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十八

「――なるほど、事情は分かりました」


 数分後、説明を聞き終えたシュムは頷き、視線を問題の少女、シェオルへと向けた。


「申し訳ありません。本来なら、まず教頭にお伝えしなくてはいけないことを独断で行ってしまいました」

「うぅ、ごめんなさい……」

「いえ、確かにそれが良かったとは思いますが、今回に限っては仕方がなかったでしょう」


 謝るティスとリップにシュムはかぶりを振ってそう伝え、改めて聞いた内容を反芻した。


「シェオル・ハデス。東方の国(オリエント)出身。肉親はおらず、今まで旅をしていた。そして、開花(フルーリール)をせず、魔法少女の力、浄化を使うことができる」


 出身はともかく、名前と履歴、力を聞けば誰もが不審に思って当然だった。ティスとリップだけではなく誰もが同じような判断を、つまりは試験という形をとってしまっても不思議ではない。何より魔女の水晶を持っているのなら。

 そして、実際に魔法少女の浄化の力を使ってしまっている。こうなってしまうと、いまだシェオルという人物の判断は難しくとも結論だけは出さざるを得なかった。

 不審な点があっても、従僕を水晶に戻す力がある限り学園に置かないわけにはいかない。入学を認めざるを得ない。


「どうされますか、学園長?」


 シュムは振り返ると、セレスに問いかけた。結論は出てしまっている、だが、それでも最終的な決定は当然学園長にある。誰もが尊敬し、間違った選択をしないと信じている聖女の判断を疑う人間はいない。


「お母さん……」


 セリッサは小さく呟き母を見つめた。セレスはここに来てからまだ一言も発していない。だが、自分と同じなら、シェオルの姿に同様の感情を抱いているはずだった。

 いや、抱いている、そう思いたかった。忘れるはずがない、必ず気付くはず。


「シェオル・ハデス」


 セレスは確認するように名前を呼び、改めてシェオルへ視線を向けた――変わらない、普段通りの顔で。


「はい」


 シェオルも返事を返す――今までと全く変わらない、そのままの自然体で。


「…………」


 その二人の姿に、セリッサは胸の痛みと共に目を伏せてしまった。

 自分だけ……自分一人だけが何かを感じ、迷い悲しんでいるのだろうか。一人で空回り、馬鹿なことを考えているのだろうか――


「浄化をすることができても、あなたの力は不確かな未熟なものです。魔法少女に成れなければ訓練することさえできません。この学園は、魔法少女に成ることを目的にしているわけではなく、魔法少女を育てるための学園だからです」

「はい」

「それを理解し、自覚しなさい。あなたはまず魔法少女に成ることです。今の力を使うことは禁じます。それが入学の条件です」

「わかりました」


 一泊の間を置いて、シェオルは頷き返事をした。

 実際、入学の条件といっても入学させないことはないだろうし、禁じるといっても退学もさせないだろう。そもそも、魔法少女学園自体に退学という制度はないのだが。

 魔法少女である限り、学園の入学と在籍は絶対だった。シェオルのように魔法少女に成れずとも浄化の力が使えるのならば例外ではない、とセレスは判断したのだろう。だからといって、簡単に入学を認めるわけにはいかなかった。

 つまりは、


(警告っていうほど大げさじゃないだろうけど、釘刺しってところかな)


「入学の条件」という言い方をした意味に気付き、シェオルは内心で苦笑した。当たり前の判断だろう。誰が見ても、そして、シェオル自身さえも自分がどれだけ怪しい人間なのかは分かっていた。信用すべき点は一つもない。


「でも」


 しかし、セレスの言葉に納得しながらもシェオルは一つだけ付け加えた。

 信用できなくても結果として、現実として認めざるを得ない点はあるはずだった。浄化という力だけは。


「有用であれば力を使ってもいいんじゃないですか? 現に、わたしは水晶の数だけの実践を行ってきました」


 にこりと微笑み、シェオルは周りを敵に回すと知りながらも更に加えた。


「魔法少女に成らずに今のままで力を使えるというのなら、よほど確かな信用できる力だと思いますけど」


 そのシェオルの言葉に、予想していた通り周りの空気が変わった。それは魔法少女を否定している言葉だったからだ。

 セレスと、そして、セリッサ以外の表情が変わる中、嗜めるように落ち着いた声音で――まさに学園長らしく、聖女らしくセレスはシェオルへと口を開いた。


「結果だけが大切というわけではありません。魔法少女というのは、存在に意味があるものです。戦うだけの存在ではない」

「希望と奇跡の象徴ですか?」

「その通りです」


 シェオルの言葉に、セレスははっきり答えた。一遍の迷いもなく、真っ直ぐに。

 それは、真実や信仰というものではなかった。セレス自身の生き方であり信念であり、自身が決めた誓いだった。だからこそ、聖女たりえている。


「なるほど」


 シェオルは頷き、セレスの視線を真っ向から見返した。


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