青天の霹靂〜火中の栗⑤〜
混乱のさなか、結城の王太子はまた皇帝への謁見を求めた。傍には側近のサクと皇帝の第一皇女セレーナがついていた。セレーナは、自分ごときがと同席を拒否しようとしたが、憧れの王太子から心強いのでいてほしいと言われたら断れなかった。
長い間待ったが謁見を許されて、広間と向かうと苛立ちで足を小刻みに上下させる…所謂貧乏ゆすりを皇帝ともあろう男がしていた。苛立ちの理由は、寝宮の森への皇太子の爆破であることは明らかであった。
心の中では、かなりおどおどしていた王太子であったが、涼しげな顔で皇帝に挨拶をする。
「何やら騒がしいときに申し訳ありません。」
そういうと、じゃあなんで来たんだというような睨みにあったが、一国の王太子で息子の嫁の兄…というか自分が妻にと望んでいる女性の弟にひどい仕打ちをしたとあってはいろいろと面倒だと思ったのか、口にすることはなかった。
「実は…陛下が、妹の静養を待っていただけると耳にしたもので。御礼にと思いまして。」
今は、麗しい王太子という役を演じている王太子は、皇帝の顔色をうかがいながら話していく。皇帝は、王太子の後ろを見て、自分の娘がバラしたのかという顔で見る。
「その話ですか…。もちろん第四王女には嫁いでいただきたい。ご覧いただいてわかるでしょう。皇太子も犯人が許せず聖域を爆破する始末…あれほどまでに結婚を望んていたとは知らなかったが、いつまでも待ちましょう…ただ…」
「そのことなのですが…」
皇帝が友好のためにも姉君をという前に、王太子は遮った。目上の人の話を遮るなど、父王どころか姉2人が知っても激怒されるところだが、ここを言わせてはなるものかという、王太子の足掻きである。
「妹の容態もどうなのかも、分からずこちらに留まらせてもらっていますし…。ただ、友好関係が保留となるのもよろしくないでしょう?」
とまるで王太子の方から別の結びつき…が必要可のように仄めかした。
これを聞いた皇帝は、そちらから言ってくれるのかと頷く。
「考えたのですが…。私にセレーナ公主を娶らせてはいただけないでしょうか。」
この台詞に、皇帝もセレーナも固まった。
「貴様っ!」
皇帝はカッと立ち上がり王太子のところまでいき、胸ぐらを掴みかけた。
「お怒りは御尤もです。私には既に妃がおります。セレーナ公主を側妃というわけにもいきますまい…。しかし、これしか方策が見つかりません。」
まあまあと胸元を手でブロックしながら話す王太子に
「何故だ。第二王女がいるではないかっ」
と皇帝は早口でまくしたてる。
頷きながら王太子は
「確かに姉は嫁ぐ前に国が亡国となりましたので、未婚ですが…。姉は出家しております。」
と悲しげな顔でいう。
「出家?仏門に入ったのか?そんな話聞いていない!」
鼻息荒く皇帝は言う。
「これは結城でも一握りの人間しか知らぬことですが、姉はあのあとすぐに美しく長かった髪を切り落としました。」
残念そうな顔をして王太子は続ける。
「還俗ということも、可能でしょうが時間がかかかるでしょう…。だとしたらこの国で懇意にしてくださったセレーナ公主をわが国に呼び寄せることで友好関係が保たれるでしょう。あっ…ご安心くださいその昔、皇后と中宮という状態で2人の正妃を持った国があると聞いたことがございます。もちろんセレーナ公主がよろしければですが。」
と、王太子にしては完璧に最後まで言い切った。
それを聞いて、セレーナは涙を浮かべながら頷いた。もう皇帝は、引き下がるしかなかった。
王太子として、弟として守らなくてはならないことをやってのけたと安堵したのだった。




