六
「ん……ぅ……っ……っ!」
フルールは大鎌を杖にし、身体を起こし膝を付いた。
エリスを見つめ、必至に意識を繋ぎ止める。今、何ができるか、何をすればいいか、どの答えが正解か――
身体は動かない。魔法は――後、一つ、ううん、二つ。後のことを考えちゃ駄目――ここで決めなきゃ全てが終わってしまう。
エリスは動ける。浄化をするには、後一つ、大きな一撃が必要だった。だが、今の自分では攻撃魔法は難しい。何より攻撃の魔法はより時間もかかってしまう。だとすれば――
(……セレスちゃん)
しかいない。セレスはまだ十分に動けた。近接されれば難しいかもしれないが、距離をとることができれば魔法で十分対抗することができるはずだった。ただ、いたずらに距離をとれば、エリスは逃げるかもしれない。
「――――」
そういえば、と思う。さっき、エリスは大鎌を受けることを嫌った。それは、もしかして力がなくなっている証拠じゃないのか。魔法の力はあっても体力はなくなってきている。そして、今も魔法で身体の動きを補助してるとしたら――
(そうだとすれば、今の自分でも動きを止めることができるかもしれない)
動きを封じて――一撃を放つ。浄化のできる状態になれば、こちらの勝ちだった。
ザッ――と地を鳴らし、エリスは翼を翻しゆっくりと立ち上がった。翼に白き羽と花弁が舞い上がる。
その刹那、羽と花弁の間で、フルールとエリスの視線が交わった。だが、すぐにエリスは瞳を逸らす。フルールの後ろへ、セレスの方へと。
――迷う時間はもうなかった。
「セレスちゃんっ!」
フルールは叫びとともに、最後の力を振り絞り立ち上がった。
「魔法を撃ってっ!!」
倒れそうになる身体を地を蹴ることで何とか保ちながら、エリスの懐へと飛び込む。
「っ――!!」
体当たりのように懐を掴まれたエリスの顔が苦痛に歪んだ。予想通りだった。エリスも身体の傷は大きかったのだ。
「フルールさんっ!」
セレスの声が聞こえるが、フルールは自分の意思が伝わってと祈り願いながらエリスの片腕を掴み引きつつ、開いたもう一方の手で胸の服を握り、全体重を載せ身体を押し倒した。
ドンッという衝撃に、麻痺していた身体に痛みが蘇る。だが、フルールは僅かでも感覚が戻ったことに感謝しながら、エリスの身体を押さえ込んだ。左手はエリスの右を掴んだまま、右足の膝で左手を固定し、残った右手で胸を押さえる――身体に力が伝わっている内に、麻痺し力がなくならないことを祈って、フルールは動けなくしたエリスを見つめた。
「これで……終わりだよ」
エリスは変わらず冷たい視線でフルールへと視線を向けた。応えてくれることを期待したわけじゃなかった――だが、
「――白銀の女が撃てば、お前も死ぬぞ」
エリスは唇を動かし、囁くように声を出した。心配したわけでも、脅したわけでも、迷わせようとしたわけでもないだろう。それは、ただの確認だった。
「うん……分かってる。でも、死なないように頑張る」
フルールは少し驚きながらも言葉を返し、にこりと微笑んだ。そして――
「セレスちゃん、撃って!!」
「っ……」
フルールの叫びに、セレスは声を出すこともできずに戸惑った。
動きが止まった今なら、確実に魔法を当てることができる。フルールも分かっているはずだ。後一撃当てれば、エリスを浄化できるはず。後一撃……大きな魔法を放てば。
(でも……それじゃあ……)
エリスを押さえ込んでいるフルールも確実に巻き込んでしまう。攻撃の魔法は浄化とは違った。浄化は従僕や使徒を消失させるためだけの魔法で人間には何の効力もないが、その他の魔法には効果がある。現実に、確実に、使徒や従僕と同じく。
エリスに魔法を放ち、すでに致命傷ともいえる傷を負っているフルールを巻き込んでしまえば、果たしてどうなるか……
「――――っ!!」
最悪の結果が頭を過ぎり、セレスは目を瞑り俯いた。撃てない――撃てるはずがない。




