表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
26/26

第2章・第11話『地下水路の侵入者』

 闇へ踏み込む時、人は試される。


 勇気があるかではない。


 恐怖を抱えたまま、進めるか。


 正義を掲げるのは簡単だ。

 誰かを助けたいと言うのも簡単だ。


 だが、本当に危険な場所へ足を踏み入れた時。


 その想いは、“覚悟”へ変わる。


 少女たちは今、世界の裏側へ降りていく。

 深夜。


 学院旧地下区画。


 薄暗い通路を、四つの影が進んでいた。


「……じめじめしてる」


 アルルが小さく肩を震わせる。


「地下水路だからな」


 リュクスが周囲を警戒しながら答えた。


 足元を流れる濁った水。


 古びた石壁。


 空気は冷たく、どこか息苦しい。


「声は抑えて」


 先頭を歩くセレスが静かに言う。


「この辺りから旧研究区画の監視術式圏内よ」


 アルルはこくりと頷いた。


 胸がうるさい。


 怖い。


 でも。


(フィノ……)


 あの子を助けたい。


 その気持ちだけで足を動かしていた。


 先頭のミレイアが立ち止まる。


「ここ」


 壁面の一部。


 一見するとただの石壁。


 だが。


 ミレイアが古い鍵を差し込むと。


 ゴゴゴ……


 低い音と共に、隠し扉が開いた。


「うわ……」


 アルルが息を呑む。


 その先には。


 さらに深い闇が広がっていた。


「ここから先は、完全に研究施設側」


 ミレイアの声が低くなる。


「気を抜かないで」


 全員の表情が引き締まる。


 通路を進む。


 壁には古い術式刻印。


 ひび割れた研究番号。


 そして。


 時折見える、“S”の文字。


 アルルは胸がざわつくのを感じた。


「……ここに、ミレイアも」


「いたよ」


 軽い口調。


 でもその目は笑っていない。


「小さい頃ね」


 それ以上は語らなかった。


 空気が少し重くなる。


 その時。


「止まって」


 セレスが鋭く言った。


 全員が足を止める。


 前方。


 淡い赤色の術式線。


「警戒結界」


「突破できる?」


 リュクスが小声で聞く。


「時間をかければ」


 セレスが解析を始める。


 だが。


「……待って」


 アルルが小さく呟いた。


「え?」


 アルルは結界をじっと見る。


 流れ。


 波長。


 最近の訓練で覚えた感覚。


「ここ、少しだけズレてる」


 指先を伸ばす。


「アルル!?」


 セレスが止めようとした瞬間。


 アルルの指先が、術式に触れる。


 そして。


 スゥ……


 赤い結界が、静かに消えた。


「……え」


 セレスが固まる。


「今の、どうやったの」


「わ、わかんない……」


 アルル自身も驚いていた。


「ただ、“ここが息苦しい”って感じて……」


 ミレイアの目が細まる。


「……共鳴視認」


「なにそれ」


 リュクスが聞き返す。


「術式を“構造”じゃなく“感覚”で読んでる」


 静かな声。


「普通はあり得ない」


 アルルが戸惑う。


「わたし変なことした?」


「いや」


 ミレイアが小さく笑う。


「かなりヤバいことした」


「怖い言い方やめて!?」


 一瞬だけ緊張が緩む。


 だが次の瞬間。


 ――ガコン。


 低い音。


「……っ!」


 ミレイアの顔色が変わる。


「まずい!」


 天井に、赤い光が走る。


『侵入者反応』


『警備機構、起動』


「うそぉぉぉ!?」


 アルルが叫ぶ。


「静かに!!」


 セレスが怒鳴る。


 だがもう遅かった。


 通路奥から、重い足音。


 機械音。


 そして現れたのは。


 漆黒の装甲人形。


「……警備ゴーレム」


 リュクスが剣を抜く。


 赤い単眼が、こちらを捉える。


『排除対象確認』


「うわ怖っ!?」


「アルル、下がって!」


 セレスが前へ出る。


 だが。


 ゴーレムの速度は予想以上だった。


 爆音。


「っ!?」


 一瞬で距離を詰めてくる。


 リュクスが受け止める。


「ぐっ……!」


 重い。


 腕が痺れる。


「こいつ、馬鹿力……!」


「セレス!」


「詠唱中!」


 セレスが術式展開。


 だが間に合わない。


 ゴーレムの腕が振り下ろされる。


 その瞬間。


「――やめて!!」


 アルルが叫んだ。


 同時に。


 空気が、震えた。


 歌っていない。


 なのに。


 淡い旋律のような波紋が広がる。


 ゴーレムの動きが止まった。


『……認識、異常……』


---


 赤い単眼が明滅する。


『……命令系統……乱……』


 そして。


 ガシャン!!


 警備ゴーレムが、その場に崩れ落ちた。


 静寂。


「……は?」


 リュクスが固まる。


 セレスも言葉を失っていた。


 アルル本人だけが、一番混乱していた。


「えっ、えっ!? 今なにしたのわたし!?」


 ミレイアが額を押さえる。


「……ほんと規格外」


 だがその表情は。


 どこか、嬉しそうでもあった。


 一方その頃。


 施設最深部。


 フィノが、はっと顔を上げる。


「……来た」


 胸の奥。


 確かに感じる。


 優しい旋律。


 あの歌が、近づいてきていた。

 第2章・第11話です。


 ついに地下施設潜入編が始まりました。


 今回は、

 “アルルの新たな異常性”

 がかなり描かれています。


 特に重要なのが、

 「歌っていないのに共鳴が発動している」

 こと。


 つまりアルルの力は、

 もはや“歌唱”すら媒介として必要なくなり始めています。


 そして今回登場した、

 “共鳴視認”。


 アルルは術式を理論ではなく、

 “感覚”で理解し始めています。


 これは既存魔術師とは完全に別系統の才能です。


 さらに最後。


 フィノもアルルを感じ始めています。


 つまり両者の共鳴は、

 どんどん強くなっている。


 次回は、

 ・施設内部探索

 ・実験体たちとの遭遇

 ・敵研究者との初対面


この辺りに入っていきます。


 ここから物語の空気がさらに重く、熱くなっていきます。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ