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「自分が」と言わない人たち



 アカデミーでの寮生活は、私にとって苦痛でしかなかった。


 決まった時間に起床して、ご飯を食べて、寝てって監獄と何が違うのか理解ができない。

 まだ、監獄の方が良かったかも。私が苦痛を感じているのはそういう生活面だけじゃないし。


「あら、ソフィー嬢。お家が爵位剥奪になったとか。愛しいレオンハルト様に助けを求めてはいかがでしょうか?」

「ちょっと、何を言っていらっしゃるの? レオンハルト様は、ソフィー嬢のお姉様であるステラ様とご婚約したばかりでしょう」

「おほほ、私としたことが忘れていましたわっ!」

「お茶会で散々自慢していたプレゼントだって、お姉様から盗ったものでは?」


 と、今まで私に媚びへつらっていた令嬢たちが、手のひら返したように嫌味を言ってくるようになったの。散々、私の異術を意中の相手に使ってほしいと何度も何度も頼み込んで来ていたのに、そんなことも忘れてしまったのかしら。

 しかも、わざわざダイニングスペースで夕飯を摂ってる時とか人が多いところに来て大きな声で喋っていく。こういうところが苦手な人が、他にもいるらしい。以前、そんな噂を聞いたことがある。


 というか、お茶会で自慢をしていたのは違うじゃないの。

 貴女たちが勝手にそう言いふらして、収拾がつかなくなったから話を合わせただけ。まさか本当にお姉様から盗ったものだなんて言えないし、「自分のものだ」と言った手前、うちの使用人たちが「着てください、お似合いです」と言えば断れない。

 自分の首を自分で締めて、馬鹿みたい。本当、何がしたかったのか。


「レオンハルト様が、特定のご令嬢に熱をあげるなんて有り得ませんもの」

「そうよ、みんなのレオンハルト様でしょう」

「メアリー嬢だって、きっと憤慨してるわ」

「カリナ嬢なんて、寝込んだって聞いたわよ。可哀想に」

「もしかして、貴女のお姉様も誰かからレオンハルト様を奪ったのではなくて?」

「お似合いだわ、盗人姉妹で「お姉様の悪口は止めて!!」」


 だから、監獄の方が良かったかもって思ったのよ。

 あっちの方が、静かでしょう。


 自分が悪いのは分かっていたから、スルーしようと思った。でも、私のせいでお姉様も悪く言われるのは耐えられない。

 私は、みんなが居るのを分かっていながら、大きな声で相手に向かって怒鳴った。


 しんと静まり返ったダイニングでは、漏れなく全員がこちらを見ている。お皿やフォークのカチャッという音すら、聞こえてこない。

 こういう静けさは望んでないのだけど……うまく行かないな。あれも嫌、これも嫌って。


「……お姉様は、貴女たちに悪く言われるようなことをしていないわ。言いがかりは止めてちょうだい」

「な、何よ、いい子ぶって」

「貴女のご両親、牢屋に入れられてるんですってね。ご立派ですこと」

「私のお家では、真似したくてもできないわ。爵位剥奪も」

「本当! 貴女と同じアカデミー出身だなんて、みんな恥と思っているでしょうね!」


 正直、両親が捕まってホッとしたのは事実だった。お姉様に矛先が行かなくなったら、次は私の番だって思っていたから。

 まさか、あそこまでやるとは思っていなかったのよ。話を聞いた時は、青ざめたわ。


 レオンハルト様たちが来た時は、正直なところホッとした。これで、全部が終わるんだって。

 なのに、彼も騎士団長も第二王子も、お姉様しか保護してくれなかった。結局、あの人も先生たちと同じだったってことね。みんな、お姉様だけしか「保護」しないなんて、失望以外の何物でもない。

 次は私がああなっても、きっと誰も止めてくれる人は居ないでしょう。捕まってホッとしたわ。爵位があろうが無かろうが、私には関係ないし。


 それもあって、神殿で会った時に無視してやったの。

 片や綺麗に着飾って幸せそうなお姉様を連れて、片やお父様お母様に怯えて弱まった異術を駆使して生きるのに必死だった私。正直、お姉様が憎くて仕方なかった。だから。無視したのに……心は全然晴れなかった。むしろ、どうしてこうなってしまったのか虚しくなってその晩は1人で泣いたわ。


「ちょっと、何か言ったらどうなの?」

「みんなに迷惑をかけたのだから、謝ったらいかが?」

「そうよ、みんなが迷惑したんだから」

「……」


 どうして、私が貴女たちに謝るの?


 お姉様やレオンハルト様たちに謝罪をするのは、わかる。目の前に居たら言葉が出てこないかもしれないけど、謝罪する意味はわかるわ。

 でも、なぜ彼女たちにそれをしないといけないのかがさっぱりわからない。アカデミーの理事長は、このまま通っていて良いと言ってくださったし、寮長様だって「何かあったら言うのよ」と優しく迎えてくださって……。ああ、そういう人たちに、私は感謝の言葉ひとつ言えたことないな。お姉様にも。


 今、お姉様は何をしてるのかな。

 また綺麗になって、私を置いてっちゃうのかな。それは、ちょっと悲しいかも。


「……なっ!?」

「え、似……」


 ここから謝らずに部屋へ帰るには、どうすれば良いのかな。


 そんなことを考えていると、前で私に絡んできていた令嬢……嫌だ、名前が出てこない。その令嬢たちが、言葉を詰まらせた。

 冷めたご飯を前に下を向いていた私は、不思議に思って顔をあげる。すると、私を見て、いえ、私の後ろを見ながら驚愕の表情で固まっているわ。どうしたのかしら?


「ごきげんよう、皆さま。今日も良いお天気ですわね」


 不思議に思って後ろを振り向くと、そこにはなぜかアカデミーの制服に身を包んだお姉様が立っていた。


 以前のようにふわふわな髪を披露して、まるで機械のような寸分違わない動きでこちらに向かってお辞儀をしている。それがまた、チグハグすぎて笑ってしまいそうになった。

 嫌味とかじゃない。この動きは、お姉様が良く抱いていたぬいぐるみでお人形さん遊びをした時のものだわ。それが懐かしくて、笑ってしまったの。

 


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