14.常に挑戦続ける姿勢は見習いたいものですわ
ロワニーズ王国の移動手段は馬車であり、地方では主に荷物を運搬する荷車タイプの牛車も使用されている
世界の国土面積の約8分の1を所有する大国であるが、それ故に主な交通手段が馬車だけでは民も物流も不便を感じてしまう
馬車に成り変わる新たな手段を検討する時期が来ていた
「新技術探究団体都市ジャワイで蒸気を動力源とし走行する“機関車”の試験運転が成功した。この結果に伴い我が国は機関車の導入を速やかに行う」
新技術探究団体都市ジャワイ
各国の出資によって人工島に造られた都市で、各分野の専門的な技術者達で構成された集団都市である
国の財力によって出資額は異なるが、最新技術をいち早く導入する権利を持ち合わせる
成功率度外視の曲者揃いではあるが、積極的な姿勢は世界全体の新しい技術開発に貢献している
ロワニーズ王国からも技術者が移住しており、今回の蒸気機関開発責任者として名を連ねていた
ユリウスは第一報を受け取ると、早速原案をまとめ貴族院議会に提出、国王陛下の承認を得た
「鉄道施設の建築、線路敷設は国主導で行う。まずは円滑な物流網を築くことを最優先とし、民の移送は順次対応、各々隣接する領地間を繋ぐ運用とする」
この後もユリウスの方針説明は続き、目指すべき方向性と具体的な行動が話し合われた
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「先に運行された蒸気船により世界各地の港湾都市が結ばれ輸送手段として欠かせない役割を担っています。蒸気機関車が導入されれば国内のみならず隣接する国への移動も飛躍的に改善されますわね」
馬車では一日に50Km程の移動が可能だが、長時間の移動は馬にとって体力的な負担が大きく、気候や路面状況にも左右されやすい
乗客も長時間座り続ける事で身体的な不快感や疲労が蓄積され健康への悪影響が懸念されている
「鉄道開業により人や物の移動時間を飛躍的に短縮化出来ます。内陸部の都市に新鮮な海産物を運搬することも可能です」
今までは馬車と舟を併用して内陸部へ運んでいたが、鉄道が導入されれば効率的な物流体制が確立し生活が豊かになる事は間違いない
「最初から欲張らないよ。まずは王都からナーベルイス領まで鉄道を引いて試験運行かな。あそこは港があるし物流の要所だからね。実際に運行開始すれば問題点や課題点が出てくるはずだ。少しずつ改善していけば良い」
「わたくし楽しみですわ。殿下、新婚旅行は鉄道の旅に致しましょう」
「えっ!一部鉄道開通まで最短でも二年以上は要するよ?」
「では婚姻は鉄道開通までお預けですわね」
「そ、そんなーー」
うふふ、とエミリーティアは意地悪そうな笑みを浮かべた
※
「本当に国内初の蒸気機関車が王都と我が領地を結ぶのですね」
ナーベルイス子爵は国王陛下から本決定が発表されるまで半信半疑であった
子爵領以外にも要所となる拠点は複数存在しており、候補地としては規模の小さい子爵領は可能性が低いと考えていたのである
「鉄道が開通すれば“いつでも気軽に“王都へ行くことができます。もちろんヴィアンヌ嬢にも逢いたい時に会えますよ」
愛しい末娘が嫁ぐワグナー公爵家は領地を持たない
業務に専念する為である
王都からナーベルイス子爵領までは馬車で十日ほど
鉄道が開通すれば一日で移動が可能である
ブルプロは未来の義父ナーベルイス子爵に誇らし気な様子で告げた




