新たなる場所へ
「キャー!ハンスさん、しっかりして下さい!」
叫ぶとハンスはこちらに目を向けてぱくぱくと口を動かして何か言いたげにしている。
「慌てなくていいのでゆっくり喋ってください!」
ハンスは頷くと震えながら一万円札を私達に見せた。
「これ1枚あったら爵位と立派なお屋敷が買えます。お手伝いも雇えます。そして一生食べるのに困らないでしょう。それでもお釣りがくるかもしれません」
「そんなに…」
驚くとハンスはコクっと頷き蒼大の手元にある札束を指差した。
「そ、それだけあれば国も買えるでしょう」
ハンスの顔は真剣そのもの。どうやら本当らしい。国って!
「凄っ!買っちゃう?」
「いや、国買ってどうすんだ」
「王様になれるよ?」
「なりたくねーし」
「そう?私は子供の頃お姫様に憧れてたなー」
女の子なら誰でも覚えがあると思う。キラキラの瞳で可愛いドレスを着たお姫様。素敵な王子様と恋に落ちるの。
「マジか、七海がお姫様になりたいなら買うか?」
「ん〜、子供の頃は憧れてたけど、今はお姫様と言ったら政略結婚の道具にされて顔も見た事がない人に嫁いで、相手はイケメンが鉄板なんだけど愛人がいて最初は冷たくされて最後は夫に溺愛されるか、ざまぁするかのどっちかって感じだからいいや」
「あー、うん、よくわかんねーけどそれは止めとこうぜ」
「何か必要になるかもしれないしね」
2人であーだこーだと100万円の使い道の話をしているとハンスが私に一万円札を返してきた。
「これはサトウ国の王宮に飾られている、言わば国宝なので私は貰えません」
「でも何かお礼がしたいんです」
「では私は商人なので何かお買い上げ頂けますか?」
ハンスが言うと蒼大が手を上げた。
「あ、じゃぁ家欲しいっす。俺と七海が安心して暮らせる家」
あ、これからも一緒に住む気なんだ。嬉しいけど私と蒼大の関係って何になるんだろう。同居友達?
「承知しました。お手伝いも雇いますか?」
「手伝いは別にいらないな」
「では、お2人にぴったりの家を探してみせます!その前に一度領主様にご紹介させて下さい。この世界での身分証も必要ですから」
「よろしくお願いします」
私と蒼大は深々と頭を下げ、お世話になったハンスの別荘を掃除し、最後にもう一度部屋を見回した。
1週間、蒼大と2人きりだった場所。名残惜しさを感じながら、領主様のところへと出発した。




