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第1章・第11話『管理と自由の境界』

 力が一定の域に達したとき、

 それは“個人のもの”ではなくなる。


 管理されるべきか。

 守られるべきか。

 あるいは、解き放たれるべきか。


 その判断は、持つ者ではなく――

 多くの場合、“周囲”によって決められる。


 少女の歌は、いま境界線の上にある。

 学院内、会議室。


 重厚な扉の向こうで、数名の教師たちが向かい合っていた。


「……報告は以上です」


 資料が机に置かれる。


 そこには、アルル――ラレシィエンヌの記録がまとめられていた。


「歌唱による魔力制御。再現性あり。外部干渉に弱いが、補助なしでも一部成立」


 淡々とした読み上げ。


「さらに、戦闘形式においても最低限の対応能力を確認」


 沈黙が落ちる。


---


「……問題はそこではない」


 別の教師が口を開く。


「管理局が動いている」


 その一言で、空気が変わる。


「既に接触が確認されている。しかも“ミレイア・ノクス”」


「……あの女か」


 低い声。


 明らかな警戒。


---


「放置はできない」


「だが、過度な介入は逆効果だ」


 意見がぶつかる。


「管理局に主導権を握らせるわけにはいかない」

「しかし対抗するだけの根拠が薄い」


---


 そのとき。


「――結論は出ているはずだ」


 静かな声が割って入る。


 部屋の奥。


 あの中央に立っていた男性が、ゆっくりと口を開いた。


「彼女は“危険”ではない」


 はっきりと言い切る。


「少なくとも、現時点では」


---


「では、どうするおつもりですか」


「保護する」


 短い言葉。


「学院の責任において、彼女を管理下に置く」


---


「……それは、事実上の囲い込みでは?」


「違う」


 男性は首を振る。


「選択肢を奪わないための措置だ」


 その言葉には、わずかな意志が込められていた。


---


 一方その頃。


 学院の中庭。


 アルルとセレス、リュクスの三人はベンチに座っていた。


「……なんか、空気変じゃない?」


 アルルが小さく呟く。


「え?」


「視線、増えてる気がする」


 リュクスが周囲を見る。


 確かに、ちらちらとこちらを見る生徒が多い。


---


「当然よ」


 セレスが言う。


「あなたはもう“注目対象”だから」


「……やっぱり?」


「ええ。隠しきれる段階は過ぎてる」


 冷静な現実。


---


「……ねえ」


 アルルが少しだけ不安そうに言う。


「わたし、このままでいいのかな」


 ぽつりと漏れる本音。


---


「いいかどうかは、自分で決めることよ」


 セレスが即答する。


「でも」


 少しだけ間を置く。


「その選択に責任は伴う」


---


「責任……」


 その言葉を噛みしめるアルル。


---


「重く考えすぎなくていいよ」


 リュクスが柔らかく言う。


「少なくとも、俺たちは味方だから」


 その言葉に、アルルの表情が少し緩む。


---


 そのとき。


「……ずいぶん賑やかだね」


 聞き慣れた声。


 三人が同時に振り向く。


 ミレイアが、いつの間にか立っていた。


---


「またあなた……!」


 セレスが即座に立ち上がる。


「ちょっと顔出しただけだって」


 軽い調子。


 だがその目は、いつもより少しだけ鋭い。


---


「――そろそろ、時間だよ」


 ぽつりと呟く。


「時間……?」


 アルルが首をかしげる。


---


「管理局、正式に動く」


 その一言。


 空気が、一瞬で凍る。


---


「……何をするつもり」


 セレスの声が低くなる。


「さあ?」


 ミレイアは肩をすくめる。


「上の判断次第」


 無責任にも聞こえる言い方。


 だが――


「でも」


 アルルを見る。


「君は“対象”に入った」


---


 心臓が、強く跳ねる。


「対象……?」


「観察対象から、“管理対象”へ」


 はっきりと告げる。


---


「……つまり」


 セレスが言葉を継ぐ。


「拘束もあり得る、ということね」


「理解が早くて助かるよ」


 ミレイアは軽く笑う。


---


「そんなの……!」


 アルルが立ち上がる。


「わたし、何もしてないのに……!」


「関係ないよ」


 ミレイアは淡々と言う。


「力がある。それだけで理由になる」


---


 沈黙。


 重い現実。


---


「……どうする?」


 ミレイアが問う。


「従う?それとも――」


 ほんの少しだけ、口元が歪む。


「抗う?」


---


 選択が、突きつけられる。


---


 アルルは、拳を握る。


 怖い。


 でも――


 隣には、セレスがいる。


 リュクスがいる。


---


「……わたしは」


 ゆっくりと顔を上げる。


「自分で決める」


 震えながらも、はっきりと。


---


 ミレイアは、それを見て――


「……いいね」


 小さく笑った。


---


 遠く、屋上。


 黒衣の人物がその様子を見下ろしていた。


「……対象確認」


 冷たい声。


「回収準備、開始」


---


 物語は、静かに臨界点へ向かう。

 第11話です。


 今回は一気に物語のスケールを広げ、「管理局 vs 学院」という構図を明確にしました。


 アルルはついに“観察対象”から“管理対象”へ。

 つまり、もう完全に“普通の生徒”ではいられません。


 そして重要なのは、

アルルが初めて「自分で決める」と言ったことです。


 ここからは受け身ではなく、“選ぶ側”として物語に関わっていきます。

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