4.シンデレラを探せ
王宮に集められた令嬢は15人。全員が王子の婚約者候補だ。
今日はその中から1人を選ぶ。
そこには、シンデレラの義姉たちもいた。
彼女たちはシンデレラの姿を見るやいなや、ギッと睨んで突進してきた。
「ちょっと! あなたが何故ここにいるのよ⁉ 説明なさい」
「そもそも用事を全部放り出して、今までどこにいたの? まずは謝りなさいよ」
そりゃあもう大騒ぎだ。
でもね、ここは王宮だよ。少し落ち着いてもらわないと。
「まぁまぁ、お義姉さま方。私のことを心配して下さっていたなんて、とても嬉しいですわ。ありがとうございます」
私は優雅に一礼した。
その姿に、義姉はハッと周囲を見渡した。
彼女たちの剣幕に、人々が眉を顰めている。
「話は後よ。とにかく、あなたなんか分不相応なんだから、後ろでジッとしてなさいよ」
義姉は小声でそう言うと、自分たちが目立とうと最前列へと移動した。
しばらくして、魔法使いが令嬢たちの前に進み出た。
「そろそろ始めるとするか」
何やら呪文を唱えると、あっという間に15人の令嬢たちを同じ姿形に変えた。
いや、よく見ればほんの少し違いがある。
元がたれ目なら少したれ目に、鼻が低いと変身後も低めにと、本人の特徴が僅かに混じっていた。
しかしそれ以外は、ドレスも髪色も背の高さも全て同じ。わずかな違いしかないので、パッと見ただけでは、どこの誰だか判別しがたい。
急な出来事に、令嬢たちはざわついた。
そこへ王子がやって来た。
同じ容姿の令嬢がズラリと並んでいるのを見て、王子の眉がクイッと上がる。
「これはどういうことだ。説明しろ」
魔法使いは恭しく一礼した。
「お集まりの皆々様。今日は殿下の婚約者が決まるめでたき日。一つ余興をいたしましょう。運命の赤い糸を手繰り寄せるゲームです」
「ゲームだと?」
「殿下が結婚したいのは、1度しか会ったことのないガラスの靴の姫。でもそれじゃあ、婚約者候補のご令嬢方は納得できないでしょう」
魔法使いの言葉に、令嬢たちが大きく頷く。
「身分や容姿に関係なく、チャンスは平等にあるべきです。殿下にも、見た目ではなく内面で将来の伴侶を選んでほしいのです。そこでこのゲームです」
令嬢たちは不安と期待が入り混じった表情で、互いの顔を見合わせた。
「令嬢たちにはこれから、自分の美点や熱い想いを殿下に伝えて下さい。制約魔法で名前や身分は明かせないが、それ以外は何を話しても自由。殿下の心を射止めた者が、婚約者に選ばれるのです。どうぞ存分にアピールして下さい」
その言葉に、令嬢たちの目がギラリと光った。
「殿下はこの中から、ガラスの靴の姫を探し当てて下さい。無事に思い人を見つけられるのか、それとも別の令嬢を選んでしまうのか。あなた様の幸運をお祈りしていますよ」
魔法使いはそう言うと、ヒャッヒャッと笑った。
その言葉に、王子は挑発的な笑みを浮かべた。
「面白い趣向だね。君の発案?」
「いえ、ガラスの靴の姫に提案されましてね。面白そうだったんで協力したんですよ」
「へぇ、王族を試すのか。なかなかいい度胸をしている」
王子はゲームの参加を了承し、令嬢たちを横一列に並ばせた。
「順番にダンスをしながら話をしよう。そうすれば、すぐに分かるさ」
王子はそう言うと、端から順に踊っていった。
そして最後まで踊り終えると、そのまま真っ直ぐ何の迷いもなく、12番目の令嬢の前に立った。
「君だ。間違いない」
その言葉と同時に、魔法が解けた。
「おめでとうございます、殿下。それでは契約完了ということで、失礼しますよ」
魔女はシンデレラを見てニヤリと笑うと、すぐに退出した。
「えっ、何で?」
王子にズバリ言い当てられ、シンデレラは目を丸くした。
絶対見つけられないと思っていたのに、あっという間に捕まってしまった。
シンデレラが選ばれたのを見た義姉たちは、その肩をガシッと掴んで揺さぶった。
「どういうこと⁉ シンデレラ、あなた、何か企んだんでしょう。白状なさい」
「そうよ、あなたなんかが選ばれるはずがないわ。ズルはダメよ」
それを聞いた周囲の令嬢たちも騒ぎ出した。
貧相なドレスを着たシンデレラが選ばれるとは、誰も予想していなかったのだ。
私は項垂れた。
私だって予想外だ。どうせ見つけられないから、そのまま堂々と退出してやろうと思っていたのに…何でバレた?
他の令嬢たちに倣って、会話も卒なくこなしたはずだ。確かにちょっと棒読みだったかもしれないけれど。
よし、こうなったらお義姉様に押し付けよう!
私は顔を上げ、義姉の手を握った。
「お義姉様、今すぐ『シンデレラなんかより、私の方が婚約者に相応しいですわ』と高らかに宣言して下さい。さぁ、早く!」
「は? なっ、何言っているのよ!」
義姉はバッと手を振り払った。
私はウルウルした目で、義姉を見上げた。
「絶対見つけられないと思っていたんです。なのにこれじゃあ、自由を謳歌する私の計画が台無しです。婚約はお義姉様に譲りますから、どうかお願いします」
「いや、意味が分からないわ。計画って何? それになんで『譲ります』って上から目線なのよ。シンデレラのくせに生意気よ!」
そこへ不敵な笑みを浮かべた王子がやってきた。
そのあまりにも黒いオーラに威圧され、全員が口を閉じた。
「ひどいなぁ。せっかく自分の力で運命を手繰り寄せたのに、それをなかったことにしようだなんて。しかも譲るとか…ははっ、あり得ない」
王子はそう言うと、エスコートするため手を差し出した。
「場所を変えてじっくり話をしようか、シンデレラ嬢」
私はもう一度、義姉たちの顔を見た。
しかし王子が放つ不穏な空気に怖気づいたのか、面倒ごとはごめんだと言わんばかりに首を横に振り、一歩二歩と後退った。
周囲の令嬢たちの顔も見たが、みんなそっと視線を逸らす。
(え、ウソ。みんな婚約者になりたかったんでしょう? なのに何で⁉)
孤立無援となった私は、王子にドナドナされた。




