第十話「星が見えた夜」
その夜は、特別によく星が見えた。
空気が澄んでいた。
風がなかった。
晴琉が来た。
天窓の下に、二人で並んだ。
「今夜は、特別によく見えますね」と晴琉は言った。
「今年で一番、見えます」と美那は言った。
「何の星ですか、あれは」と晴琉は聞いた。
美那が答えた。
一つずつ、答えた。
晴琉は、星の名前を聞きながら、美那を見た。
「あなたは、星を見る時、嬉しそうな顔をしますね」と言った。
「好きなので」と美那は言った。
「何が好きなんですか」
「星は、正直だから」と美那は言った。「嘘をつかない。何百年も前から、同じ場所にある。変わらない」
「変わらないものが、好きですか」
「変わらないものと、ゆっくり変わるものが」と美那は言った。「星は、ゆっくり動いています。何百年かけて、少しずつ変わっています。それが好きです」
晴琉は、また星を見た。
「俺は」と言った。「あなたのことが、好きです」
「知っています」と美那は言った。
「知っていましたか」
「星が、教えてくれました」と美那は言った。
「星に、全部見られていましたか」
「全部ではありません」と美那は言った。「でも、大事なところは」
晴琉は、美那を見た。
「あなたは」と言った。
「私も」と美那は言った。
先に言った。
「……聞く前に言うんですね」と晴琉は言った。
「星に、先が見えていたので」と美那は言った。
晴琉は、笑った。
美那も、笑った。
星が、空に広がっていた。
何百年も前から、そこにある星が。
ゆっくりと動きながら、そこにある星が。
二人は、星を見ていた。
天窓の下で、並んで、星を見ていた。
選んだ。
二人とも、選んだ。
星は、見ていた。
ただ、見ていた。
(第十話 了)
星読みの女――後宮に咲いた恋 完




