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百聞は一見にしかず

去って行く美智の後ろ姿を見て、ああ、きっと、私はこのまままた菊田ひろみへの復讐を逃してしまうのだろう。


『おい、追わなくていいのか?チャンスだぞ』


毛玉に言われなくても分かってる、これはチャンスだ。

ここで菊田ひろみを殺してしまえば私の復讐は終わる。


数年前、校門の前で菊田ひろみとすれ違った時があった。

ひろみは私を見ると、いつものように虫も食わぬ笑顔で私に、『また明日ね』と手を振っていたが。

自転車のミラーに映るひろみは私に向かい中指を立てながら、べっと真っ赤な舌を出していた。

天使のような笑顔で向けられる大きな悪意は確実に私の心を抉っていく。

確かに…私があの時本屋で魔が差したのが良くなかった。

それをたまたま菊田ひろみに見られた事が最悪の偶然。

私は永遠に菊田ひろみの影に怯えて生きなければならないのかと。

このまま私は永遠に誰も信じられず友達を作る事もできにないのだろうか?

やっぱり、ずっとはイヤだ。

気付いたら私は美智の後を追っていた。


『殺るなら早く殺っちまえよ』


脳内に響く下卑た毛玉の声に頭を振った。

殺したい殺したい、頭の中がそれだけでいっぱいになる。

できる事ならこのまま、こいつを消してしまいたい。

あの時私を苦しめてたモノ全て消してしまいたい。

私が苦しんでいた時手を差し伸べてくれなかった全ての人を消してしまいたい。

いや、いっそう自分が消えればいいんだ。

そうだ、そもそも私は死ぬべき人間なんだ。

存在する価値の無い人間。

さっきまでの威勢は消え失せ、過去の記憶が心を壊していく。

こんなんだから私はいつも…。


『どうした?追わないのか?』


歩の止めた私の目の前を毛玉がプカプカと浮いていた。

追う?このまま追って何になる?

追ったところで私には何もできやしない。

そうしてる内に美智の姿は人混みの中へ消えて行った。


『馬鹿な女だ、せっかくの機会を無駄にしたな』


女の人の叫び声が毛玉の呆れ顔をかき消した。

吹き抜けの下の階から聞こえた叫び声に次第に人が集まり、何事かと見ようとする人達に押しやられ、私はガラス越しの手すりにつかまる形になった。

人だかりの中心に胸から血を流して仰向けに倒れている男性が見えた。

まだ僅かだが動いているように見える。


『あそこにいるのは…』


毛玉の切羽詰まったような声を初めて聞いた気がした。

糸目が大きく開き、その先に写っていたのは…。

胸から血を流して仰向けに倒れていた男性の上に毛玉によく似た生物が男性を見ていたのだ。

男性の体が黒色の霧のようなモノに包まれていく。男はそれを掴むように何度も両手を動かしていたがやがて力尽きたように動かなくなるのと同時に人形の影が男の体から出てきた。

一瞬、ほんの一瞬。

その影が私を見た気がして、鳥肌が立った。

例えようのないほどの悪意を感じたのだ。

憎悪、妬み、嫌悪。人が考えうる負の感情を集めたような影。

何あれ…。

やがてその影は毛玉に吸い込まれていった。


『あれが人間の汚い魂だ、百聞は一見にしかずだな』












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