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第1章・第12話『奪われる旋律』

 選択には、時間が与えられないこともある。


 覚悟が固まる前に、

 決断を迫られる瞬間は訪れる。


 守る者と、奪う者。

 その境界は、いつも曖昧だ。


 だがひとつだけ確かなことがある。


 ――奪われる側にとって、それは“暴力”でしかない。

 夜。


 学院の敷地は静まり返っていた。


 だが――


 その静寂は、突然破られる。


---


 **ドンッ!!**


 重い衝撃音。


 アルルの寮の窓が、大きく震えた。


「……なに!?」


 ベッドから飛び起きる。


 外を見る。


 暗闇の中に、いくつもの影。


---


「……来たか」


 低い声。


 振り向くと、部屋の扉の前にセレスが立っていた。


「セレス!?なんでここに――」


「説明は後」


 短く言い切る。


「管理局よ」


---


 その一言で、すべてを理解する。


 心臓が、強く打つ。


---


「……対象、確認」


 外から冷たい声が響く。


「ラレシィエンヌ。管理局の指示により拘束する」


 感情のない宣告。


---


「そんな……!」


 アルルの声が震える。


---


「下がって」


 セレスが前に出る。


 その目は、完全に戦闘のそれだった。


---


 **バンッ!!**


 扉が破られる。


 黒衣の人物が数人、部屋に侵入する。


---


「抵抗は無意味だ」


 ひとりが告げる。


 同時に、空間が歪む。


 ――消音結界。


---


「……っ!」


 アルルの顔が青ざめる。


 歌が使えない。


---


「やはりそれを使うのね」


 セレスが冷静に言う。


「当然だ」


 黒衣の男が応じる。


「対象の能力は確認済み」


---


「アルル!」


 セレスが叫ぶ。


「昨日の感覚を使いなさい!」


「で、でも……!」


「いいから!」


---


 アルルは目を閉じる。


(歌えない……でも)


 思い出す。


 流れを“なぞる”感覚。


 あの時の、静かな集中。


---


「……っ」


 魔力を感じる。


 乱れている。


 でも、ゼロじゃない。


---


 一方で。


「邪魔よ」


 セレスが一歩踏み出す。


 精密な魔力制御。


 無駄のない動きで、敵の干渉を切り崩す。


---


「……高精度制御型か」


 黒衣の男が呟く。


「厄介だな」


---


「リュクスは!?」


 アルルが叫ぶ。


「避難誘導に回ってる」


 セレスが短く答える。


「ここは私たちで持たせる!」


---


 その瞬間。


 さらに強い干渉が入る。


 魔力が大きく乱れる。


---


「……くっ!」


 セレスの動きが鈍る。


 同時に、アルルの集中も崩れかける。


---


(ダメ……!)


 このままじゃ――


---


 そのとき。


「……ほんと、強引だね」


 聞き慣れた声。


---


 **ガンッ!!**


 窓が内側から砕ける。


 ミレイアが、軽やかに着地した。


---


「……介入を確認」


 黒衣の男が構える。


「ミレイア・ノクス」


「呼び捨てはやめてほしいな」


 軽く笑う。


 だがその目は、鋭く冷たい。


---


「ここは私の担当」


 ミレイアは一歩前に出る。


「横取りしないでくれる?」


---


「命令は絶対だ」


 黒衣の男が言う。


「対象は回収する」


---


「……はぁ」


 ミレイアはため息をつく。


「だから嫌なんだよ、あいつら」


---


 次の瞬間。


 空気が“変わる”。


---


 ミレイアの周囲だけ、魔力が整う。


 干渉を受けない、独立した領域。


---


「……なに、それ」


 アルルが呟く。


---


「簡単なこと」


 ミレイアが言う。


「“断ってる”だけ」


---


 そのまま、一気に踏み込む。


 速い。


 黒衣の一人が吹き飛ばされる。


---


「今のうち!」


 ミレイアが叫ぶ。


「アルル、やりな!」


---


「……っ!」


 アルルは再び集中する。


(怖い……でも)


 逃げない。


---


 流れを感じる。


 乱れの中の一点。


 それを――


「……掴む!」


---


 その瞬間。


 魔力が、安定する。


 歌はない。


 でも、確かに“成立した”。


---


「……!」


 黒衣の男たちが一瞬動きを止める。


---


「撤退だ」


 低い声。


「想定以上の抵抗」


---


 影たちは、静かに消えていく。


---


 静寂。


 戦いは、終わった。


---


「……はぁ……」


 アルルがその場に座り込む。


 手が震えている。


---


「大丈夫?」


 ミレイアが軽く覗き込む。


---


「……こわかった」


 正直な言葉。


---


「そりゃそうでしょ」


 あっさり返す。


「でも」


 少しだけ、優しい声で続ける。


「ちゃんと立ってた」


---


 セレスが静かに言う。


「……今回は、助かったわ」


---


「でしょ?」


 ミレイアが笑う。


---


 だがその目は、すぐに真剣に戻る。


「次はもっと本気で来るよ」


---


 その言葉が、重く落ちる。


---


 アルルは、空を見上げる。


 静かな夜。


 でももう、元の“日常”ではない。


---


 少女の戦いは、始まったばかりだった。

 第12話です。


 ついに「管理局の強制介入」と「初の戦闘」を描きました。


 ここが第1章の大きな転換点です。


 アルルは“守られる存在”から、“戦う側”へと踏み出しました。

 しかも今回は歌なしで対応できています。これはかなり大きな成長です。


 また、ミレイアの実力と立場も少し見えてきました。

 完全な敵ではないが、味方とも言い切れない――この曖昧さが今後効いてきます。


 そして何より重要なのは、

「もう戻れない」という状況になったことです。

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