3.ガラスの靴
一曲踊り終えたら、ちょうどいい時間だった。
「ではこれで失礼します」
私は一礼すると、急いで会場を後にした。
時間を守らなければ、私は馬車を失い、かぼちゃを抱えて歩いて帰る羽目になる。
それだけは何としても避けたい。
「待ってくれ」
王子が後ろから追いかけて来る。
いやいや、こっちは急いでいるんだって!
階段を駆け降りていると、物語通り、なぜかガラスの靴が片方脱げた。
「歩きにくっ!」
仕方がないので、もう片方もポンと脱ぎ捨て、私は裸足でダッシュした。
おかげで無事に馬車で帰ることができた。
日頃の成果が実って、私は大満足だ。
翌日、ガラスの靴を手にした王家の使者が我が家にやって来た。
仕事が早い…。ちゃんと寝てるのか? ちょっと心配だ。
「この家にはご令嬢が3人いますね。全員、お集まりいただけますか」
相手は王家の使い。その言葉に逆らうことはできない。普段は家族にカウントされていない私も、父に連行された。
「殿下はこの靴の持ち主との結婚を望んでおられます。順番に靴を履いてみて下さい」
使者の言葉に、義姉たちは鼻息荒く挑むも、当然靴は合わなかった。
「そちらのご令嬢も」
と促され、仕方なく足を差し入れた。
使者は判断に迷ったのか、シンデレラの足と靴を何度も見比べた。
「う~む。ほんの少しだけ靴の方が大きいですかねぇ。残念ですが、靴の持ち主ではないようです。ではこれで失礼します」
その言葉に、私は心の中でガッツポーズをした。
(よっしゃ〜、マッサージした甲斐があった!)
そう、舞踏会に参加したあの日、私は仕事を命じられ、朝から立ちっぱなしだった。
つまり、ガラスの靴を履いた時点で、足はパンパンにむくんでいたのだ。
これではいけないと、帰宅後、念入りにマッサージをして足上げて寝たんだよね。
おかげで今日は足スッキリよ。いやぁ~効果が出て良かった良かった。
結局その後も、ガラスの靴にピッタリ合う足の持ち主は見つからなかった。
そりゃそうだ。私のむくんだ足にしかフィットしない靴だからね。
でも王子は諦めなかった。
何日たっても見つからないので、最終手段として、魔法使いを呼び出した。
「頼む。どうしてもあの時の令嬢と会いたいんだ。見つけ出してくれ」
依頼を受けた魔法使いには、心当たりがあった。
伯爵家の娘に魔法をかけ、舞踏会に送り届けたことがある。
何も好きでそんなことをした訳ではない。昔、世話になった彼女の母親と、約束を交わしたのだ。
「私が死んだら、夫は浮気相手の女とその娘を家に引き入れると思うの。そうなれば、娘は辛い思いをするわ。どうかあの子が幸せになれるよう導いてあげて」
そう頼まれていたので、王子と縁づかせてやろうと舞踏会に参加させた。
王子は令嬢の名を聞きそびれたようだが、ガラスの靴を落としていったというから、すぐに分かるだろうと思っていた。
しかし何故か彼女は名乗り出なかった。
(もしかして家族に監禁された? いや、母親が心配するような弱々しい娘じゃなかったから、それはないな。とにかく色々と確かめないとね)
魔法使いはすぐに彼女の家に行ったが、その姿はどこにも見当たらない。
「ったく、どこをほっつき歩いてるんだい」
魔法使いはブツブツ文句を言いながら、あちらこちら駆けずり回った。
そしてようやく、港で船待ちをしているシンデレラを見つけた。
「やっと見つけた!」
魔法使いは、グイッとシンデレラの腕を掴んだ。
「ビックリした。誰かと思ったら、あの時のおばあちゃん! まさかまた王宮へ行けとか言う?」
警戒して距離を取ろうとしたが、おばあちゃんとは思えない力強さで引き寄せられた。
「そのまさかだよ。あんた、何でガラスの靴の持ち主だって名乗り出なかったんだい。王子と結婚できるチャンスなんだよ」
「え〜、結婚する気ないし。これから隣国へ行って自由気ままに生きようかなと」
「無理だね。あの国は最近、治安の悪化で移民の受け入れはしていないんだよ。それにたとえ隣国に渡ったとしても、王子との契約を遂行するまではどこまでも追いかけるよ」
「そんな殺生な~。私に断る権利は?」
「ないね。諦めな」
今どきの魔法使いは、本当に横暴が過ぎる。
でも私にも意地がある。
「分かった。王宮には行く。でも条件があるわ」
私はニヤリと笑い、ある計画を囁いた。
自由を手に入れるためなら、魔法使いだって利用してやる!
私の計画はこうだ。
1回踊ったぐらいで、私の中身も知らない王子。そんな相手と結婚する気はない。
だから、多くの令嬢の中からスッピンの私を選べるかどうかのゲームをしたいと提案した。
見事、私を見つけたら王子と話す。でも見つけられなかったら、私は大手を振ってこの国から去ってやる。
それを聞いて魔女は大笑いした。
「こりゃまた、おかしなことを考えたねぇ。ははは、面白い。よし、私も協力してやろうじゃないか。どうせなら魔法で、みんなを同じ姿形にしてしまおう。難易度が上がって、より面白いゲームになるだろう?」
「乗った! 当日はよろしく頼むわ」
私たちはガッチリと握手した。




