第一話-星の降る 夜の麓で 僕たちは 世に見守られ 出会いを果たす
流星群の下を飛び交う僕たちは、
海の中の、夜空で出逢った。
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僕は、憂鬱なまま布団から手を伸ばし、ノートパソコンを開く。それくらいしかやることもできることもない。うじうじじめじめとした自己嫌悪を海に投げ捨て、定まらないありのままで発言を繰り返す。こんな日常がいつまでも続きそうな気がする。でも、続いてほしいくせに、とっとと終わってほしいと思う自分がいる。人間というものは、どうしてこう曖昧なのだろうか。なんて、他人のことなんて言えない癖に偉そうに考えてしまう自分に嫌気が差す。
日課が終わると、慣れた手つきで行きつけの短歌投稿サイトにログインする。ネットでは「Kasumi」で通っている。通知は、選ばれし3人のフォロワーからの既読のみ。フォロー中のユーザーの新作が目の前を通り過ぎるだけで、こっちには大層な通知が来る。分かっちゃいたけど、現実はそう甘くない。
今日はなんだか、自分の体や声にひどく違和感がある。昨日は平気だったはずなのに、鏡に映る自分が、まるで知らない他人のように見えて気味が悪い。 動悸がしてしまうし、体調が悪いのだろうか。それとも、僕の精神がどこかおかしくなってしまったのだろうか。
軸がない。芯がない。一貫性がない。
日によって自分の心の『形』が変わってしまう気がして、そんな自分がたまらなく怖かった。どうしても、社会のレールにそって歩けない。 どこにも固定できない僕は、この世界では出来損ないのようだった。
定まらないありのままの自分を、白か黒かで割り切れないこの憂鬱を、僕は31文字に閉じ込める。
『名前なき 憂鬱のなか 溶けてゆく 僕の輪郭を 誰も見抜けず』
推敲もせず、吐き出すように画面の「詠む」ボタンを押した。どうせいつもの3人しか見ない。それでいい。ネットの海に沈めた、僕の心の錨のようなものだ。またここにいる意味ができた。
ノートパソコンを閉じようと、液晶の縁に手をかける。 その時、まだ薄暗い部屋の静寂を破って、ピコンと電子音が鳴った。 気を抜いていた画面は、慌てて明るさを調節し、画面の右上のポップアップを見せつける。
――あなたの短歌に返歌が届きました。
いつもの3人の誰かだろうか。そう思いながら通知をクリックした僕は、息を呑んだ。 そこに表示されたのは、見覚えのないアカウント名だった。
『白と黒 混ぜればグレーと 誰が言う 私は私の色で生きるよ』
それは、世間の用意した「白」か「黒」の二分論を、したたかに一蹴するような一つの歌だった。
流星群の下を飛び交う僕たちは、海の中の、夜空で出逢った。
自分のあるべき姿が分からなくて、出来損ないのようで、怖かった僕の世界に、その日、誰も見たことのない新しいきらめきが飛び込んできた。




