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優しさに毒されて



「お待たせしました」

「……」

「レオンハルト様?」


 賭け事が一段落した(あれから少なくとも3分はやってた)ため、隣の部屋へと行ったけど……。

 レオンハルト様に声をかけると、背中を向けて椅子に座っていた彼がこちらへ顔を向けた。と思いきや、そのまま固まってしまわれたわ。あれじゃあ、腰を痛めると思う。


 声をかけても、ボーッと私を見ている。そして、あの2人が賭けたように顔を真っ赤にして黙ってしまった。……からの、右手で顔を隠して「天使」と一言。

 後ろでは、片方の女性がガッツポーズをしてるけど……天使って何?


「あ、あの……。お待たせしました。大丈夫ですか?」

「……は!? はい、すみません。大丈夫です」

「このネックレス、選んでくださったとお聞きしました。とても素敵です」

「……気に入っていただけましたか?」

「はい、とても。よかったら、買い取りたいのですが……」

「い、いえ! プレゼントです!」

「でも、こんな高価なもの私には……」


 きっと、肌の白いソフィーの方が映えると思う。ブルーの瞳とも合うし。私の淡い緑の瞳には、そんな合わない気がするけど……。


 レオンハルト様は、戸惑う私に手を差し出してきた。


「お似合いですよ。行きましょう」

「……どちらに?」

「まだ3時間経ってませんので、もう少しお付き合いください。怪しいところには連れて行きませんので」

「ん、ん……はい」

「ありがとうございます」


 私は、レオンハルト様にならって着付けやメイクをしてくれた……ハンナ様とアンナ様という双子らしい。その方にお礼を言って、お店を出た。

 支払いはどうしたのかしら。アンナ様の方に聞いたけど、「いいのいいの、貴女はオルフェーブル様に付いて行ってあげて」とのこと。……支払いは?


 よくわからないまま、彼に手を引かれてどこかへと向かって行く。どこに行くのかしら。

 久しぶりに着飾ったせいか、少しだけワクワクするわ。まるで、シンデレラね。魔法が解けるまで、少しだけ楽しんでも良いかな。



***




「わっ、レオンハルト様っ! 白鳥さんがいっぱいです!」


 あれから、私たちは町外れの湖に来た。

 足元が整備されてるから、歩きやすいわ。久しぶりのヒールだけど、足が全く痛まない。


 それより見て、この白鳥さんの大群!

 この時期、こうやって白鳥さんが集まるんですって。真っ白な身体が太陽に反射して、湖の水面とともに輝きを放ってくるの。そのコントラストが、私の心を弾ませてきた。


「ふふ、そうですね」

「あっ、今こっち向きました! レオンハルト様っ、白鳥さんがっ」

「ふふ、可愛いですね」

「あっ……ご、ごめんなさい。私ったら、はしゃいでしまって。うるさくしてすみません」


 私がはしゃげばはしゃぐほど、彼はホッとしたような顔して、景色じゃなくてなぜかこちらを見ている。……白鳥さんの方が面白いのにな。


 その視線で冷静になったけど、私ったらもう少し落ち着けないの? 周りにはしゃいでる人なんて、誰も……というか、人が少ないわ。ここは、景色を見るのに最適な場所ね。街中のような騒々しさがない。


「いえ、先程よりもっと好きになりました」

「私もです。白鳥さんがこんなに綺麗で優雅なんて、知らなかったです」

「私は、ステラ嬢の話をしたつもりでしたが……でも、白鳥もそうですね」

「……え?」

「ベンチがありますので、座りましょう。お腹は空いてないですか?」


 レオンハルト様は、こういうことをすぐ言う……。どこまで本気なのかわからないわ。私を揶揄ってるの?

 でも、心の奥でそうじゃないことはわかってる。じゃなきゃ、今の今まで私と一緒に居てくれることへの説明がつかない。

 でも、わかってるけど、脳がそれを拒絶してくるの。


 異術持ちじゃありません。長女とは名ばかりの、本邸にも入れてもらえない出来損ないです。

 そう口にできれば良いのに、いつの間にか彼に幻滅されることを恐れる自分が居る。汚い私を隠してるのに、それでも彼と話したいってこと? それはダメよ、私。


 私は、ベンチに座らず、彼をまっすぐと見つめた。


「どうして、レオンハルト様は私にお優しいのですか? 美しい女性なら、ほかにたくさん居ます。もっと着飾りがいのある方も居ますし、こうやって一緒にどこか出かけても私はお世辞ひとつ言える器量はありません。なのに、なぜ……」

「それは、貴女に好意を持っているからです。他の女性じゃダメなんです」

「……私は、貴方の名前とご職業、それに、そのお優しい性格しか知りません。そう言われましても、ここが苦しいです」


 本当は、こんなこと言ったら空気が悪くなる。せっかく着飾ってこうやって散歩に連れて行ってくださっているのに、私ったら。

 でも、一度口から出た言葉は止まらない。


 ダメと分かっていながらも、サラシの取られた胸元を手で隠し、押さえきれなかった謎の痛みを主張した。油断したら泣きそう。

 すると、そんな私に向かって、レオンハルト様が跪いてくる。


「……レオンハルト・オルフェーブル。侯爵家の長男で、将来は爵位を継ぐ者です。騎士団では大佐の階級を所持しております。癒しと攻撃に特化した2つの異術持ちで、一応国家資格も所持しておりますので日常生活でも使用できます」

「えっ、異術持ち……」

「後出しになってしまい、申し訳ありません」


 彼は、まるで呪文のようにスラスラと言葉をはいてきた。思わず聞き逃しそうになったけど、異術保持者だったのね。しかも、2つって相当珍しいわ。

今までに、風の便りで1人だけそう言う人がいることを聞いたことがある程度だもの。


 そっか……。私とは別世界のお方だ。

 ますます遠くに感じちゃうな。やっぱり、彼は雲の上のお方だわ。

 なら、ちゃんと誤解されないように伝えなきゃ。私は、異術持ちではありませんって。貴方に相応しい人間ではありませんって。なのに……。


「私は、異術持ちではありません。異術持ちは異術持ち同士で婚約することが、国から推奨されていると思います。こんなことまでして、私は遊びですか?」


 それだけを言うつもりだったのに、私の口からは意地悪な言葉も一緒になって出てきてしまう。


 嫌だ。

 こんなこと言いたいわけじゃないのに。きっと、レオンハルト様は幻滅したでしょう。失敗したわ。


「ステラ嬢」

「はい……」


 私は、彼の発言を待った。

 何を言われても、仕方ない。このドレス代を支払うだけのお金は用意しないと。すぐに立ち去れるよう、準備を整えないと。


 魔法は、どうやらここまでのようね。

 自分で解いてしまうなんて、馬鹿な私。



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