表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

1.まさかのシンデレラ

継母と義姉の顔を見た瞬間、ピシャーンと脳内に衝撃が走った。


「うそやん」

思わず呟いた。

前世の記憶と共に、これから私の身に起こる出来事がはっきりと見えてしまったのだ。


継母や義姉からのいじめに耐える日々

魔法使いからもらったガラスの靴

かぼちゃの馬車で舞踏会

そして王子様と運命の出会い


(これって、まさかの…)


「シンデレラ、挨拶しなさい」

父の言葉に、はぁ~と大きくため息をついた。


(やっぱりかぁ。むちゃくちゃ有名な童話ですやん。しかも主人公がまさかの私…)

はっきり言って、萎える。


「ほら、シンデレラ、早く」

父が急かすので、仕方なくドレスの裾を軽くつまんだ。

「…初めまして」

よろしくする気はないので、最低限の挨拶で済ませた。


「すまない。娘はどうやら緊張しているようだ」

苦笑いする父に、義母は肩をすくめた。

「あらまぁ、これでは先が思いやられますわね。きちんと挨拶ができるよう、私が一から教育いたしましょう。よろしいですね?」

義母はニコリと微笑んだが、その目は全く笑っていなかった。


おお、怖っ!

さて、どうしたものか。

はっきり言って、シンデレラは性に合わんのよ。

優しくて健気、我慢強くて従順、人知れず泣くとか無理無理。絶対無理。

私は、やられたらやり返すし、幸せは自分で掴みにいく。

“耐える系ヒロイン”なんか、やめてやるわ!


というわけで、まずは地道にコツコツと、義母や義姉たちへの仕返しに励むことにした。


「シンデレラ、掃除はもう終わったの?」

上の義姉が、意地悪な笑みを浮かべた。

「勿論です。さぁ、見て下さい! ピッカピカのツルッツルです」

自信満々に答える私に、義姉は粗を見つけてやろうと意気込んだ。

「本当かしら。私がチェックし、えっ、ちょっ、きゃああっ!」

義姉は床に足を取られ、それはそれは見事な尻もちをついた。

「ちょっと!ワックス塗りすぎよ。今すぐ私を助け起こしなさい‼︎」


そこへ、2番目の義姉が顔を真っ赤にして怒鳴り込んできた。

「シンデレラ!あなた、どういうつもり?」

「どうかされました? お義姉様の言いつけ通り、洗濯は済ませましたが」

「これ、何よ! 下着に名前を書くなんて一体どういうつもり? こんなの恥ずかしくて着られないじゃない。今すぐ消しなさいよ!」

いやでも女が4人もいるから、名前を書いておかないと誰のか分からないし。


騒動を聞きつけ、今度は義母がやって来た。

「先ほどから騒々しい。シンデレラ、何を怠けているの? 草刈りはもう済んだんでしょうね」

「ええ。私が今日しようと思った箇所は済みましたよ。そうだ、見て下さい。庭にはこんな立派なミミズが5匹もいたんです!」

私は、ミミズを入れた木箱をパカッと開けた。

「ちょっ、止めなさい! そんなもの、家に持ち込むんじゃないわよ‼」

義母が思わず仰け反った。


義姉たちは密かにミミズと距離を取りつつ、シンデレラのせいで酷い目にあったと義母に訴えた。

「聞いて、お母様! シンデレラはいつも意地の悪いことばかりするのよ!さっきだってわざと私を転ばせて笑っていたわ。しかも『ざまぁみろ』って罵ったのよ」

「私も酷い目にあったわ。シンデレラは私の下着にデカデカと名前を書いて、それをわざと隣家に見えるように干したのよ。もう恥ずかしくて外を歩けないわ」


シンデレラの行いを聞いた義母は、こめかみに手を当て、ため息をついた。

「シンデレラ。私たちはあなたのためを思って、家事を学ばせているのです。決して意地悪で言っているんじゃないの。それを何ですか。逆恨みも大概になさい」

義母が私を睨みつけ、義姉たちも「そうよそうよ」と騒ぎ立てる。


「そんな逆恨みやなんて、人聞きの悪い。私は全力で床を磨いただけ。洗濯物が混じらないように工夫しただけです。罵ったとか、見えるように干したとか、そんなの嘘ですし。それより言いつけどおり仕事を済ませたんで、文句じゃなくて家事スキルの高さを褒めて下さい。そうすれば私のモチベーションが上がります」


私の反論に、義母は声を荒げた。

「お黙り! 全く、口だけは達者なんだから。もういいわ。私たちに迷惑をかけた罰として、今日は食事抜きよ。分かったわね」


義姉たちはニヤリと笑うと、すぐに次の用事を言いつけた。

「いい気味だわ。さぁ、ドレスの準備をしてちょうだい。あなたのせいでドレスが台無しになったんだから。今すぐ用意して!」

「私はお腹がすいたわ。すぐに食事の準備をして。いいこと? 次、何か変なマネをしたら、ただじゃ済まないんだから! 返事は?」

「了解で~す」


私はまずドレスを選んだ。

(このピンクのドレス、ちょっと太って見えるんだよね。うん、これにしよう)

私に準備を任せたんだから、どんなドレスでも文句はないよね。

「わぁ、ステキ! とってもお似合いですぅ〜」

と一応言っておいた。


次に台所へ行き、食事の準備に取りかかった。

いやぁ、こういう時は食事担当で助かる。

つまみ食いも数をこなせば、お腹が膨れるんだから、食事抜きでも問題なし。

私はガッツリ味見しながら、食事を作り上げた。


ちなみに今日の料理は、素材の味を最大限生かした超薄味仕立て。

決して意地悪で薄味にしたんじゃない。家族のためを思って、健康的な料理にしただけだ。みんな喜んでくれるといいな。


さて用は済んだし、内職でもするか。

こんな家とはさっさとサヨナラして、自由に生きたいのよね。

そのためには、交通費と当面の生活費が必要だ。

私は得意の刺繍をジャンジャン刺して、どんどん売って、小銭を稼いでいる。


あと、女の一人旅は危険だから対策が必要だ。

私は戦えないので、自家製の唐辛子スプレーを作った。大きな音が鳴る鈴も買ったし、踏むと地味に痛いトゲのある実も集めた。あとは、市場まで往復ダッシュすることで、逃げ足を鍛えている。


「次は何しよう。なんかワクワクするなぁ」

“耐える系ヒロイン”をやめた私は、結構楽しく生きている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ