七
ファーノは話を止め、胸中で溜息をついた。今更ながらに気付く。魔女の従僕とは違って使徒には意思があり、思索し行動する力がある。それは、恐ろしいことでもあった。強大な力を持ち、用意周到に遂行する敵となれば、こちらもそれだけの覚悟をしなければならない。しかも、魔女の使徒がどこに居るか分からない以上、こちらは全て受けに回らざるを得ないのだ。
そこまで考え、ファーノはもう一つ気付く。長い歴史の中で、魔法少女はいつだって守り続けてきた。終わりの分からない戦いを、ずっと勝ち続けてきた――そう、黒白の聖女のように。
「エリスは多くの従僕とともに聖都へと進攻しようとした。だけど、それを防ぎ、エリスを倒したのが白銀の聖女セレス・フリンデルと、漆黒の聖女フルール・ヘスティアの二人だった。こうして、八年続いた『エリスの災い』は終わりを告げる」
話が終わり、ファーノはふっと息を付き、教壇へと寄りかかった。思わず流れで話してしまったが、『エリスの災い』も、そこで起こった聖女の後継も魔法少女であれば誰もが知っていることであり、今更説明する必要もなかった。そして、その後の歴史についても説明の必要はないだろう。
「『エリスの災い』の後に、魔女の使徒は現れていない。って、まあ、皆知っているとは思うけどね」
『エリスの災い』以後、それはまさに自分たちが生きてきた時間だった。だから、習う必要はない。習わずとも、知っている。覚えている。
――そう、覚えている。忘れるわけがない。
「…………」
ファーノの話が終わり、セリッサは目を伏せた。『エリスの災い』の終わったあの時、全てが変わったあの時を思い出して――
「何か質問は?」
ファーノは腕を組み、茶目っ気を含んで問いかけた。自習時間だし、こういうこともいいだろうと思う。皆がどんな風に『エリスの災い』を捉えているのかも興味はあった。
「んー……というか、なんでこんな話になったんだっけ?」
手を上げることもなく、しかも、質問でもないレオネの発言に、ファーノだけでなく思わずセリッサも苦笑してしまった。
「わたしたちも戦うかもしれない、という話からですよ、レオネ」
「あ、そっか、そうそう。あたしたちも戦うかもしれないんだよね、今のままだと」
セリッサの言葉に、うんうんと頷くレオネを見て、ファーノは補足した。
「今のまま従僕が増えれば、ね。実際、どうなるかは分からないわ。従僕が増えているといっても『デュスノミアーの混乱』ほどではないし、今は予兆でしかない」
そこまで話し、ファーノは溜息をついた。さっき、自ら考えたことをもう一度思い出したからだ。
「結局、私たちは使徒が襲来するまでは何も分からない。使徒が出てくるかどうかはあちらの都合であって、こちらが決められないんだから。だから、こちらは備えるしかできない」
「う~、そういうこと。魔女の使徒が現れたら戦うかもしれないってことなんだ」
「なにか、戦いたくないみたいな言い方ね」
「いや、戦いたくないってことでもないんだけどさ……あ~」
レオネは唸り、腕を投げ出す格好で机に倒れた。戦いたくないということはないのだが――いや、そもそも戦いが起こらないほうがいいのだが――『戦う』ということに関して、まだレオネは慣れていなかった。レオネの性格もあるかもしれない。だから、戦うことに抵抗がないファーノやイリス――そして、シェオルのことは尊敬もしていた。ただ、羨ましいとは思わなかったが。
「でも、すごいよね。ミュゲ先生とか学園長とかは生徒の時にバンバン戦っていたってことでしょ? 使徒とかとも」
「バンバンって、レオネ……」
うつ伏せのまま顔だけを上げて呟くレオネに、目の前に居たセリッサは振り返って苦笑した。




