っす!
「いってらっしゃい!」
「っす!」
朝食後蒼大を見送る。騎士団の兵舎で女性が働く事は残念ながら出来ないみたい。本格的に何か見つけないと暇になってしまう。そう言えばサトウ国の読めない文字の文献が……って言ってたよね?
「ねぇレノックス、サトウ国ってここからどれくらいかかる?」
「サトウ国なら船で4日程掛かるよ。手紙なら空便で1日で届く」
「空便?」
まさか佐藤さん、飛行機迄再現したとか?
「ハヤイ鳥が運んでくれるんだ。飛ぶ速度が凄く速いからハヤイ鳥って言うんだよ」
「なるほど!」
鳥ね!ネーミングも分かりやすくて納得!
人間は船で4日ってどのくらい離れてるのか分からないけど近すぎず遠すぎずかな?
「クルーデン伯爵から読めない文献の話をされたんだけど……」
「うん、今まで何人もの学者が解読しようと試みたけど誰一人読めなかったんだ」
もしその文献が解読できたら、この世界で私の仕事が見つかるかも。
話していると丁度タイムリーにハヤイ鳥が到着したらしい。
私と蒼大宛てに、是非初代サトウ王と同郷の私達に遊びに来て欲しいとの内容だった。文献も一度見て欲しい。と付け加えられて。
騎士団に入団した蒼大は自由に動けないだろうから、私1人で行くしかない。
解読できるかは見た瞬間分かるだろうから、二泊三日くらい滞在するとして、11日くらい蒼大に会えなくなっちゃうけど。
このままここでお世話になっていてもやる事が無い私は、とりあえずサトウ国に旅立つことを決めた。
蒼大と離れるのは寂しいけど、私もこの世界で出来る事を見つけたい!
夕食が終わり、私の部屋でホットミルクを飲みながらサトウ国行きを切り出すと、蒼大の心配性がまた発動したみたい。
蒼大は眉間に皺を寄せて、嫌ってほど顔を歪ませた。
「俺も行く」
「蒼大は騎士団の訓練があるでしょ?」
「休む」
「駄目だよ、入ったばかりなのに」
「じゃぁ辞める」
「は?何言ってんの?」
あんなに歓迎されてすぐ辞めるなんてあり得ない。
「1人じゃ危ないだろ?」
「1人じゃないよ?レノックスも一緒に行くって」
「尚更危ないだろ!」
「なんで?レノックスが一緒なら護衛もいるって事だよ?」
「そー言う問題じゃねえって!あいつ、わざと二人きりになるように仕向けたんじゃね?」
「まさかぁ〜」
蒼大は思い切り溜息を吐いて首を振る。
これいつもの押し問答になるパターン。
「だってレノックス七海の事口説いてたよな。七海がこの世界に来たのは僕と出会う為だったとかクサいセリフ吐いてただろ?」
「いや、アレ多分この国の初対面の礼儀だと思う」
「んなわけねーだろ!」
「だって今日2人の時間もあったけど何も言われてないよ?」
「作戦だったらどうする!?」
本気で嫌そうな蒼大に違和感。私が誰かに口説かれたら嫌って事だよね?
「なんでそんなに必死なの?」
問いかけると蒼大の顔が一気に固くなった。
「それはあれだ……」
「なに?」
「俺は七海の事が……」
言いかけて言葉を濁し口を結んだ蒼大。
なんなの?こんなのまるで私の事が好きみたいじゃない!いや、まさかね。だって告白しようとした好きな子がいるんだから。勘違いしちゃダメ!
「心配だから……」
少しの間の後言葉が続いた。ほら、一瞬期待した自分がホント馬鹿。蒼大は心配性だって嫌と言う程分かってるのに。
「とにかく!蒼大が騎士になるって自分で決めたみたいに、私も自分の事は自分で決めたいの!心配するような事は絶対にないから」
「分かった。でもサトウ国でまた寂しくならねぇ?寝れねーって言ってレノックスと同じベッドで……」
「レノックスと一緒に寝るわけないじゃん!もう1人で寝れるし!今日も1人で寝てみせる!」
「え……」
蒼大は思い切り肩を落とし部屋に戻っていった。
心配かけて申し訳ない気もするけど、私もこの世界で生きる道を探したいから強気で行こう。
今日もベッドの上に用意されていたネグリジェに着替え寝転ぶと、しんとした空気に後悔の気持ち膨らんでくる。
勢いで言ったけど、今日は寝るまでいて貰えば良かったかな。明日から甘えたくても近くにいないのに。
暫く蒼大の「っす」が聞けないんだ……
後悔した気分のまま離れるのは嫌だ。
そう思い、起き上がってバルコニーに出た。でも初日と違ってバルコニーに蒼大の姿は無い。
「蒼大」
呼びかけるように声を出してみるけど聞こえる訳がないよね。
私も飛び越えて行けたら良いけど、そんな身体能力はない。かと言ってドアから堂々と訪ねるのもなんか違くて。
蒼大、出て来てくれないかな?
そう思った時、テレパシーが通じたのか蒼大の部屋の窓が開いた。
叱られた子犬みたいにしょぼんとした表情でバルコニーに出て来た蒼大だったけど、私の姿を見た瞬間口と目をまあるく開けた。
「七海!」
「さっきはごめ……」
「ちょっと待ってろ!」
蒼大は叫ぶと部屋の中に戻りすぐに出て来た。
「良いの無かった。とりあえずこれ」
差し出されたのは騎士服の肩マント。
「マントがどうにかしたの?」
蒼大は何も答えず自分の胸元をポンポンと叩いた。
あ。分かった。今日用意されていたネグリジェは昨日までと違い胸元が開いたタイプのネグリジェだ。
わざわざ持ってきてくれたのでマントを肩からショールのように羽織る。
「別に平気なのに」
「俺が平気じゃない」
「蒼大って凄く真面目だし心配性だよね」
「だって誰かに見られたらどーする?」
こんな夜中に、こんな細かいところまで気にしてくれる人が他にいるだろうか
「蒼大ってお父さんみたい」
「お……お父さん?俺が……おとうさん……」
「蒼大?」
お父さんと言われたのがショックだったのか絶句した蒼大。ちなみに絶句してもカッコいい。
「なんでお父さん……?」
「心配性だから」
蒼大は困ったように何回か頭を掻き短い溜息を吐いた。
「俺は……お父さんじゃなくて、男として七海の事が心配なんだけど」
言い終えてみるみる赤くなっていく蒼大の頬に私の心臓がドクンと大きく高鳴った。
「……それは、どー言う意味?」
「それは、言葉の通り……あー、だめだ。もう寝る!おやすみ」
「お、おやすみ」
蒼大は真っ赤な顔をして部屋に戻っていった。
男として心配って……まさか?
顔真っ赤だったし。
いやいや、また勘違いしたらダメダメ!でもじゃあ、男としてってどう言う意味なの!?




