【プロローグ】雨の日に全速力で走ったら
私は今、人生最大、いや、最後かもしれない程の窮地に陥っている。
私と、私が巻き込み一緒に倒れた人に向かいトラックが突っ込んで来ているから。
どうしてこんな事に?ほんの5分前までいつもと同じ土曜日の日常だったのに——
19時12分。従業員出入り口の壁に掛けられたラックから小川七海と自分の名前が書かれたタイムカードを手に取り打刻してバイト先のカフェを出た。
外は夜空を隠すように雲が広がっていてどんよりしているけど、さほど気にする事なく通い慣れた道を歩き出す。
目指すはコンビニ。
毎週土曜はバイト帰りに行きつけのコンビニで週刊漫画を買うのが私の日課。
先週の続きが気になるとコンビニに向かい急ぎ足で歩いていたけど、ふと頬が濡れ足を止めた。
手で濡れた頬を拭い空を見上げると、街灯に照らされた雨が銀色の筋となりはらはらと光った。
綺麗だけど今は10月。高3の大事な時期に風邪を引きたくはない。
肩をすくめ拳を握り、出来るだけ速足で歩きだす。大通りに出てすぐのコンビニに急ぐしかない。走れば5分もかからずに着く。
そう思ったのもつかの間、瞬時に雨が強くなりザアっと音を立て地面を叩いた。
一瞬で強くなった雨脚に早歩きが全速力へと進化する。
顔に当たる大粒の雨と言ったらもう!目を開けてなんていられない。ただでさえ視界が悪い雨の夜、目を糸のように細め全速力。
この危うさが分かるだろうか?一言で言うと「ヤバイ」だ。語彙力なさすぎだけど、他に言葉が浮かばない。
とにかくヤバイのです。
走れ走れと全力ダッシュの甲斐あって瞳に飛び込んで来たコンビニの光る看板。
既にずぶ濡れだけどコンビニに向かってラストスパート。
駐車場を越え後はお店に飛び込むだけのはずだったのに。
光めがけて飛び込む夏の虫のように看板の光だけを見ていた私は全く気付いていなかった。
この雨の中駐車場で不良少年がヤンキー座りをしていた事に。
ラストスパート中の勢いある私の膝は見事に不良少年にヒット。
初めて感じる凄まじい衝撃が膝から伝わり人を蹴ってしまったのだと把握。
全速力により勢いづいていた私の身体は不良少年を巻き込み倒れ込む。立ち上がる間もなく眩しい光が目に飛び込んで来たと思ったらなんとトラックが突っ込んで来て。
一瞬の事なのに脳が危険を察知してスローモーションのように周りが良く見えたけどなすすべなし。この状態でどうしろと?!