第一章 落ちこぼれ聖女
鐘が鳴るたびに、私の心は少しずつすり減っていく。
王立聖女学院の廊下は、今日も白い光魔法で満ちていた。窓から射し込む夕陽よりも、廊下を歩く上級生たちの手元から漏れる光の方が明るいくらいだ。どこを向いても眩しくて、まっすぐ歩くのが少し難しかった。
「ねえ見て。またエルセが測定室から出てきた」
クローデットの声は、わざとらしく廊下に響いた。彼女の周りに集まった同期の見習いたちが、揃って私の方を向く。その目つきは同情でも嘲笑でもなく——もっと質の悪いもの。純粋な好奇心だった。
「今日はどのくらい出たの? また測定不能かしら?」
「……そうです」
声が震えないように、精一杯だった。
聖女の魔力は、測定水晶で測る。青白い輝きが高ければ高いほど浄化能力が高く、将来が約束される。クローデットは並みの水晶では割れてしまうほどの魔力を持っている。
私は——測定水晶が光ったことがない。
一度も。
入学してから二年間、毎週の測定で、一度も。
「神託儀式で聖女の器と出たのに、本当に不思議よね。もしかして神様の間違いだったりして」
「光魔法も出せない聖女って、無能力者と同じじゃないの」
クローデットたちの笑い声が廊下に広がった。
私はうつむいたまま、足早に立ち去った。違う、と言いたかった。でも、結果は測定不能。私自身も本当に、「聖女の器」なのか疑問に思ってしまっている。
測定室を出る前に、担当教官のグランドール先生がため息をついた声がまだ耳に残っている。
「エルセ見習い。聖女学院にいる意味を、もう一度よく考えなさい」
「はい……グランドール先生」
(考えている。毎日、考えている……)
でも神託が出たのは事実で、ここを辞めたら私はどこへ行けばいいのか、それだって私には分からなくて。
廊下の端、窓枠に肘をついて外を見た。夕暮れ前の校庭は人影がない。
◆
……ふと、十年前のことを思い出した。
私が八歳の時の話だ。
王都の神殿で執り行われた「神託の儀」。白い列柱が並ぶ大広間に、神官様たちが並んで、子どもたちが一人ずつ祭壇の前に立つ。私の番が来た時、両親が後ろでじっと見守っているのが分かった。
祭壇の光晶に、そっと両手を当てる。
次の瞬間——光晶が、白く輝いた。
神官様が息をのむ音がした。
「……聖女の器、あり」
その言葉が広間に響いた瞬間、後ろから駆け寄ってきたお母さんが、私を強く抱きしめた。
「エルセ……! よかった、本当によかった!」
お父さんも目を赤くしていた。いつも穏やかで、声を荒げたことのない人が、その日だけは声を震わせていた。
「誇りに思うぞ、エルセ」
あの時の温かさを、今も覚えている。二人の腕の中で、私は世界で一番大切にされているような気がした。
——なのに。
(あれから十年。私は何を証明できたんだろう)
「聖女の器」を持つ者のみが門をくぐれる王立聖女学院。十五歳で入学して以来、私は一度も聖女としての成果を上げられずにいる。
窓の外を流れる雲を見ながら、胸の奥がしんと冷えた。
神託は本物だったはずだ。光晶が輝いたのも、確かなことだったはずだ。でも光魔法は使えない。測定水晶は光らない。学院の先生たちの目は、入学した頃より確実に温度が下がっている。
(私が聖女の器だなんて、やっぱり間違いだったのかな)
そう思うたびに、あの日のお父さんとお母さんの顔が浮かんで、もっと苦しくなる。二人を喜ばせたくて、二人の誇りでいたくて——それだけで、ここまで来たのかもしれない。
でも。
(もふもふさん、今日も来てるかな)
そんなことを考えて、初めて口元が緩んだ。
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