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12.キツネは虎視眈々と狙っていましたわ

有言実行w


王宮侍女ヴィアンヌ・ナーベルイスは非常に焦っていた


侍女になってから早三年

自分以外の同期は婚約者または恋人がおり、後輩は次々と寿退職が続いていた


「なぜ私には出会いがないの!!」

今日もまた一人、結婚の報告を受けた


ナーベルイス子爵家は二男三女の多子家族であった


領地範囲は小さいが流通の要所として港を所有していることもあり生活水準は標準よりも高い


ヴィアンヌは両親が晩年産まれた子供で、末娘として兄姉から可愛がられた


よく食べ、よく寝て、よく遊ぶ

兄姉にくっ付いて活発に動き成長した


やがてソワージュ学園在学中に王宮侍女試験に合格し、卒業後は王宮侍女として就業開始


一年目(新人)

初めは行儀見習いとして王宮にあがり、あわよくば良縁を期待していたが、いざ勤め始めると元来の真面目さが仕事し侍女長に気に入れられた


二年目

過去に類を見ない異例の侍女長補佐(末席)として抜擢さ

れ出世頭となった。この時既に同期の半分以上は婚約していた


三年目(現在)

役割が増え今年から新人教育係に任命された

良縁どころか出会いすら乏しい


「侍女長に相談した方が良いかしら…」

子爵令嬢ではあるが三女、どのみち爵位は度外視なのだから御用商人の伝で縁談を進めてもらえないだろうか


このままでは婚期を逃してしまう

20歳までのカウントダウンが始まっていた


余談ではあるが、近年の結婚適齢期は18歳から22歳、初産は23歳を目安とされている



「婚姻を結んでも仕事は続けたいと、貴女は考えているのですね?」

翌朝、勢いのままに侍女長の元へ行き直談判をした


「はい。新人の教育を通じて改めて仕事の意義を理解し貢献したいと思いました」

「それは良いことです。私も貴女を補佐役に任命した甲斐があります」


ですが…と言葉が途切れた侍女長にヴィアンヌは不安な気持ちで続きを待った


「お相手の年齢を考えると、貴女に紹介出来るご子息はいません」

「そ、そんなぁーーー」

頼みの綱であった侍女長にも匙を投げられてしまった



「なるほど、それで今日は覇気が薄いのですね」

「分かりやすかったでしょうか?普段通りにしているつもりでしたが…」

侍女棟で休憩中、別件で立ち寄った“元学友”のブルプロと世間話の延長で今朝のことを話していた


笑い話のネタにして忘れようと考えての事だったが、意外にもブルプロは真剣に聞きてくれた


「気長に良縁を待ちますわ」

この際、侍女長に就任する事を目標に仕事一筋で頑張ろう。そして貯めたお金で甥と姪に王都の一流玩具店で流行りの玩具をプレゼントしよう。王都の経済は私がまわす!


そう意気込んでいた時期もありました



「ナーベルイスさん、ご婚約おめでとうございます」

「侍女長、ありがとうございます」


月日は早朝直談判から二ヶ月経過していた

そう、侍女長すら匙を投げたヴィアンヌの婚活が、たった二ヶ月で目的を達成してしまった


「正直に言いますと、とても驚いています。まさかワグナー公爵令息がお相手とは…」

「侍女長、当人が一番仰天しております」


ブルプロとは同級生ではあるが、在学中は接点が少なく挨拶程度の関係であった

王宮に上がり仕事柄会話も増え、顔見知りから知人に昇格した程度の認識しかない


「なぜ私だったのかしら?」

ヴィアンヌは今だに実感はなく「白昼夢では?」と思っている



「ブルプロ卿、ご婚約おめでとうございます」

「エミリーティア嬢、ありがとうございます。これで肩の荷が“ひとつ”下りました」


執務室ではブルプロの話題で広がっていた


「ブルプロは結婚に希薄だと思っていたが、まさか職場結婚とは流石の私も寝耳に水だったね」


ブルプロは公爵令息かつ嫡男でありながら19年間婚約者の席を空席にしていた

周囲は勿論のこと父親であるワグナー公爵も縁談を進めていたが、ブルプロは全て拒否していた


「ナーベルイス子爵令嬢とは同級生でしたわね」

「はい、とは言え在学中に会話らしいことはありませんでした。互いに顔見知り程度の関係性ですね」


「そこから“強引に”婚約に繋げるブルプロの熱意にナーベルイス子爵令嬢は驚いただろう?」

「“強引”を強調しないで下さい殿下。両者の利害が一致した結果です」


ユリウスが言う”強引“とは、ヴィアンヌにではなくナーベルイス子爵家に対して行った強権発動だ


ヴィアンヌから婚活の意思を聞いた日の夜、帰宅したワグナー公爵に「結婚したい女性が出来た」と報告


相手は子爵家の三女であるが、現在王宮に侍女として就業しており侍女長の覚えめでたい


婚約の話を進めるにあたって両家の問題は身分とヴィアンヌ本人の意思だった


「公爵家次期当主という肩書きが初めて役に立ちました」

カップを片手に薄ら笑みを浮かべた


「公爵家側からの申込みならば子爵家は拒否出来ないよね」

「いえ、ナーベルイス子爵は間髪いれずに断りを入れましたよ」

「「えっ!?」」

ユリウスとエミリーティアは思わず声を上げて驚いた


「多少時間は取られましたが、私の“熱意ある説得”に納得していただきました」


もちろん“熱意ある説得”の内容にはヴィアンヌ本人の意思確認も含まれている


「何はともあれ、おめでたい事に変わりはありませんわ」

「そ、そうだねティア。今度お祝いの品を一緒に選ぼう」

「はい、殿下」


話しながら当時を思い出したのか、押しころすように笑うブルプロに若干引き気味の二人であった


ブルプロ目線は需要ありますかね?

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