序章・前編 神と破滅の魔神
千年前
世界は、滅亡の淵に立たされていた。
かつて緑豊かだった大地は黒く焼け焦げ、幾千もの都市が瓦礫と化していた。山脈は崩れ、河川は干上がり、見渡す限りの平原には数え切れない人間の亡骸が横たわっている。
空には、太陽が存在しなかった。
正確には、太陽を覆い隠すほど巨大な存在が、天空を占領していたのである。
その名は、破滅の魔神テュフォリオン。
神々さえも畏怖する、世界に終焉をもたらす存在。
その巨体は山脈を凌駕し、頭部は雲海の遥か上に突き出していた。全身を覆う漆黒の鱗は巨大な岩盤のように分厚く、その隙間からは溶岩を思わせる赤黒い光が脈打っている。
人間の胴体に似た上半身には、六本の異形の腕が生え、指先から伸びる鉤爪は山を切り裂く巨大な刃を思わせた。
腰から下には脚が存在しない。
代わりに数百もの巨大な蛇が絡み合い、蠢いていた。蛇たちが身をよじるたびに大地は削られ、深い亀裂が幾重にも走る。
背中には、天を覆うほど巨大な十二枚の翼。
そして、額から伸びる七本の禍々しい角と、左右に開かれた六つの眼。
その瞳に宿るものは、怒りでも憎悪でもなかった。
ただ、生命という存在に対する絶対的な否定。
テュフォリオンにとって、人間とは敵ですらなかった。
踏み潰す虫と、何ら変わらない存在だったのである。
『グオオオオオオオオオオッ!!』
咆哮が響いた。
それだけで世界が震え、地表を走った衝撃波が森林を根こそぎ吹き飛ばし、山肌を剥ぎ取っていく。
大陸東部に位置する人類最後の王都。
そこには、滅亡を免れた数百万の人々が集まっていた。
城壁の上では数万の兵士たちが震える手で武器を握り締めている。しかし、誰一人として、その武器を振るうことができなかった。
「あれが……魔物だというのか……」
老将が呟いた。
幾十年もの戦場を生き抜いてきた男だった。しかし、今、その手は震えていた。
王都の中央広場では、母親が幼子を抱き締めていた。
「お母さん……あれ、なあに……?」
「見てはいけません……お願いだから、目を閉じて……」
母親は子供の顔を胸に押し当てた。
周囲では老人たちが祈りを捧げ、兵士の妻たちが泣き崩れ、神殿の司祭が声を枯らして救済を求めていた。
しかし、天は沈黙していた。
テュフォリオンが六本の腕を持ち上げた。
その掌に黒い球体が生まれる。周囲の光が吸い込まれ、空間そのものが歪み始めた。
球体は瞬く間に膨張し、巨大な黒い太陽となって王都へ向けられる。
人類最後の都を、そこに生きるすべての生命とともに消し去ろうとしていた。
誰もが悟った。
これで、終わりなのだと。
その瞬間だった。
「――誰の許しを得て、我が愛する者たちを踏みにじっている?」
低く、威厳に満ちた声が天地に響いた。
黒雲に覆われた天空に、一筋の黄金の光が差し込む。
次の瞬間、厚さ数千メートルにも及ぶ暗雲が、巨大な円を描くように押し広げられていった。
その中心に、一人の男が立っていた。
神、ゼウリオス。
人類を愛し、四大精霊を従える、神々の一柱。
腰まで伸びる長い金髪は、風もない天空で静かになびいていた。
整った顔立ちは人間の青年にも見えたが、その美貌には人という種族が持ち得ない、神聖で不可侵の気配が宿っている。
その身を包むのは、純白と黄金で織り上げられた神衣。
そして、黄金に輝く双眸の中心には、十字の瞳孔が刻まれていた。
右手には、一本の長槍が握られている。
神槍。
白銀の柄には幾千もの神代文字が刻まれ、穂先は黄金と蒼白の光を放っていた。
ゼウリオスは眼下の王都を見下ろした。
泣き叫ぶ人々。
崩れた家屋。
血に染まった大地。
そして、絶望に打ちひしがれながらも、子供を守ろうとする母親たち。
「よくぞ耐え抜いた、人の子らよ」
その声は、王都の隅々にまで届いた。
「顔を上げろ。貴様らが絶望するには、まだ早い」
ゼウリオスは神槍を肩に担ぎ、遥か彼方にそびえる魔神を見据えた。
「この私が来た以上、貴様らの命は誰にも奪わせん」
遥か彼方で、テュフォリオンの六つの眼が一斉に動いた。
『……ゼウリオス』
地鳴りのような声が響く。
『神の身でありながら、地を這う虫どもに肩入れするか』
「虫だと?」
ゼウリオスの口元に、不敵な笑みが浮かんだ。
「喜び、悲しみ、愛し、憎み、それでも明日を求めて生きる。貴様が虫と呼んだ者たちは、貴様などより遥かに尊い存在だ」
『神ごときが……我を愚弄するか!』
「思い上がるな。私は事実を述べたまでだ」
ゼウリオスは神槍を水平に構えた。
「貴様に一つ教えてやろう」
黄金の瞳が、鋭く細められる。
「神の怒りを買うということが、どういう意味なのかをな」
直後、テュフォリオンの掌から黒い太陽が放たれた。
空間を押し潰しながら迫る巨大な破滅の球体。
ゼウリオスは左手を掲げた。
「――神域展開《天蓋絶界・アエテルニタス》」
幾重もの黄金の魔法陣が出現し、王都を覆う巨大な半球状の結界を形成する。
黒い太陽が衝突した。
凄まじい衝撃が大陸全土を駆け抜け、王都を囲む山々が崩壊する。
しかし、結界の内側には一筋の風さえ届かなかった。
「……神様……」
誰かが呟いた。
それをきっかけに、無数の祈りが広がっていく。
ゼウリオスは、その祈りを背に受けながら笑った。
「その程度か、魔神」
次の瞬間、その姿が消えた。
黄金の閃光が天空を駆け抜け、テュフォリオンの目前へと迫る。
魔神が六本の腕を振り下ろした。
しかし、ゼウリオスはその一撃を軽々とかわし、神槍を横薙ぎに振るった。
閃光が走る。
城塞ほどもある巨大な腕が、根元から切断された。
『グオオオッ!!』
続けざまに襲いかかる鉤爪を受け流し、ゼウリオスは神槍を逆手に構えた。
「《神槍連撃・天星乱舞》!」
無数の黄金の斬撃が降り注いだ。
一撃ごとに漆黒の鱗が砕け、十二枚の翼のうち数枚が切断される。
魔神の巨体が大きく傾いた。
「どうした、魔神。もう終わりか?」
しかし、テュフォリオンの六つの眼が赤黒く輝いた。
『……調子に乗るなよ、ゼウリオス』
切断された腕が再生し、失われた翼が再び広がっていく。
その全身から、凄まじい魔力が噴き上がった。
ゼウリオスの笑みが、わずかに深まる。
「……ほう。ようやく本気になったか」
そして、神槍を天空へ掲げた。
「ならば今度は、私の力を見せてやろう」
黄金の魔法陣が一つ、また一つと展開されていく。
十。
百。
千。
やがて、天空を埋め尽くすほどの巨大な神聖陣が形成された。
ゼウリオスの唇が、静かに動いた。
「――始原に灯りし不滅の光よ。時の胎動より生まれ、幾億の星々を巡り、万象の理を照らし続けし至高の輝きよ」
神槍の穂先が、白く発光する。
「我が名はゼウリオス。天の理を知り、地の嘆きを聞き、生命の尊厳を守護する者。今ここに、神代より受け継ぎし創世の権能を解き放つ」
天空に浮かぶ魔法陣が回転を始めた。
その外周には、幾千もの古代文字が黄金の炎となって浮かび上がる。
「光は闇を退け、秩序は混沌を鎮め、星々は我が意志に従いて軌道を変えよ。天地を隔てし境界を越え、時空を貫き、あらゆる障壁を超越せよ」
テュフォリオンが咆哮した。
六本の腕を交差させ、全身から黒い魔力を噴き上げる。
だが、ゼウリオスの詠唱は止まらない。
「我が槍に宿りしは、滅びを望む怒りにあらず。守るべき生命の明日を切り開く、不屈の意志なり。幾千の夜を越え、幾万の絶望を砕き、今ここに天命を示さん」
神槍の穂先に、太陽を凝縮したかのような光が集まった。
「聞け、天地よ。見届けよ、星々よ。これより放つは、神の裁きにして創世の一閃。万象を貫き、破滅の根源を討ち滅ぼす、我が至高の神撃」
ゼウリオスの金髪が大きく舞い上がった。
黄金の瞳に刻まれた十字が、眩い光を放つ。
「――神槍奥義《創天穿界・アストラル・ロンギヌス》!!」
神槍が振り下ろされた。
天空を埋め尽くしていた無数の魔法陣が、一斉に収束する。
そして、黄金の閃光が放たれた。
それはもはや光線ではなかった。
天空そのものを引き裂く、巨大な神の刃。
空が割れた。
蒼穹に巨大な亀裂が走り、その向こうには漆黒の虚空と無数の星々が姿を現した。
黄金の神撃は大気を焼き払い、山脈を蒸発させながら、テュフォリオンへと迫る。
『グオオオオオオオッ!!』
魔神は六本の腕を突き出し、巨大な黒い防壁を展開した。
しかし、神撃はその防壁を正面から貫いた。
二本の腕が吹き飛び、胸部を覆う漆黒の鱗が砕け散る。
巨大な肉体が後方へ押し流され、蛇の下半身が大地を削りながら数十キロにわたる深い溝を刻んだ。
魔神の胸には、山一つが収まるほどの巨大な傷が刻まれていた。
だが――。
『……よくも』
傷口から黒い魔力が噴き上がった。
『よくも……この我に……!』
失われた腕が再生を始め、十二枚の翼が一斉に開かれる。
『《冥獄崩天・アポカリプス》!!』
十二枚の翼から放たれた雷撃が天空で融合し、巨大な黒い槍となってゼウリオスへ襲いかかった。
「《天蓋絶界・アエテルニタス》!」
黄金の結界が展開される。
神の絶対防御。
あらゆる攻撃を遮断する、神代最高峰の守護権能。
しかし――。
パキンッ。
黄金の結界に、一本の亀裂が走った。
「……何?」
次の瞬間、絶対防御が粉々に砕け散った。
黒い雷槍が、ゼウリオスの身体を直撃する。
神衣が裂け、肩から胸にかけて深い傷が刻まれた。
黄金の血が天空へ飛び散り、その身体は遥か後方の山脈へ叩きつけられる。
山が崩壊した。
巨大な岩盤が押し潰され、地中深くまで続く大穴が形成された。
その中心で、ゼウリオスは片膝をついていた。
「……まさか、私の絶対防御を破るとはな」
神槍を支えに立ち上がる。
黄金の瞳は、魔神の胸に脈打つ黒い光を見据えていた。
「……この力、まさか……」
脳裏をよぎった可能性は、あまりにも忌まわしいものだった。
しかし、考える猶予はなかった。
テュフォリオンの巨体から、さらに膨大な魔力が噴き上がる。
ゼウリオスは神槍を握り直した。
すでに全身には深い傷が刻まれ、黄金の血が絶え間なく流れている。
それでも、その瞳から闘志が消えることはなかった。
「……面白い」
口元に、不敵な笑みが浮かぶ。
「これほどの相手は、久しい」
そのときだった。
「――ゼウリオス様!!」
澄んだ女性の声が、天空に響いた。
ゼウリオスが顔を上げる。
そこには、四つの光が浮かんでいた。
緑。
白銀。
漆黒。
蒼穹。
光はゆっくりと人の姿を形作っていく。
生命と魂を司る大精霊、エリュシア。
秩序と審判を司る大精霊、アストレア。
夜と影、死を司る大精霊、ニクシア。
空と風、知識を司る大精霊、アイテリア。
四大精霊が、ついに戦場へ降臨したのである。
エリュシアは、淡い翡翠色の長髪と翠玉の瞳を持つ、慈愛に満ちた女性だった。
アストレアは、銀髪と銀の瞳を持ち、白銀の神衣をまとった凛然たる女性。
ニクシアは、漆黒の長髪と紫紺の瞳を持つ、妖艶な女性。
そしてアイテリアは、淡い青銀色の髪と蒼い瞳を持つ、知的で端麗な女性だった。
四人は傷ついたゼウリオスを見つめた。
エリュシアの表情が凍りつく。
「ゼウリオス様……!」
神衣を染める黄金の血。
肩から胸へ刻まれた傷。
長い時を共に過ごしてきた彼女にとって、それは初めて目にする光景だった。
「どうして……こんな……!」
エリュシアは駆け寄ろうとした。
しかし、ゼウリオスは片手を上げて制した。
「来るな。奴は危険だ」
「だからこそです!」
エリュシアの瞳には、涙が浮かんでいた。
「どうして、お一人で戦おうとなさるのですか……!」
アストレアが静かに進み出た。
「ゼウリオス様。私たちは、あなた様の剣であり盾です。この戦いから、私たちを遠ざけることだけはお許しください」
ニクシアが薄く笑った。
「まったく……私たちを置いて、一人で格好をつけるなんて」
軽口を叩きながらも、その指先は小さく震えていた。
アイテリアは魔神を見据え、険しい表情を浮かべた。
「あの魔力は通常の神性を侵食しています。これ以上の単独戦闘は危険です」
ゼウリオスは四人を見渡した。
そして、小さく息を吐いた。
「……まったく。お前たちは、本当に言うことを聞かないな」
「あなた様ほどではありません」
アストレアが即座に答えた。
ゼウリオスは苦笑した。
「そうかもしれんな」
そして、神槍を握り直した。
「ならば、共に戦おう」
四大精霊の表情が引き締まる。
「ただし、無理はするな。お前たちまで失うわけにはいかん」
その言葉に、エリュシアは悲しそうに微笑んだ。
「……それは、私たちの台詞です」
四人はゼウリオスの前方へ展開した。
エリュシアの背後に巨大な生命樹の幻影が現れる。
「――生命神術《創生輪廻・エデン・ジェネシス》!」
生命樹から無数の翠緑の光槍が放たれ、魔神の肉体を貫いていく。
続いて、アストレアが右手を掲げた。
「――秩序神術《絶対審判・ジャッジメント・レクイエム》!」
天空に数千もの白銀の剣が出現し、テュフォリオンの巨体を大地へ縫い付けた。
ニクシアが妖しく微笑む。
「――冥夜神術《永劫葬送・ニクス・エターナル》!」
魔神の足元から無数の漆黒の鎖が噴き上がり、六本の腕と十二枚の翼を拘束する。
そして、アイテリアが両手を広げた。
「――天穹神術《万象断界・アカシック・テンペスト》!」
無数の蒼白い風刃が空間を切り裂き、魔神の全身へ殺到した。
四大精霊による、神代最高峰の同時攻撃。
漆黒の鱗が砕け、翼が切り裂かれ、巨大な肉体が大地へ沈み込んでいく。
しかし――。
『……許さぬ』
魔神の胸部から、さらに凄まじい魔力が噴き上がった。
『神も……精霊も……人間も……すべて消し去ってくれる!!』
大地が震えた。
テュフォリオンの傷が再生し、胸部に巨大な黒い球体が形成される。
アイテリアの顔から血の気が引いた。
「……あり得ません。周囲の魔力だけではありません……大地そのものから、膨大な力が供給されています……!」
ゼウリオスは一瞬、沈黙した。
そして、何かを理解したように目を細めた。
「……そういうことか」
その声には、怒りとも悲しみともつかない感情が滲んでいた。
「そこまでして、人間を滅ぼしたいのか……」
テュフォリオンが咆哮した。
『《終焉創世・カタストロフ・オメガ》!!』
黒い球体が膨張する。
空間が崩れ、大地が裂け、遠方の山脈が音もなく消滅していく。
その攻撃が放たれれば、人類どころか大陸そのものが消し飛ぶ。
ゼウリオスは四大精霊を見渡した。
「……これが最後だ」
エリュシアが息を呑む。
「ゼウリオス様……?」
「奴の攻撃を正面から受け止め、そのまま大地の奥深くへ封じ込める」
「ですが、それでは……!」
ゼウリオスは不敵に笑った。
「私を誰だと思っている?」
その声には、先ほどまでの疲労を感じさせない威厳があった。
「神ゼウリオスだ。貴様らの主が、この程度で膝を折ると思うな」
神槍が、黄金の光を放ち始めた。
四大精霊もまた、それぞれの権能を解放する。
生命。
秩序。
死。
天空。
四つの力が、神槍へと流れ込んでいく。
ゼウリオスの背後に、巨大な十字の神聖陣が出現した。
「――始原より存在せし天地の理よ。幾億の星々を生み、幾千の世界を育み、無数の生命に明日を与えし創世の光よ」
黄金の瞳が、眩い輝きを放つ。
「我が名はゼウリオス。神の座にありながら、神の傲慢を拒み、滅びゆく生命のために槍を執る者」
神槍の穂先に、四つの光が集まっていく。
「生命よ、我が槍に宿れ。秩序よ、我が意志を支えよ。死よ、破滅を鎮めよ。天空よ、無限の彼方へ道を開け」
天空に、巨大な黄金の輪が現れた。
「我が身が砕けようとも、我が魂が散ろうとも、この世界に生きる者たちの未来を、決して絶やしはしない」
ゼウリオスの神衣が、光の粒子となって崩れ始めた。
エリュシアの瞳が見開かれる。
「……ゼウリオス様……?」
しかし、詠唱は止まらなかった。
「天地よ、我が願いを聞け。星々よ、我が誓いを見届けよ。これより放つは、神の命を代償とする最後の神撃」
黄金の光が、世界を包み込んだ。
「――神槍最終奥義《創世終焉・ゼウス・エクス・マキナ》!!」
神槍が、放たれた。
黄金の閃光と、漆黒の破滅が激突する。
その瞬間、世界が白く染まった。
音が消えた。
風が止まった。
時間さえも、わずかに停止したかのようだった。
次の瞬間、天地を引き裂く轟音が響き渡った。
空が砕け、大地が裂け、海が二つに割れる。
黄金と漆黒の光が激しくせめぎ合い、その衝撃は大陸全土へ広がっていった。
ゼウリオスの腕から黄金の血が流れ、神槍に亀裂が走る。
四大精霊の身体もまた、限界を迎えていた。
「お願い……!」
エリュシアの頬を、涙が伝う。
「どうか……ゼウリオス様を……!」
アストレアが歯を食いしばった。
「押し返しなさい……!」
ニクシアも最後の力を振り絞る。
「こんなところで……負けられるわけがないでしょう……!」
アイテリアが叫んだ。
「ゼウリオス様……! 今です!!」
ゼウリオスの黄金の瞳が、激しく輝いた。
「――貫けぇぇぇぇッ!!」
黄金の閃光が、漆黒の破滅を押し返した。
魔神の胸部を貫き、その巨体を大地へ叩きつける。
凄まじい衝撃とともに地表が陥没し、巨大な亀裂が四方へ走った。
テュフォリオンの巨体は、さらに深く沈んでいく。
その上空に、黄金の封印陣が出現した。
「――神代封印《永劫幽界・アビス・プリズン》!」
無数の黄金の鎖が天空から降り注ぎ、魔神の六本の腕、十二枚の翼、蛇の下半身を拘束する。
『ゼウリオスゥゥゥゥッ!!』
その声には、初めて明確な恐怖が混じっていた。
『我は……滅びぬ……!』
「分かっている」
ゼウリオスは静かに答えた。
「だからこそ、今は眠っていろ」
黄金の封印陣が閉じ始める。
「次に目覚めたときこそ、貴様を完全に滅ぼしてやる」
テュフォリオンの巨体が、大地の奥深くへ沈んでいく。
『必ず……戻るぞ……!』
その声を最後に、魔神の姿は完全に消えた。
そして、戦いは終わった。
人類は、救われた。
だが、その勝利の代償は、あまりにも大きかった。




