「娘」
ブレスレットの重さが正常に戻った後、私たちは庭園へと足を運んだ。
第三王子が「クリスマスローズが綺麗なんだよ」って言って案内してくださってね。
本当に綺麗だった! 他で見るよりも、赤さが鮮明で葉が大きいの。まだ成長途中とのことだったから、このまますくすく育って欲しいわ。
その赤さを見て、私は首元に手をやった。
レオンハルト様の用事で立ち寄った時に見た、真っ赤なバラを思い出したの。その時は、彼からもらったネックレスが首にあった。でも、今はそれがない。目の前に同じ「赤」があるのに。それが、少しだけ寂しい。
私がお屋敷に行きたい理由は、それもあるの。小屋に落ちてたら良いなって。
「はー、スッキリ! ありがとう、ステラ嬢」
「い、いえ、こちらこそ……」
「なんか、暗い感情よりも明るい感情の方が異力の質が高い気がする」
「それは俺も思った。大神官殿があまり口を開かないから、謎が多いよ」
「だねえ……。でも、ステラ嬢が元気でよかった。最近会えてなかったもんね」
「お仕事、忙しいんですか?」
今は、ベンチに座って一休み中。
なんでも、陛下から書類が発行されるまでは帰れないのですって。「少しお付き合いくださいますか?」って言われて即答しちゃった。
昨夜、頼まれていた刺繍を全部完成させちゃって暇してたのよね。昨日やっておいて良かった。
……でも、質問を間違えたかもしれない。
右隣に座る第三王子は、私の質問を聞いた途端にサーッと顔色を青くした。ついでに言うと、左隣に座っているレオンハルト様は、何やら黒いお顔をしてるわ……。これは、何?
「忙しいよなあ、ラファエル。俺とステラ嬢の噂を流しまくって、仕事は溜め込んで!」
「は、はは。だって、メアリー嬢が」
「仕事をしろ。お前のせいで、俺が忙しいんだよ」
「いいじゃん。煩悩退散」
「うるせっ! 仕事はちゃんとやる!」
「え、ど、ど……」
しかも、私を挟んで喧嘩を始めてしまうし!
喧嘩するほど仲が良いって言うけど、私を挟まずにやってほしい。どっちを味方すれば良いのか、わからないし。
とりあえず、下を向いていましょう……。
あ、蟻さん発見。
この辺りに巣でもあるのかしら?
「で? お2人さんはどこまで行ったの?」
「ぶっっっっっ! おい、ラファエル!」
「いいじゃんいいじゃん。ね、ステラ嬢教えてよ」
「あ、はい。最近は、神殿まで同行してくださいました」
「……」
「……」
「あ、あの……?」
第三王子の質問に答えただけなのに、なぜかお2人ともピタッと止まってしまった。
もしかして、蟻さん見てたから質問を聞き逃した?
別のこと言っちゃった? え、聞き直しても不敬にならないかしら。いえでも、聞いていないってことがそもそも不敬だわ……。
「ぶはははは! ステラ嬢、最高ぉ!」
「はは、癒されますね」
「……ごめんなさい。聞いてること、違いました?」
「あってるあってる。何も間違ってないよ」
「ほ、本当ですか?」
「本当〜。ねえ、レーヴェ」
「合ってなかったとしても、このドクズの話は聞くに値しませんから」
ドクズって、第三王子ですけど!? なんなら、騎士団の団長さんでしょう?
口が裂けてもそんな言葉言えないし、そもそも私はそう思ってない。やっぱり、お2人は仲が良いのね。なんと言っても、軟禁する仲ですもの。
私は、お腹を抱えて笑うお2人を見て、ホッと一息ついた。
気分を害してはいないみたい。良かった。
あ、そうだ。
ラファエル様に聞きたいことがあったんだ。
今、聞いても良いかな。
「あの、第三王子」
「ラファエルって呼んでくれないと、返事しませーん」
「……ラファエル様」
「はーい、ラファエルでーす」
「わっ!」
「おい、ステラ嬢に抱きつくな!」
「それより、何?」
話しかけるとすぐに、ラファエル様が私に向かって抱きついてきた。距離が近くて、窒息しそう。
それにプラスして、反対側からはレオンハルト様が抱きついてくるし。
これ、なんて拷問かしら……。
私は、ちょうど通りかかった庭師のおじさまに「助けて」と念を送ったのだけど……。
なぜか、おじさまはにっこり笑って親指を立ててどこかに消えてしまわれた。助けてよ!
「あ、あの……。お父様お母様はお元気でしょうか? ソフィーは神殿で見かけたのですが、ちゃんとご挨拶もせずにここにやってきてしまったので少し心配で」
「あー……。元気だよ。先日、預かり証の延長申請で君の屋敷に行ったし」
「そうだったんですね、ありがとうございます。私のことで、何か言っていませんでした?」
「特に。娘のことをよろしくって言ってたよ」
「娘……。そうですか、ありがとうございます」
お父様お母様が、私のことを娘って?
ってことは、異術が宿ったことを聞いたのね。
嬉しい。娘って言われたのが、とても嬉しい。
私は、そのことで舞い上がってしまって、お2人が暗い表情をしているのに気づかなかった。
気づいたのは、それから数週間後。
レオンハルト様に異力のコントロール方法を学び、安定してきた時のことだった。




