三
「浄化はまだ使えませんが、剣聖の孫であるイリス・アイリの実力は誰もが認めるところですし、フミュッターヒェンの三女、シュティも期待が持てます。唯一、レオネ・レーベェンツァーンとシア・オルテシアだけはまだ開花ができるだけのようですが、レオネはセリッサとも仲が良いようですし、周りにこれだけの生徒がいればレオネやシアの実力も早く伸びるでしょう。後は、担任ですが――」
(それでも、若いことには変わりはないわね)
自分と比べればやはり若い……とはいっても、セレス自身、学園長としては若年過ぎた。三十二歳でアルカンシエルの治安の全てを任され、魔法少女全員の命を預かるのはまだ早すぎるだろう。例え、その責任を背負い役割を果たせていたとしても……世間がそう認めてくれ、自らも命をかける覚悟があったとしても、やはり若年だろうと思う。
「七人の上、これだけの魔法少女が揃っていれば、やはり担任も――」
とはいえ、それでも自分が魔法少女の中では年長にあたり、何より学園長であるならたしなめなければならないだろう。
セレスは説明を続けるシュムに内心で苦笑しつつ、机に肘を付き両手を組むと一言呟いた。
「八人」
「え?」
「七人ではないわ。入学者は八人よ、シュム」
「ぁ……はい、そうですね」
指摘したセレスの言葉に、決して忘れていたわけではないだろうがシュムは困ったように迷って返事を返した。
シュムの気持ちは分からなくはなかった。特例で認めた入学試験での、あの魔法少女を否定したような態度を見れば、誰でも不審を持ち怒りを持たれても仕方がない。
それでも、
「シェオル・ハデスは、もうアルカンシエル学園の生徒よ。一度、入学を認めた以上、そして、『力』を持っている以上、どういう子であれアルカンシエル学園の魔法少女には変わりはない。それに」
セレスはシュムに視線を向け、にこりと微笑んだ。
「そういう子だからこそ、私たちがきちんと導いてあげるべきでしょう」
「……はい」
シュムは一拍の間を置き、静かに返事を返した。理解はしても納得はしていないだろう。だが、不満を表に出すほどには彼女は子供ではなかったし、感情で仕事をしないことも知っている。仕事となれば、完璧にこなそうとするはずだ。
今回のことも、セレスの前だからこそ甘えが出たのだろう。つまり、感情で納得できずシェオルの名を言わなかったのは。だが、セレスの前だけで不満を出してくれるのは逆に有難い事でもあった。もし、不満を言わなくなったら危ないと言わざるを得ない。上司の前で不満がいえるのは、それだけ信頼されているということなのだから。
それに、自分へ不満を言ってくるだけで他の仕事を完璧にしてくれるというのであれば安いものだった。それで、彼女が力を発揮し、周りにも良い影響を与えてくれるというのであれば、いくらでも喜んで不満を受けた。そして、それが学園長という仕事だろうとも思っている。
それに、更にいうなら――
「すみません。分かりました、学園長」
内にある不満を消し、いつもの表情に戻ったシュムにセレスはもう一度微笑んだ。
更にいうなら、シュム自身もセレスが考えていることは理解していた。それを含め、彼女はやはり優秀だった。
「しかし、シェオルのことも考えれば、尚更担任選びは大事に――」
(――優秀、か)
担任の話に戻して説明を続けるシュムの言葉を聞きながら、セレスは組んだ両手を外し机に置いていた書類へと視線を落とした。
優秀な新入生たち――能力、立場関係なく、新入生は全て優秀だった。聖女として、学園長として、そして、大人として子供たちに差異をつけることはしない。誰もが力を持ち、それを引き出すのが自分の役目だと考えている。それは、信念としてある。
しかし、その信念に揺るぎはないとしても、確かに今年の新入生は周りの認識も含め実力的に優秀であることは認めざるを得なかった。シュムの言うとおり、おそらくは近年でも群を抜いて実力のある新入生に違いはない。
(その中でも――)
シェオル・ハデス――優秀ということであれば、彼女が一番優秀だろう。
いや、優秀というよりは、一番経験があり、実力があった。『下手をすれば、目の前のシュムよりも』。
水晶の数を見れば、そして、入学試験の戦いを見ればそれは分かった。おそらくは、今回の入学者の中でも一番の実力があるはずだ。天才といわれるステル・マーンよりも……同じように周りから天才といわれている自分の娘よりも。
(誰よりも強い天才……セリッサと同じ年齢の漆黒の少女……)




