天使の子守唄
「っす」
夜になると開けておいたバルコニーの窓から騎士服姿のままの蒼大が入って来た。騎士様達と話しすぎたのか「っす!」が口癖になってるみたい。
「いらっしゃい」
とか笑顔で答えてるけど、内心胸がきゅんきゅんしている。騎士服もだけど、良いよね、こう言うの。
テストは蒼大が太めの棒をフルスイングしただけで、デニスに合格!と叫ばれ入団が決まった。
普通は体力テストとかするらしいけど、人気者の蒼大は免除。皆大歓迎だった。
「入団おめでとう」
「ん!まず訓練生だけど制服は着れるからな」
凄く嬉しそうで羨ましい。
「蒼大は凄いなぁ。異世界来てもう職業決まって。私はどうしようかなぁ……」
野球ができたら良いけど……
「別に働かなくていいんじゃね?一生生きていけるお金持ってるし」
確かに一万円あったらお屋敷と爵位まで買える……って言ってたな。
でも何もしないで生きるのって楽しいかな?暇じゃない?
「ん〜、この世界で何ができるか分かんないけど、働きたいからゆっくり探す」
「そっか。七海がやりたい事があるといいな。つか、肩凝ってねぇ?」
「何急に?凝ってないよ?」
「あ〜、じゃあ何かして欲しい事は?」
「無いよ?急にどうしたの?」
「前言ってただろ。制服は騎士が似合うけど、俺に執事みたいにお世話されてみたいって」
言った。あんな、その時のノリで言ったような言葉を覚えていて実践しようとしてくれるなんて優しすぎる!
「言ったけどそんな事しなくていいよ。蒼大はもう騎士団の一員なんだから!」
「そっか」
何故か肩を落とし残念そうな蒼大に違和感。
なんでそんなに残念そうなの?意外とお世話好き?夜も私が寂しくて眠れないから来てくれるし。
「蒼大はお世話好きなの?」
「や、お世話っつーか……いや、そう」
「じゃあ子守唄」
「はぁ?!」
「歌って」
「そう来たか……」
蒼大は困ったように頭を押さえたけど、私にベッドに横になれと言わんばかりにベッドを指差した。
冗談で言ったんだけど指に従い横になると、ソファに座ったまま恥ずかしそうに子守唄を歌ってくれた。
耳まで赤いのに歌ってくれる蒼大はどれだけお世話好きなの?
て言うかヤバイ、照れている蒼大が可愛すぎて眠れそうにない。
正直蒼大が可愛すぎて全然眠れなかった。
だってこんな事2度とあるか分からないからしっかり目に焼き付けておきたいでしょ?
騎士服姿の蒼大が真っ赤な顔で子守歌を歌う姿は尊いとしか言いようがなかった。
いつまでも見ていたいけど、早速明日の朝から騎士団の訓練が始まるので早く寝ないと蒼大の身体が持たないかも。そう思いそっと瞳を閉じた。
そう、寝たふりと言うやつである。蒼大は天使のように優しいから、私が寝るまで絶対起きてると思う。
「七海?もう寝たのか?」
ううん、なんて答えないよ。蒼大に早く寝てもらう為に友人として、いち蒼大ファンとして……
考えていたら蒼大がベッドの横に立った気配を感じた。と同時に、大きな手が私の髪にそっと触れた。
少しだけ熱を持った指先が、壊れ物に触れるみたいに、ゆっくりと髪の隙間を滑っていく。
「おやすみ、七海」
優しい手つきで頭を数度撫でられ、胸が暴れ出す。
でも平常心を保たないと!心の中で歌を歌い意識を逸らす。
「はぁ、我慢だ俺、我慢」
蒼大が自分に言い聞かせるように呟いてベッドから離れバルコニーの窓を閉めた音がした。
しんとなる室内。騎士服だったし今日は自分の部屋で寝るのかも。
暫くしてからそっと起き上がり、蒼大が居ないのを確認した。
ねぇ蒼大、何を我慢してるの?




