連の力
実践演習の後、休憩を取りながら四時間ほど普通の教科の授業があった。
「なぁ連、なんでこの学校初日からこんなにハードなの?」
「さぁ?でも死が身近にあるからこそじゃないかなぁ」
昔から運動とか体力面には自信があったはずなのに、少しだけそれが消えかけている気がしたが気にせず歩みを進める。
「この学園には寮があってそこでみんな暮らすんだ。たしか一緒の部屋だったから案内するよ」
そのように言った連は歩みの速さを変え、やけに長ったらしい廊下を勢いよく走っていく。同じ授業内容を受けたはずなのに連と自分自身との間に大きな体力の差を感じた。しかしその速さは次第に落ち、一つの少し古びた木製の扉の前で完全に止まった。ぎぃ、と音を立てながら連が扉を開け、オレらが住むことになる部屋がゆっくりとオレたちをのぞこうとする。
「うお、思ったより広いな」
中は古びた扉とは違い、白を基調とした部屋で、一人暮らしをするときに必要な設備も当たり前のように備えていた。また二人で住むにしても余りある広さに少しの驚きが声となって口から漏れてしまった。
「部屋にはいろんなものが多くあるから自由に使って、なくなったらその都度もらいに行く感じだね」
「もらいに行くってどこに?」
「ここから少し離れたところにある支援クラスのところ、時間もあるからせっかくだし行こうか」
連が言うには、異能力が戦いに向いてない者、異能力を持っていない者がオレらのような戦いをする者を支援するところが支援クラスだと。オレらが戦いを有利に進めることができるのも彼らのおかげだと言う、つまるところ縁の下の力持ちという奴だ。
連と共に歩いていくと大きな話し声と物音が聞こえる部屋に近づいていく。
「なにやら騒がしいね」
「今大丈夫ですか?」
そのように言うと扉の奥から大きな声が聞こえた。
「ごめ~ん、誰か来てるから対応お願い」
少ししてどたどた、と音を立てた人が来る。
「すみませんね今立て込んでて、どうかしました?」
扉を開けてもらい中に入ると、そこでは資料などが宙を舞い、猫の置物などが床に散乱しており、5人ほどの人間がせわしなく動いていた。
「特段何かあったわけじゃないんですけど今日からの同級生に寮内の紹介をしてまして」
連が言い終わった後に軽く会釈をしながら話す。
「旁って言います」
「あぁえっと、蛍火 茜って言います」
短いきれいな白の髪に比喩表現ではないと言えるほど宝石に似たきれいな青の目を持っていた。少し首元の空いたスーツとズボンを履いていた。
彼女は少し慌てながら挨拶をする。大方彼女の後ろで起きていることで手一杯なのだろう。
「それで何か手伝いましょうか?」
「いいんですか?ありがとうございます」
連は流れるように後ろの状況に話を持っていく、このようなところにもかなわないと思ってしまう。
「実は、私たちのクラスに貸し出されたアーティファクトがどこかに行きまして」
「なぁ、アーティファクトって漫画とかで出てくるようなアレ?」
「そうだね、僕たちの異能力が物に備わってるって思ったらいいよ」
連に聞いてもう一度、いまオレが居るここは漫画のような世界だと認識し、それと同時に心の中にある少年のわくわくとした気持ちを止めることができない気がした。
「どのような力なんですか」
「風を操ることができるモノです」
なぜだかこの場にいるのに話に入れず、二人の会話を聞いて、そうなんだぁと思うことしかできなくなっていたので奥の人たちと一緒に探すことにした。しかし数分探しても見つかる気配すらなく皆諦めて放心状態でいたその時、複数個ある監視カメラの映像の一つが急にひどく乱れた。
「このカメラ、どこのですか?」
「確か、使われてない実習室です。一階の奥にある。」
「そこにアーティファクトがあるかも」
たしかに状況が大きく動いたような気がするものの気になり聞いた。
「一応聞いていい、どうしてわかったの?」
「完全に分かったわけじゃないけど実習室は屋内だから、あんなに映像が乱れることなんてそうそうない。そしてアーティファクトは風を操るからそこにある可能性が高い」
しかし今になってなぜそれが動き始めたのかなどの問題はあったがそんなことよりも回収するのが先と思い学校の出口の前走った。
「すみません」
そこにいた清掃員にぶつかりそうになりとっさに謝り、実習室へと走っていく。
中は大学の講義などがあるような部屋になっており他の部屋に比べて広く、高くなっていたがそれ以上にそこにはカメラでは見えない異常があった。
「風も吹いてないのに、こんな竜巻ありえねぇよ」
目の前には屋内というのに5mほどの高さを持った竜巻が低い音を鳴らしながらたたずんでいた。
「十中八九アーティファクトのせいだろうね」
「暴走ってやつ?」
「多分そうだろうね」
それは微動だにせず威圧感を出し続けていた、ふいに触れてしまえば自分がどうなるのか想像ができなかった。少し経って連が口を開く
「旁君、多分あの中だ。僕の力で竜巻の中に入れるようにする。そうなったら中に入って止めてきてくれるかい」
「分かった。でも無理だけはすんなよ」
反射的に答えたものの、止め方が分からなくて問いただす。
「なぁ、どうやって止めたらいい?」
「基本的にアーティファクトは異能力と同じで渇力が動力源だ。外部から渇力を加えることで動き、それが尽きることによって動作はしなくなる。使われた時の対策として他の人物の渇力をぶつけて無理やり止める方法がある。それを使えば止めれる」
「やり方はわかった、あとはこっちで何とかする」
そうはいったもののオレに出来る気がしない。それでもアイツだけに負担かけさせられないと思い気持ちを固める。
授業の終わりに聞いた。連の異能は触れた対象を四等分にし、5秒後にそれが戻るというもの。連が片膝を立てて、右手を地面につけ、喋り始める。
「不条理を打ち砕く力、これ求むるものは」
「目には目を」
連がそのように言った時、目の前の竜巻に亀裂が入る。縦に入った亀裂は完全に竜巻を分断しているのに収まる気配はない。
「今だ!!」
その言葉と共にオレは竜巻の中に向かって走る。中では轟音が響き、風が肌にぶつかりその冷たさを一身に感じる。人一人が立つのがやっとの空間で冷たい風をただそこに固めるために動くものが浮いている。
「これかな」
勢いよく上に飛べば何の問題もなくそれをつかむことができる。手に取ったものは黄色の風車であった。それは一見ただの風車に見えるが、持って初めてわかる不思議な浮遊感があった。
連の言っていた渇力をぶつけて無理やり止めるとは言ってしまえば渇力をオレの体から外へと放出することなのだろう。もちろん今日の授業の中でそんなことは学んでいない、しかしそんなことは関係ない、できなければ最悪の場合数時間ほどこの渦の中にいることになるかもしれない。だからこそ道を探す。頭の中で何度も思考を巡らせる。
何か方法はないのか、オレは渇力を自在に操れないそれでもあぁ言ったからにはこの状況をどうにかしないといけない。
頭に血が上っていき、痛みを感じ始めた時にふと案が出てくる。
それができると信じてアーティファクトを持った手を吹いている渦そのものに近づける。すると、体が反応して勝手にその渦から手を離れさせていて、ゆっくりと竜巻は晴れていった。
「よくやったね、でもどうやったの?」
連にそのように聞かれ、うれしく思い答える。
「オレの体に唯一渇力が流れるのは異能を使った時、つまりオレの身に危険が起きるときなんだよ。だからわざと竜巻に手を突っ込んだら見事に行けたってわけよ」
それに続き、流れで聞けなかったことについて疑問を投げかける。
「あぁ、そうだ、竜巻を分断する前に言っていたアレ何?」
「異能は思いの力だ。ああやって今の自分の気持ちを言葉にすることで心の中の思いを一つにして、異能の出力を上げてるんだよ」
なるほどと納得しながら、今日のうちにそんなこと言われた記憶はなかった。絶対にだ。
「思いの力なんて言ってたか?」
「あれ、先生言ってなかった?じゃあ、そういうものだって覚えときな」
癇に障るような言い方がされ少し、苛立ちがあるものの成し遂げた達成感が強く何も言わないようにして支援クラスへと向かった。
「はい、これ」
そう言ってアーティファクトを茜に手渡す。なぜか昔のように人のために動いたことで、少し懐かしく、うれしい気持ちになった。
「すみません探してもらって、やっぱり優しいですね」
「大丈夫っすよ、またなんかあったら気軽に言ってくださいよ」
そのように言われたことがなく彼女の言葉に勇気づけられた気がしてまた人のために動けたらいいなぁと心に刻んだ。




