少しくらい泣いてもいいよね
もう完全に陽が落ちて辺りは真っ暗。洞窟に留まって正解だった。
パチパチと音を立て燃える焚火を眺め、スナック菓子を口に放り込む。
「美味しいけど喉乾いちゃうね」
「それな~。耳澄ましたら水の音とか聞こえてこねーかなー」
「その奇跡起こって欲しい!」
まるでずっと前から友達だったみたいにまったりと話し、一緒に耳を澄ましてみる。
だけど聞こえてくるのは木の枝の燃える音と風に揺れる葉の音だけ。
「鳥も寝ちゃったのかな?」
「かもな。静かでよくね?」
「でも、静かすぎるのも怖いよ」
「俺が一緒にいるから大丈夫」
この人、グッとくる言葉を言うと言うか、いちいち私の心臓を突いて来る。
「うん、ここに一緒に居るのが蒼大で良かった」
至って普通に、そして本音を言ってみたが返事がない。
不思議に思い蒼大の方を見ると両手で顔を覆っていた。
「蒼大?どうしたの?」
「……焚火に当たり過ぎて顔が熱い」
「近すぎるんじゃない?ちょっと離れてパタパタしてみたら?」
「ん」
蒼大は言葉通り焚火から離れて赤い顔をパタパタと手で扇ぐ。
耳まで赤いもの、どれだけ顔を近づけてたの?
……それに、煙は私達じゃない方に流れているのにどうして涙目なんだろう?
目を擦った蒼大は立ち上がり、特攻服を地面に敷いた。
「七海はここで寝る事」
「えっ?でも蒼大が」
「俺は良いんだって」
蒼大は口を結び私を見つめ、敷いてある特攻服をポンポンと叩く。
「私にはカーディガンがあるよ?」
「カーディガンは枕だろ。特攻服は布団!こう、寝袋みたいに身体を包んで」
「そこまでしなくてもいいよ」
「ダメだ。落ちてる小石で怪我したらどーする!」
さっきその小石を拾ってたじゃない。まるで娘を心配するお父さんみたい。心配性なの、意外過ぎてビックリよ。
「気持ちは嬉しいけど私だけなんて嫌だよ!蒼大も一緒になら……」
言いつつ、大胆な言葉を言った事に気付き目線を特攻服に向ける。
広げると大きいから寝転ぶだけなら2人並んでいけそう。けど……近すぎる!自分で言って少し動揺。
蒼大は敷いてある特攻服に目を落としポカンと口を開けた。
固まってる!私なんて事を言ったの?!恥ずかしくて蒼大の顔を見てられない!穴があったら入りたいってこう言う時に使うんだね!
恥ずかし過ぎてギュッと目を瞑る。
と、動揺した蒼大の声が聞こえてきた。
「……え?ああっ、その、七海が良いなら……?いいのか?あーつ!なら、先に寝てくれ!なんか緊張するからさ。先にこう、なんつーかとにかく寝てくれ!」
「わ、分かった!こっちに背中向けて寝るね!おやすみ!」
言い出しっぺの私も動揺を隠せずカチンコチン。早口でおやすみを告げ蒼大の顔も見ず特攻服の半分に横たわった。
胸はドキドキしているし地面は固いしで全然眠れる気がしない。
蒼大は私の背中側に座った気配。ドキドキしすぎて振り向けないけど!
洞窟の中はしんとした静寂に包まれていて、目を閉じたら眠れそうなんだけど全く眠れない。歯を食いしばっているから?
10分以上は経っていると思うのに蒼大はピクリとも動かず座っているし。
「寝た?」
突然響いた蒼大の声に驚きビクっとしたけど、声を聞いたら何だか力が抜けた。
「寝てない。眠れない」
全く寝られる気がしないので諦めて起き上がる。
「俺も疲れてるけど、さっきちょっと寝たせいか眠れそうになくてさ。2人で話でもしねぇ?!」
「うん」
2人で洞窟の壁に背を預け座る。
肩が少し触れる距離に意識しちゃうけど、離れたくはないので気にしてない振りをする。
「この先どうなるのかなって不安は確かにあるけど、ほんの少しなの。蒼大のお母さんのおかげで大丈夫って思う気持ちの方が大きい」
「信じてくれてありがとな」
「信じるよ!あれだけ魔法のカバンの威力を見せつけられたら」
「魔法のカバンじゃなくてラッキーアイテムバックな」
「そこ大事?!」
あははと2人で笑い合うと一気に緊張が解けた。
2人きりで話し始めると、いつの間にか深い話になっていた。
私は将来高校教師になって野球部の顧問になり、甲子園に行くのが夢だったとか、蒼大は将来職業は決めていなかったけど、とにかく好きな子を幸せにするのが夢だったとか。
もう叶えられない夢を打ち明け合った。
蒼大のお母さんと弟の話、母のいない私の母代わりだった叔母とお父さんの話していると、もう2度と会えないし凄く心配しているんじゃないかと思いはじめて。
急に涙腺が緩んで言葉に詰まる。
何か言葉を発しようと思うけど出てこなくて。代わりに鼻の奥がツンツン。
蒼大が何も言わず慰めるみたいに私の背中をポンポンするものだから尚更泣けてきて。
堪えきれない涙がボロボロと溢れる。
ポンポンと背中を叩く手が止まり、鼻をすする音が聞こえ見ると、蒼大も歯を食いしばりつつ涙を溢していた。
「あのさ、俺らもう家族に会えねーと思うけど、母さんが言ってたみたいにめちゃくちゃ有り得ねーくらい幸せになろうぜ。違う世界にいる皆に届くくらいにさ」
「……うん」
声は出ないけど大きく頷いて、暫く2人で泣いた。




