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彼が好く理由


「私は、異術持ちではありません。異術持ちは異術持ち同士で婚約することが、国から推奨されていると思います。こんなことまでして、私は遊びですか?」


 そんなことを言いたかったわけじゃない。

 なのに、私の口から出てくるのは棘のある言葉ばかり。せっかくここまで良くしてくださったのに、恩を仇で返してしまった。


 今まで、白鳥の羽音や風のせせらぎが耳を心地良く掠っていたのに、それすら聞こえなくなっている。


「ステラ嬢」

「はい……」


 なのに、レオンハルト様の声ははっきりと脳に響いてくるわ。

 それを聞くたびに、胸が鋭く痛む。このまま、心臓発作になって消えてしまいたい。


 自分で魔法を解いてしまうなんて、滑稽な私。

 しかも、ここにきて彼の優しさがなくなってしまうことに対する恐怖が湧き出てくるなんて。


「半年前、ステラ嬢は王宮に居ましたよね。庭園のベンチに座って、読書をしていた」

「半年前……。ああ、発行した爵位継続証明書待ちで時間が余ったので、空いていたベンチに座ってました。その時でしょうか」

「はい、恐らく。ちょうどそこを通りかかって、私の視界に入ったのです。そしたら、本を読んで微笑む貴女に釘付けになって……。遠征帰りで疲労が溜まっていたのですが、貴女の微笑みを見て全て吹き飛びました。たまに周囲の花に視線を向けて挨拶したり、通りすがりの子どもに本を読み聞かせていたり、ずっと見ていても飽きませんでした」

「……やだ、恥ずかしい。見られていたなんて」

「覗いてしまったのは、本当に申し訳ありません。気づいたら、ずっと見ていてしまい……」

「いえ、あそこはフリースペースですから」


 まさか、そんな……。恥ずかしすぎるわ。

 確かあの日は、爵位の継続証明書をいただいたのよね。ソフィーが風邪を引いてしまって看病に忙しかったようでお父様もお母様も行けなかったから、私が代わりに行ったの。


 無事クリアしていて嬉しかったけど、それをお屋敷に持ち帰っても誰も見向きもしなかったな。

 私のしたお仕事が認められた証だから、自分自身は喜んだわ。でも、みんなには爵位よりも異術持ちの方が重要だったみたい。


 それはそうよね。

 異術持ちが1人お屋敷に居ると、王都から助成金がもらえるの。異術は、国家資格を持てば日常生活で使えるしそういうお仕事につけるから、その支援のために。

 金額も、かなりいただけるらしいし。きっと、お仕事よりもいただいているのね。


「しばらく王宮で貴女を探しましたが、結局見つからず……。ベルナール伯爵のご令嬢と判明したため、人生で初めて招待状を持って婚約パーティーに出席させていただきました。しかし、姉妹と聞いていたのにベルナール伯爵にお伺いしてもソフィー嬢を勧めるばかりで……。ステラ嬢は、あのパーティーにいらっしゃらなかったのですか?」

「……王族から許可が必要なダンスホールのパーティーですか?」

「はい、1ヶ月程度前に開催されたものです」

「……婚約パーティーとして、招待状が来ていたということですか?」

「ええ、パーティーの2ヶ月前には私の元に届いていました」

「そうですか……」


 その話は、薄々勘づいていたもの。知らないふりをしていたのに、やっぱりそうだったのね。

 今更どうこう騒ぐつもりはないけど、お屋敷の人たち全員私を揶揄ってたってことが確定してしまった。そうよ、本邸から追い出された人間が、あんな豪勢な場所で祝われるわけないじゃないの。ちょっと考えればわかることなのに。


 わかっていたことなのに、改めて知ると何故か涙が出てくる。期待してしまった私が悪いのでしょう。

 嫌だわ、人前なのに。メイクだって、せっかくしてもらったのに落ちてしまうじゃない。そうやって泣かない理由を挙げてみるけど、涙は止まらない。


「なにか、傷つけるようなことを言ってしまいましたか?」

「いえ、そんな……。なんでもないんです」

「そういうお顔じゃないですよ。話してみてください」

「……いえ、たいしたことではないんです。ただ、そのパーティーは本当は私の誕生日会だったんです。そう聞いていたのです」


 いつの間にか、レオンハルト様が立ち上がっていた。立ち上がって、でも、私の手はしっかりと握ってくれている。それが、とても安心するし、涙腺が壊れたかのように反応してくる。

 昔はこうやって、ソフィーと手を繋いで寝たな。どうして、こんな風になっちゃったんだろう。


 というか、こんな酷い顔、レオンハルト様には見せられないわ。

 ただでさえ醜いのに。映えない顔だって、お母様に散々言われて……。せめて、彼の視界に入れないようにしましょう。

 でも、手は離したくないなって思っちゃった。私はワガママね。


「……私はまだ、貴女のことを何も知りません。ですが、何か不遇な扱いをされているように感じます」

「そんなことはありません。毎日不自由なく生活していますわ」

「私は、貴女に救われた人間です。だから、もし貴女が苦しいと感じているなら、その場から連れ出したい。今日だって、貴女が礼儀作法の話をしている時のお顔がとてもお辛そうで……。なにか楽しいことで塗り替えられないかと思いこうして連れ出してしまいました」

「……夢のような時間をいただいて幸せです。お気持ち、とても嬉しいですわ」

「ステラ嬢、私は本気で話しています。何があっても、貴女が拒絶しない限りお側に居ます。だから、夢だなんて言葉で片付けないでください」

「……では、ひとつお願いをしてもよろしいでしょうか」

「なんでも」


 レオンハルト様と繋いだ手は、酷い泣き言を聞いた後も変わらず温かい。私は、それを信じてみたいと思った。

 この1年たくさん裏切られてきたけど、考えてみたら彼に裏切られたことはない。それって、別で考えないと失礼よね。だから、信じてみようかなって。


 私は深呼吸をして、涙でぐしゃぐしゃになった顔をレオンハルト様へと向けた。


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