第二話 猫神様。
僕に色々と教えてくれる一つ目小僧は、とても饒舌だった。
どうやら、人間と話すのは数百年ぶりで楽しいらしい。
「……ってところだな!何か聞きたいことはあるか?」
僕は一度、頭の中でまとめた。
ここは妖怪の生きる世界線で、現世と少しだけズレが生じた世界。
迷い込んでも、景色自体は大きく変わらないということ。
この世界にいる妖怪は、人間に直接触ったり、話しかけたりする事が出来ない。
猫神様が、頭の上か、肩の上に乗っている時のみ、この世界に来れる。
ざっくりとこんな感じだ。
「あの、質問良いですか?」
「おうおう!なんでもきやがれ!」
「えーと…。猫神様って何ですか?普通の猫じゃ無いんですか?」
僕は頭上の黒猫と、猫缶に集まる猫達を指差して聞いた。
「猫神様ってのは、この地域に住み着いた猫様の事だな。1つの街にお1人しか居ないんだ。」
「他の猫との違いは?」
「わからねえ。」
「え?」
「俺たちは猫様より立場が下なんだ。あまり干渉しすぎるなと昔から教えられてきた。」
一つ目小僧は、後頭部を掻きながら答えた。そして、
「面目ない。」
と頭を下げるのだった。
「いやいやいや!別にそんな、仕方ない事ですよ。」
僕は、慌てて顔を上げてもらう。
「僕も猫神様と呼んだ方が良いのでしょうか?」
「んー。どうだろうなぁ?猫様は気にしないと思うが…俺たちの世だとあまり良い印象は受けねぇな。」
顎に手を当てて上を向いたら下を向いたりしている。
(この人(?)結構忙しないなぁ。)
「妖怪って本当にいたんですね。」
「まぁ、視えない人間からしたら、そう思うよなぁ。俺たちは人間の事見えるんだけどな。」
「妖怪の正体って何なんですか?」
僕は結構突っ込んだ話をしてみた。多分この人は色々聞いても大丈夫そうだ。
「正体?って言われてもな…。俺たちは生まれてきた時からこんなだからな。逆に人間の正体って何なんだい?」
僕はまさかの質問返しに困ってしまった。
「正体…ですか。いやぁ〜僕も生まれてずっとこんな感じなので、何とも……。」
「ま、そういうこった。」
「なるほど。」
僕はこの新鮮な時間がとても楽しく感じていた。
まだ、正直実感が湧かないし、もしかしたら夢を見ているのかも知れない。明晰夢ってやつだろうか。
「そういえば、猫神様は、その土地に住み着いた猫様って言ってましたけど、他の地域にも猫神様がいるって事ですか?」
「そんな感じだ。人間で言う俺たち。神様みたいなものだ。」
「ほぇ〜。なるほ……神様?」
「ん?どうした?」
「え!?神様なんですか!?」
「一括りにはそうだな。ここの神社に祀られてるのは俺だ。」
今日1番の衝撃が走った。
「え?神様って妖怪だったんですか!?」
「正確に言うと、神様の類いの中に妖怪がいるって感じだなぁ。役割や、より大きな力を持つ妖怪が神様になるんだ。神様ぐらいになれば人間に干渉する事も出来る。」
そう言って一つ目小僧は、神社の外を歩く学生達に目をやる。
学生達は神社の中に入ってきた。
3人組だ。
僕たちに目もくれず直進してくる。
僕は、
「あ、ども。」
そう言って避けたが無視された。
そのまま賽銭箱の裏に鞄を置き、鞄の中からサッカーボールを出して遊び出した。
「良いんですか?こんな所で遊ばせちゃって。」
「猫様達に被害がなければ俺としては何ともだな。」
(干渉ってどんな感じなんだろうか。)
「猫神様が神様の様な感じだと言ってましたけど、この猫様はこのまま僕が家まで帰ったらどうするんですかね?」
僕は頭の上であくびをする猫を指差した。
「多分、途中で降りて帰っちゃうと思うぞ。」
そんな会話をしていた矢先に学生の蹴ったボールが猫の集会場に飛んで来た。
「あ、危ない!」
そう叫んだ時、一つ目小僧は指をヒョイっと動かしてボールを弾いた。
「え?」
僕は不自然な動きをしたボールが飛んでいくのを目で追う。
「まぁ、俺の出来る干渉はこの程度かな。」
学生達は、ボールの不可解な動きを気味悪がって逃げた。こちらに向かって走ってくる。
「あ、ぶつかる!」
そう言って衝撃に備えたが、何と学生達は僕をすり抜けて叫びながら走って行った。
「え!?なんだ今の!?」
驚いて身体を見回す。
「そりゃそうだ。お前さん今、こっちの世を軸に生きてるんだからな。」
「ええ!?僕は本当に戻れるんですか!?」
「俺の知る限りだと、長居した人間は、(安倍晴明)って奴だけだな。」
「陰陽師の人ですか?」
かなり有名な名前が出てきて驚いた。
「お?知り合いかい?」
「いえ、有名な人ですから。」
意外だった。ここは愛知県だ。
見聞きするからに、妖怪はスマホなど連絡手段を持っている様には見えない。情報のやり取りとかどうしてるんだろうか。
(安倍晴明って京都かどっかの人だよな?)
そんな事を思っていたら、頭上の猫神様が伸びをした。
「お、そろそろおかえりの時間かもな。またどこかで会ったら話そうぜ。」
一つ目小僧はそう言って手を振った。
「え?まだ聞きたい事がたくさんあります!」
そう言った瞬間に猫神様は僕の頭からピョンと飛び降り神社の社の方へと消えた。
すると、目の前の景色が突然色褪せた様に変わった。
周りを見渡す。
一つ目小僧も、猫の集団も居ない。
「え?夢だったのか?」
しかし、メモ帳を見るとしっかりと文字が残っていた。
(夢じゃないかも。)
僕の奇妙な初体験は不完全燃焼で終わった。




