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「面白いな。人間でも十年経てば違うものが宿るらしい。お前は私たちに、魔女に似ている」

「それはどうも。だけど、わたしは別に使徒とかが身体に入っているわけじゃないよ。普通の人間」

「とも、違うだろう。記憶では、お前は十年前ですでに魔法少女に成れていたはずだ。だから、面白いといっている。魔法少女なのに、魔女に似ていることが」

「まあ、そうかもね」


 シェオルも笑った。自分でもそれは分かっている。魔法少女ならば、『こんなこと』は考えもしないだろう。


「それで、どうするの?」

「――死の恐怖を与えなければ、真の力は見せないと思っていた。アテネの力、魔法の秘術を。証を認め、鍵は手に入れた」


 シェオルの問いにはまた答えず、エリスは瞼を伏せこちらの理解できないことを呟き、そして、


「もう用はない」


 シェオルから視線を外し、窓から空を見上げた。陽の光りに目を細め、漆黒の髪と装束を白く照らしながら身体の向きを変える。話は終わったとばかりに、もうこちらには意識を向けてはいなかった。


「逃がすつもりはないよ」


 シェオルの視線が変わる。その瞬間だった。


「――聖母の聖堂よカテドラル・デュ・ヴィエルジュ!!」


 声が響き、鐘が謳うように聖堂に透明な音律が奏でられた。目に見えない壁が周囲を包み、一瞬だけ閃光の線を顕しながらもう一つの聖堂を構築していく。


 キィィィン――――


 祝福の余韻を残しながら、透き通った聖堂が完成する。触れた光が七色の虹を照らし、聖堂内をより荘厳で神聖な場へと彩った。結界は完成したのだ。


「――白銀の女か」


 それだけを呟き、エリスは顔だけを動かした。シェオルとは違い冷たく鋭く、何の感情も表さないまま瞳を向ける。


「私も、貴女を逃がすわけにはいきません」


 セレスは上げていた腕を下ろし、静かに見つめた。動揺が無くなったわけではない。だが、エリスを――フルールをどこかに連れていかれることだけは止めなければいけなかった。もう、後悔はしたくない。フルールを一人になんてしたくない。


「止めて、どうするつもりだ。力も術も上がったようだが、それでも私には勝てない。この程度の結界で閉じ込められることはない」


 無感情に淡々と続けるエリスの言葉にセレスは黙った。エリスの言葉は事実だ――強力な結界だが、従僕ならともかく使徒であれば足止め程度しかならないだろう。戦ったセレスにはそれが分かる。だからといって、大人しく退くわけにもいかない。


(傷つけるわけにいかない。魔法で……抑える。動きを止めることができれば、時間を作ることができれば、何か方法はあるはず)


 セレスはエリスから視線を外さず、考えを続けた。実際……認めたくなかったが、フルールからエリスを抜け出させる方法は分からなかった。そうなれば、捕らえるしかない。もちろん、『捕らえる』ということもしたくはない。だが、『戦う』よりも良かった。


「……セリッサとシェオルは下がっていなさい。私が相手をします」

「お母さん……」


 振る向くことなく告げる母の横顔に、セリッサは小さく呟くことしかできなかった。まだ動揺が抜けきらず、微かに震える身体を止めるために拳をギュッと握る。


(フルールさん……リュテちゃんのお母さんと、シェオルさん……リュテちゃん)


 亡くなったと思い込んでいたフルールが目の前に現れ、そして、その身をエリスが支配している。シェオル――リュテは知っていたかのように封印を破り、エリス――母親の前に立っていた。その全てを目にし、セリッサは自分が何をすればいいのかが分からなくなっていた。


「っ……」


 シェオルと目が合う。シェオル――リュテはこちらへと視線を向けていた。実際は母であるセレスを見つめていたのだろうが、セリッサはその瞳を見て、激しくなる鼓動を抑えるように握った拳を胸に当てる。

 呼びたかった、大声で名前を――だが、セリッサが呼びかける前に、シェオルが先に口を開いた。


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