までいた浅い森で、サウンズの森が南の森だ。


「ご報告ありがとうございます。他にご用はございますか?」

「今回の討伐結果よ。」

と言って、エマは討伐確認部位の詰まった袋を差し出す。


「精算します。討伐報酬とラビットベアの買取金の割り振りは、ご希望ございますか?」


この世界の討伐記録は、討伐数(討伐経験値)、討伐報酬金をそれぞれパーティで好きなように割振れる。

基本的には個々が実際に討伐した数の歩合か、人数で均等に割るものだが、討伐経験値をランクを上げたい人に割り当てて、ランクを上げさることもできる。

お金も同様だ。


今回の討伐報酬は事前に、討伐経験値は全て私に、討伐報酬金は7割をブルース夫婦、私、エマ、アルクで1割ずつもらうことに決めていた。

エマとアルクの利益がほとんど無いが、2人は私のランクを上げたいからそれで良いと言って聞かなかったのだ。


「では、討伐報酬の割り振りを反映します。冒険者カードをこちらにお願いします。」


美人受付嬢は5人のカードを受け取ると、パソコンのような魔道具で一人一人に報酬を付けていく。


冒険者カードにはマネーカードの機能もあり、報酬金はこのカードの中に入る。

私がエマから最初に受け取ったマネーカードの中身も、冒険者カードに既に移植済みだ。


「リサ様、今回の討伐で、D級にランクアップされました。おめでとうございます。」


私は薬草集めだけで、E級一歩手前まで来ていたが、まだF級だった。

一回の探索だけで二階級アップだ。

うさクマ9匹の効果は絶大だった。



ーーーー


昼過ぎ、ギルバートの家に着く。


「ただいま戻りましたー。」

「ママ〜おたえりー♪」

「早かったね?帰るのは夕方くらいかと思ってたよ。」

「それが、色々あったの。」


私はラビットベアの北上の話をした。


「なるほどね。たしかに南の森は最近異常が多い。魔物の大量発生も頻繁だし、魔物の変死体も見つかってる。調査隊を組もうかという話も出てはいたけど、今回の報告で決定だね。今日明日には調査隊が入ると思うよ。」

ギルバートは腕を組みながら言った。


「それにしても、ラビットベア9体か。リサは頑張ったね。でもちょっと無理しすぎたんじゃない?お腹の子も疲れてるよ。今日は早めに休みなさい。次からはC級以上の魔物は他のメンバーに任せるんだよ!」


ギルバートは魔物討伐を適度な運動だと思ってる感じだが、C級は別物らしい。

ギルバートは私の肩をモミモミしてくれた。

実家の母を思い出した。

サンキューマム。



南の森の調査が終わったのはそれから3日後のことだった。



南の森を脅かす生物は、ドラゴンだったそうだ。


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