六
「信仰の深さ、身体能力、精神力、適応力。後は、生まれ持った運命や才能によると言う者もいる。明確なものが分からないからこそ、魔法少女学園がある。全てを教え、人間として教育し心と身体を成長させることが、アテネの力を引き出す最も近い道だと考えられているからだ。とはいえ、『人間として教育する』というのは、別に魔法少女学園だけの理念じゃない。一般の学園でも、教育者ならば誰もが信念として持っていることだ。二つの違いは、生徒が魔法少女かどうかということになる。そして、当然ながら魔法少女学園は魔法少女でなければ入ることはできない」
ミュゲはここまで話し、間を空けた。つくづく自分が教育者には向いていないことに気付く。教師ならば……聖女である学園長ならば、求められていることを明快に教えることができるだろう。だが、ミュゲはやはり隊長だった。長い説明など趣味ではないし、魔法少女そのものにも興味はない。魔法少女として生まれたなら戦うしかないのだから。
「話が長くなったな。つまり、私たちは魔法少女に成るための教育はしていない。アテネの力を引き出す明確な方法は分からないが、魔法少女かどうかは確実に分かる。シェオルは魔法少女ではない」
「……はい」
セリッサは瞳を伏せて返事を返した。セリッサもシェオルが魔法少女に成っていないことは分かっていた。いや、それはセリッサだけではなく、魔法少女ならば誰もが分かっているだろう。
それでもなお問いかけたのは、ミュゲがシェオルに対してどう思っているのかを知りたかったからだった。魔法少女に成れないため、魔法少女としての訓練を受けられないシェオル。異端として一人違う場所に居て、そして、魔法少女として仲間になれていない。たとえ、セリッサ自身が仲間だと思っていても、魔法少女学園の全てはシェオルに対して扱いが分からず距離を置いていた。
「――先生、終わりました」
話の終わりとともに、ファーノら訓練をしていた三人がこちらへと歩いてきた。魔女の水晶を手にし、訓練が終わったことをミュゲへと報告する。
「そうか」
ミュゲは一言返し、イリスが倒した従僕へと近づいた。「天へ還れ」と浄化をし、白き閃光と魔方陣が消えると同時に黒水晶を手に取る。訓練の時間は終わりに近づいていた。
「…………」
――実を言えば、迷いがあった。ミュゲ自身、自分で珍しいと思っている。
相変わらずセリッサは異端の少女を気にかけすぎだが、担当している教師として自分もこのままでいいのかという想いがある。
シェオル・ハデス――魔法少女に成れないとはいえ、果たしてこのまま教えていっていいのか、このままの訓練でいいのか――
「……ふぅ」
ファーノたちの訓練が終わったのを見計らって、シェオルもランニングから戻ってくる。しばらく息を整え、最後にふっと息を吐いた。あれだけ走ったのに息が激しく乱れていない。余裕がある。
「シェオルさん、お疲れ様です」
「ありがとう、セリッサ。まあ、疲れるほどではなかったけどね」
声をかけるセリッサに、シェオルは笑って答えていた。その姿を見つめ、ミュゲはなお胸中で自問した。
この少女の力の源は何か――『あの少女』であることにも揺らぎが出始めていた。雰囲気は似ている。だが、何者かが分からなくなってきていた。
答えを知るなら簡単だ。本人に直接聞けばいい。答えてくれるかどうかは分からないが、少なくとも答えはシェオル自身が全て持っている。
「訓練は終わりだ」
だが、ミュゲは問いかけることはせず、授業の終わりを告げた。聞くことを躊躇ったわけではない。聞いて答えるようなら、すでに先に話しているだろうと考えたからだった。何者かに疑問はあっても、シェオルの性格は数日の内で知っている。
いつも通りに校舎へと戻ろうとする生徒たち――が、今日は違った。
「先生、手合わせして貰えませんか?」
シェオルの発言に、生徒たち七人は驚いて立ち止まり顔を向けた。ミュゲもシェオルの言葉を一度考え、それから視線を向ける。
まるで、こちらの話を聞いていたのかとさえ思う。それとも……認めたくはないが、自分の迷いが悟られたのか。シェオルの訓練に関する迷いを。
「シェオルさん、何をいって……」
沈黙が流れる中で、最初に声を出したのはやはりセリッサだった。心配そうに声をかけ、近づこうとするが、それはシェオルから手で制される。
シアは理解ができなかったのかキョトンとし、レオネとシュティは驚きのまま声を出さずシェオルを見つめていた。ファーノとイリスはシェオルの発言に視線を鋭くさせ、あまり感情を出すことはないステルでさえ空気を変えている。
その全ての生徒の態度を視線の隅で感じながら、ミュゲは改めてシェオルに向き直った。




