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狼は今日も奔走する  作者: 朱音
怪談話編
6/6

後編

 

 カタンという音を聞いた瞬間、子狼は皇子にしがみついて、顔を隠してしまった。


「て、天井っ!!音っ、したぁ!!」

「天井?」


 テンパりすぎて、しどろもどろになりながらもノアは、皇子に異変を伝えることに成功した。

 ノアの五感が優れていることは、周知の事実だ。

 聞き間違いで終わらすことは、出来ない。


 ノアは怪談話のせいで、変な物音=幽霊という思考になってしまっているらしいが、ここに居るのは皇子を含め、将来この国を担っていくだろうという面々だ。


 暗殺者が来てもおかしくない。


 というか、実際この時の天井の音の原因は、皇子を狙った暗殺者だった。


 暗殺者は驚いただろう。

 ほとんど音という音をたてないと自負している彼らは、まさか1番幼いノアにバレるとは思いもよらなかったのだ。

 しかし、ノアは怯えきって、皇子にしがみついて顔を埋めているし、皇子を含め他のメンバーも、場所までは特定出来ていない。


 幸い、デジレがまだ戻ってきていないので、皇子(ターゲット)の近くに降り立つことができる。

 暗殺者である男は長年共に仕事をしてきた相棒と顔を見合わせ、ガタンと天井板を外して、部屋に音もなく飛び降りた。


 そして、ナイフを構えて……。


 自分の体から鮮血が飛び散ったのを見て、意識を永遠に逃れられない闇へと沈ませていった。


「甘いんだよ」


 たった2人だけの暗殺者など、皇子にはなんの脅威にもならない。

 相棒が絶命して倒れるのをみて、後ろを振り返る暗殺者の胸に衝撃がはしった。


 馬鹿な…。


 暗殺者は薄れゆく意識の縁で部屋を見回した。

 ターゲットの膝に1人、ターゲットの両脇と後方を守るために3人。この部屋にはそれ以上居ないはずであり、現に暗殺者の正面には誰もいない。


 いや、おかしい。

 何故相棒の首から飛び散った血が空を浮いているのだろうか。

 何故それが、薄らと人の姿を浮かび上がらせているのだろうか。


 何故と考える暗殺者の意識は、首にはしった衝撃と共に、暗闇に落ちた。


「申し訳ありませんわ。御部屋を汚してしまいました」

「気にするな。よくやったな、デジレ」


 実際、部屋は汚れたものの、皇子に血は一滴も飛び散っていない。

 デジレは首を切り落とし、皇子にかからないように、暗殺者(したい)が倒れる方向を調節したのだ。

 そのせいで、自分は血塗れなのだが。


「でも良かったですね。体を透明にした私に気が付かず、敵さんが飛び降りてきてくれて。お陰で、スムーズに終わりましたわ」


 ぼんやりとデジレの姿が色を持って、暗い部屋の中に浮かび上がる。

 その様子をみつつ、皇子は自身にしがみついて震える子狼に声をかけた。


「ほらノア、怖いのは居なくなったから、顔を上げていいぞ」

「ほんとに?」

「ホントだ」


 皇子の言葉に素直に従って、顔を上げたノアは怖々と後ろを振り返った。

 そして見てしまった。


 血濡れに半透明の姿で立つ(デジレ)の姿を。


 実際には、体の濃さを元に戻そうとしているだけであり、ノアも彼女の体質は見慣れているのだが、怯えていたノアの頭はそこまで考えが至らず、結果幽霊だと勘違いした。


「にぎぁぁぁーー!!お…」


 驚きのあまり叫んだノアは、皇子に助けを求めようとして、はたっと考えた。


 自分が守るべき主に、縋るのはどうなのかと。


 いや、今更なのだが。

 暗殺者が居てるのに、怯えてしがみついていたのは、どこのどいつだと言いたい。

 しかし、思考がパニックになっているノアは、使命と若干のプライドを思い出したらしい。


 だが、叫び始めたものは止められない。

 だから、代わりにノアは彼に助けを求めることにした。


「あにうぇぇ!!」


 ◇


「俺は、あの時が1番怖かった」


 真顔で当時を振り返ったノアは、幼い顔つきに似合わない哀愁を漂わせていた。


 あの後、事後処理をする使用人の傍ら、ノアは説教をされていた。

 皇子を守るために居るのに、怯えて何も出来ないのはなんて事だ。という内容ではない。

 むしろ、そちらの方が必要だったのだが違った。


 なんで自分の膝の上に居るのに、助けを求めるのはアルスなのかと。

 実は皇子は、確信犯だったらしく、ノアのおもしろ…可愛い姿が見られることを期待していたようだが、アルスに助けを求めたことで、拗ねていたらしい。


「まあ、あれもあれで、いい思い出ですわよ」


 ホワホワと微笑みながらデジレは言っているが、躊躇なく人の首を掻っ切れる彼女もなかなか、根性がすごい性格をしている。

 何がすごいって、建国祭後に多発する暗殺者を1人で処理しているのがすごい。だから、毎年怪談話大会に参加できてなかった理由だが。


「それでは、折角ですから、私も怪談話をしましょうか」

「えっ?」


 まだ続けるつもりなのか。

 ノアの引きつった顔を見て見ぬふりをしながら、デジレは楽しそうに語りだしたのだった。


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