【プロローグ】光の中へ
「 蒼大ーーー!」
ライトに照らされた異世界のスタジアム。客席を埋め尽くす観客の叫びが地響きのように響いている。
私はベンチから立ち上がり、喉が潰れるほど叫んでいた。高校野球の監督を目指していた私が、なぜ異世界で野球チームを率いることになったのか――
すべては、あの雨の日に始まった。
19時02分。従業員出入り口のラックから小川七海と書かれたタイムカードを抜き取り、打刻する。
どんよりした曇り空の下、いつものルートを急ぎ足で歩いていると、ふと頬が濡れた。拭って空を見上げると、街灯に照らされた雨が銀色の筋となり、はらはらと光りながら落ちてくる。
綺麗だけど今は10月。共通テストまで残り三ヶ月、ここで体調を崩すわけにはいかない。
そう思った瞬間、雨は一気に牙を剥いた。
ザアっと音を立て、地面を叩き始める。大粒の雨は顔に当たると痛いくらいで、目を開けていられない。
足は自然と全速力になっていた。視界が悪い夜道を、目を細めながら全力疾走——我ながら危ないと分かっていたけど、早く屋根の下に飛び込みたくて止まれない。
そしてついに、滲む視界の奥にコンビニの看板が光った。
ラストスパート。駐車場を駆け抜けて中に飛び込むだけ——のはずだった。
夏の虫が光に飛び込むように、看板だけを見ていた私は気づかなかった。
この土砂降りの中、駐車場の隅でひとり、傘も差さずにヤンキー座りをしている男がいた事に。
なぜ雨宿りもせずここに?という疑問が脳裏をよぎる間もなく、勢い余って躓いてしまった私の身体は彼にクリーンヒット。
鈍い音と共に、私の全体重が彼へ叩きつけられた。凄まじい衝撃。彼を押し倒すような形で地面に倒れ込んでしまった。
「痛って」
下敷きになった彼が低く呻く。
反射的に謝ろうと顔を上げた、その刹那。
眩い光が視界を白く染めた。アスファルトを震わせる重たいタイヤの振動と、耳をつんざくエンジン音。スローモーションのように世界が引き伸ばされて感じる。
でも、この状態でどうしろと?!
逃げられない!このまま死んでしまう——そう思った時、倒れ込んだ彼と目が合った。
雨に濡れた髪の間から覗く鋭い瞳。
逃げるどころか、まるで庇うように力強く腕を伸ばしてきた彼の手が、私を抱き寄せた瞬間。
迫り来るトラックの白い光を塗り潰すように、倒れている彼が赤く発光した。
次の瞬間、熱を帯びた光が私達を包み込む。
え……?
疑問が脳裏をよぎるのと同時に、私の意識は赤い光の中に完全に飲み込まれた。




