間違ってないこと
ステラ視点に戻ります
この日……アカデミーに通う日を迎えるまでに色々ありすぎた。
ちょっと長くなるけど、聞いてくれるかしら。
ベルナールに戻る日、住まわせていただいていた宮殿へのご挨拶はもちろん、お父様お母様の裁判に嘆願書も提出してきた。
私への虐待に対するのがメインの裁判だったから、別に取り下げても良いって言ったのだけど、なぜかフィン様やリリー様、メイリン様に猛反対されたのよ。その方達だけじゃなくって、レオンハルト様にラファエル様、ルワール様……とにかく、ものすごかったわ。
嘆願書も不要だって言われたけど、実の親だし今まで育ててもらった恩はある。これからどうするかはまだわからないけど、それだけははっきりと言えるからとりあえず提出してきたって感じ。もちろん、お仕事に関することには嘆願書は書いてない。
そうそう、そのリリー様たち3名のメイドさんなんだけどね。
なんとびっくり! 私のメイドとして、ベルナールで働いてくれることが決まったの。もちろん、レオンハルト様のところに嫁ぐ時は、オルフェーブル侯爵を雇い主にしてついてきてくださるとか。そんなことできるの? って聞いたんだけど、「ねじ込みます」って言ってた。……ねじ込むって、何?
ちなみに、他のベルナールの使用人は全員解雇されたとか。
私の虐待を見て見ぬふりしたからだって、レオンハルト様から後で聞いたわ。マーシャルだけは違うって訴えたけど、彼女から「辞めます」と言われたんですって。なんだか、申し訳ないことをしたな。
そんなこんなで宮殿からお屋敷に戻ってきたら、知らない使用人ばかりでびっくりしちゃった。
全員、レオンハルト様とラファエル様の面接を通過してきた人たちって聞いたけど……お2人とも、お仕事してる? 「それはもう、とても楽しそうに面接をされていました」とフィン様から聞いちゃったんだからね。
「大神官様より、とても貴重な異術であるとお伺いしております。ステラ嬢に見合った異術の授業はありませんが、宮殿でお受けいただいていた教養関連は充実しております故、そちらをメインにカリキュラムを組むと良いでしょう」
「はい、スティファン理事長様」
「わからないことがあったら、遠慮なく聞いてくださいね。もちろん、ここは集団生活ですのでレオンハルト君のご婚約者であっても、贔屓はしませんよ」
「贔屓……? お食事のお肉が他の方より多いとかですか?」
「ふっ……ふふ。ふはっ! そういう贔屓でしたら、食堂のスタッフに言ってみてください。いつでも熱々のお肉を提供してくれると思いますよ」
「は、はい」
そして、今。
異力量を安定させられるようになった私は、陛下から「アカデミーに通いなさい」とのお達しに従いアカデミー生活を送るため学園を訪れていた。今日から、寮生活! 使用人たちに見送られて……いやあ、大変だったなあ。
まあ、それはともかく、ここに通う人たちは全員異術持ちなんですって。
国中の異術持ちが集まっているからか、とても人数が多く見える。年齢層も幅広いわ。私と同い年の方もいれば、お父様お母様の年齢の方もいらっしゃるって感じ。
レオンハルト様もラファエル様も、ここの卒業生なのね。そう考えると、ワクワクするわ。今、理事長室で地図を見せながら話している理事長様は、レオンハルト様が在籍中は教員だったのだとか。「教え子のレオンハルト君」って言われた時はびっくりしちゃった。
でも、わからないから早速聞いた質問に笑われてしまったのはなぜ?
いまだに、理事長様は肩を震わせて笑っている。
「レオンハルト君が君を選んだ理由がよくわかりました」
「……?」
「ふふ。この学園には多様な性格の学生さんがいらっしゃいます。いろんな方と対話するのも、社会経験を積むことと同義です。ぜひ、授業の合間にたくさんの会話を楽しんでくださいね。授業以外も学びの場ですから」
「は、はい! 精進いたします」
「君の妹さんは、この時間帯ならダイニングルームで食事をしてると思います。行ってみては?」
「あ……。はい、そうさせていただきます」
すごいわ、理事長様は。
学生がどこに居るのかがわかるのね。今から探そうと思っていたところだったから、手間が省けた。……あ、目色が違う。赤く光ってるってことは、今のは異術かな。
私は、理事長様に一礼して、早足でダイニングルームに行った。……もちろん、ガッツリ道に迷って3人に場所を尋ねてしまったわ。私って、こういう迷路みたいなところが苦手なのよね。
でも、そのおかげでソフィーの気持ちを理解できた。
だって、ダイニングルームに入ろうとしたところで、中の会話が聞こえてきたから。
なんだか、ソフィーが他の方に責められているような気がする。今来たばかりだから状況がわからないけど、あのままだとヒートアップしちゃいそう。
『お姉様の悪口は止めて!!』
そんな中聞こえてきた声は、昔のソフィーのものだった。なんでも意見を言い合って、お互いの好き嫌いを言い合って、たまに衝突して……懐かしいな、ソフィーに異術が宿る前の話ね。あれからずいぶん遠い存在になってしまったけど、不思議と「話しかけにくい」とは思えない。
貴女は、異術のせいじゃなくて両親のせいで怯えていたってことで良い? 今の言葉が本音だって思って良い?
そうだ。
昔、お人形遊びしていた時のお辞儀をしてみましょうか。それに笑ってくれたら、私の考えが間違っていなかったってことで。
そうと決まれば、話しかけて……いえ、待って。あれはあれで、会話が成り立ってるのかも。
でも、他の人静かすぎない? もしかして、他の人が話している時は、こう言う公共の場だとしても静かにしていないといけないマナーがあったり? さっき、理事長様に聞けばよかったわ。
「あ、あの」
「なんでしょうか」
「すみません、みなさま静かなのですがどうされたのですか?」
「最近編入してきた方ですか? あのご令嬢たちは、いつもああやって他人に難癖つけて遊んでるような人なんです。みんなターゲットにされないよう黙ってるだけで、好きで静かにしてるわけじゃないですよ」
「そうなんですね」
「まあ、言われてる方もツンツンした性格の人だから、敵が多いんでしょうね。貴女も、ああいう人たちとつるまな、い方が……あら、もしかしてご兄弟とか? お顔が似ていらっしゃるわ」
「教えてくださり、ありがとうございます。妹なんです。可愛いでしょう?」
「……いや、貴女の方が」
マナーがよくわからなくて戸惑ったから、とりあえず隣でその会話を見ていた女性に話しかけてみた。すると、丁寧に教えてくれたわ。
やっぱり、人に聞くって悪いことじゃないのね。賢くなったわ。アカデミーって、授業以外にも学びがあるって本当だった。理事長様にも、お礼を言わないと。
その方……後に、親友になるマリアン・ルゼットという女性に一礼した私は、そのままダイニングルームの奥へと歩いていく。
最初に、挨拶。挨拶……。
「ごきげんよう、皆さま。今日も良いお天気ですわね」
こうして、お人形遊びの時にやっていたお辞儀をしたの。
笑ってくれたら私の考えが間違ってなかったってことだと思ったのだけど……なぜか、ソフィーは笑いながら泣き出してしまった。
そんな反応を想像していなかったから、どうしたら良いのかわからない。嫌がってるような感じではないのはわかるけど、どういうことなんだろう。
今まで会話をしていた人に尋ねようと……って、いつの間にかいなくなってるし! 「ごきげんよう」で会話を締めるのが、マナーじゃないの!?
「と、とりあえず私もご飯一緒に食べて良い?」
「……ええ。ええ! 待ってて。注文の仕方があるの。お姉様は座っててよ! すぐ迷子になるんだから。どうせ、ここに来る間も2人以上に道を聞いたんでしょ」
「さすがソフィー! 正確には、3人ね」
「威張ることじゃないわ! ……ふふ、あはは! 待っててよ、消えないでよ!」
「わかったわ。あ、待って」
そういえば、注文の仕方までは教えてもらってないな。
なぜかはしゃぐソフィーが、私を無理矢理席に座らせてきた。
涙を拭ってあげようと思って出したハンカチが、虚しく手の中に収まっている。「お料理冷めちゃうから、早く食べて」って言えないお姉ちゃんを許してね……。
あ、そうだ! そういえば、理事長様から教えていただいたことを伝えないと。
「何か嫌いなものがあるの?」
「いいえ、理事長様に教えてもらったの。スタッフさんに「お肉を多くして」ってお願いしたら多くしてくれるのですって」
「……」
「ソフィー?」
「お姉様!」
「は、はい!」
「今までごめんなさい! お姉様は、私の自慢のお姉様だわ! 本当に、本当にずっと大好きだからね!」
「……わ、私もごめんなさ「お姉様は何一つ悪くないから謝らないでちょうだい」」
お肉の情報を教えると、なぜかソフィーは大粒の涙をボロボロとこぼしながら大きな声で……それこそ、ダイニングルームに響き渡るんじゃないの? って思うほど大きな声でそう言ってきた。
それに萎縮してしまった私は、恥ずかしさでハンカチを握りしめながら謝罪の言葉を紡ぐ。いえ、紡ごうと思った。
ソフィーったら、そんなにお肉が好きだったのかしら?
初耳だわ、覚えておきましょう。




