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聞き覚えのある声



 神殿は、想像していた100倍は存在感のあるところだった。

 なんというのかしら、大きな柱がたくさんあって、とにかくすごい。……語彙力が欲しいわ。


 私とは違い、一緒についてきてくださったレオンハルト様とルワール様は平然と神殿に向かって黙々と歩いて居る。見慣れて居るのかしら? お仕事でよく来られるとか?


「神殿の中では、異術が使えませんのでご承知おきください」

「すごいところですね。なんだか、身体が軽い気がします」

「気のせいじゃないですよ。異術者が神殿の建物に入ると、体内にある異力に恩恵があるんです」

「恩恵、とは?」

「簡単に言えば、異力回復と状態リセットですね。ちなみに、ステラ嬢のお側に居ると同じような恩恵を受けます」

「私はここ1週間ほど、ずっと恩恵を受けていましたよ。とても、居心地が良かったです」

「どういうことですか?」


 道中、何度か休憩をしながらここまで来たのだけど、なぜか騎士団のお方によく遭遇したのよね。20人までは数えていたのだけど、それ以上は不毛な気がしてやめたわ。

 以前、レオンハルト様とお散歩に行っていた時に聞いたのだけど、普段騎士団のお方は駐屯基地にいるのですって。ってことは、何か事件でもあったのかしら? でも、レオンハルト様の穏やかなお顔を見る限り、それはなさそうだし……。


 私は、神殿の建物の前で立ち止まった。

 2人の話がよくわからなかったからじゃない。急に目の前へ立ちはだかるように2人が立ち止まったから。もう少しで、ルワール様の背中に顔をぶつけるところだった。危ない。

 どうしたのでしょうか? と聞こうとすると、神殿の中が騒がしいことに気づいた。誰かも、異術を視てもらってるのかしら? ってことは異術者よね。どんな異術者なのかしら。ちょっとだけ興味があるわ。


 いえ、待って。

 今聞こえてくるあの声は、とても懐かしいような気がする。


「なんとかしなさいよ!」

「診断は終わりました。異常は見つかっておりません。これ以上神聖な場所を騒がすのでしたら、それ相応の対処をさせていただきます」

「その結果に不満があるの! 私だって、騒ぎたくて騒いでるわけじゃないわ。異術が元に戻ればこんなところ来ないわよ!」

「では、お引き取りください。元々、貴殿の異術は生まれつきではないので、そこまで強力なものではございません。診断通りです」

「でも、今まではもっと使えていたのよ!」

「次のお約束があるので、お引き取りください。強化訓練は、アカデミーで行なっておりますゆえ」


 淡々とした声に混ざって聞こえる金切声。

 あれは、多分ソフィーのもの。一瞬だけお母様かと思って、レオンハルト様からお借りした団服の前を両手で押さえつけた。でも、お母様の声ならもう少し低かった気がする。


 いえ、それよりも逃げた方が良いよね。

 レオンハルト様と一緒に居るところを見られたら、あまりよろしくないような。私だって、好きな人が他の女性と居るところを見たら悲しくなるもの。ソフィーだって、そう思うでしょう。

 私が最後にソフィーに会ったのは、「盗人」と言われた時。だから、正直な話積極的に会いたいとは思えない。ただ、元気かどうかだけわかれば良い。……なんて、姉として薄情なのかな。

 私は、隠れられそうな場所を探した。でも、そういうところが周囲に一切ない。


「ステラ嬢、このまま進みましょう」

「で、でも。レオンハルト様と一緒に居るところを見られたら……」

「大丈夫です。その代わり、ソフィー・ベルナール嬢のことを知らないふりしてください」

「知らないふり……?」

「はい。知らないふりをしていれば、先方は貴女のことに気づきません」

「……わ、わかりました」


 どういうこと? 何か、そういう異術でも使っているのかしら?

 本当に気づかれない? でも、2人が「大丈夫」って言うなら信じようかな。それだけの信頼は、彼らに寄せている。


 不思議よね。

 家族よりも一緒に過ごす時間が短かったはずなのに、今はレオンハルト様やルワール様、それに宮殿に居る人たちの方が安心するし信頼もできる。いつまでもお世話になるような場所ではないのは承知の上で、私はあの空間に居場所を見つけてしまった。

 法によって宮殿で保護されて居るとは言え、いつかベルナールに帰らないといけないのに。帰りたくないなって思う自分が居る。


「さあ、参りましょう。神官様がお待ちですよ」

「は、はい。よろしくお願いちますっ! ……あ」

「ふふ、ステラ嬢は面白いですね」


 ああ! 穴があったら入りたい……。


 顔を熱くさせた私は、レオンハルト様とルワール様の差し出した手を同時に握り返し、神殿の奥へと……ソフィーが1人で金切声をあげている教会のような場所へと向かっていく。




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