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異世界過酷ハウジング  作者: 半間浦太
第一章:17週目・Fを超えた先
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プロローグ:アニメじゃない?


 時羽ときわ咲子さきこはアニメが嫌いだ。


 と言うのも、アニメは1話につき24分もの時間を取られるためだ。CMを入れると30分も時間を取られる。


 その上、アニメはクール単位で話が構成されているため、最低でも30分×12話分の時間が奪われる計算になる。


 実に360分もアニメに時間を吸い取られているのだ。


 しかし咲子にアニメを見ないという権利は無い。なぜなら、クラスメイトとの話題に付いていけなくなるからだ。


「ねぇねぇ、咲子ー、あのアニメ見たー?」


 クラスメイトの無邪気な問いかけに、咲子はにっこりと微笑んで答える。


「うん、見たよ。3話目でこの地球はニセモノでしたってシーン、凄かったよね。インパクトが抜群で、一気に引き込まれちゃった」

「そうそう、そこなんだよね! さすが咲子! ほんと、何でも分かってるって感じしてるよねー!」

「アニメなら私に任せてよ、あはははは――」


 今期のアニメ放送枠は58本存在する。3分アニメと5分アニメを除外しても52本は存在している計算となる。


 一体どこの誰がこんなにアニメを見るというのだろうか。疑問は果てしないが、それでも咲子はアニメを見なければならない。


 放課後、咲子は女子トイレで吐いてしまった。


(きつい……しんどい……)


 咲子はあらゆるアニメの情報に精通した情報通キャラで通している。高校デビューする際にうっかりアニメの話をしてしまってからと言うもの、情報通キャラとして定着してしまったのだ。


 そのため、咲子は58本ものアニメを見る羽目になった。


 1話30分、CMもきっちり見る。CMもまた情報の一部だ。情報通を気取るキャラに情報ミスは許されない。


 家に帰れば録画したアニメを58本見る生活の再開だ。幾ら時間があっても足りないので、徹夜でアニメを見る羽目になる。


 当然ながら、こんな生活が続くはずもない。58本もアニメを見続ければ集中力が低下する。集中力が欠如すれば意識を上手く保てなくなり、学力が低迷する。


 それだけではない。本当に危険なのは、これからだ。


(つらい……アニメの存在しない世界に行きたい……。

 自分の時間を……私だけの時間が、欲しい……)


 アニメの見すぎでふらふらになっていた咲子は、学校から家に帰る途中、トラックにはねられた。




★          ★          ★




「――というわけで、これがあなたの死因です」

「はあ」


 アニメの見すぎが原因で死亡とは、何ともかんともな最期だ。


 周囲には真っ黒な闇が広がっている。咲子は霊魂のみの状態となり、異世界を管理していると自称する謎の女神Xと面接を行っていた。


 そう。面接なのだ。


 異世界ものでよくある、異世界転生用の面接だ。これから咲子は好きな異世界に行き、好きに生きて良いことになっている。


 ちなみに謎の女神Xはギリシャ風のゆったりとした衣服を着ている。この時点で既にアニメな感じがして、咲子は嫌だった。


「転生先の第一希望はありますか?

 行きたい異世界とか、なりたいものとか、何かありますか?」


 謎の女神Xの問いかけに、咲子は即答した。

 

「アニメが無い世界だったら、もう何だっていいです。情報通キャラも嫌です。

 なりたいなら……脳筋キャラ! 深く考えずにバッサバッサと悪党を倒していきたいです!」

「わかりました。少々お待ち下さい。

 該当件数……1件あり。ああ、この世界ですか。

 丁度、空きがありました。アニメじゃない異世界、クロノス・ウィンディです」

「クロノス・ウィンディ? それって、アニメ風の異世界ですか?」

「いいえ。特撮風の異世界です」

「と……くさつ……?」


 毒殺の聞き間違いだろうか。思わず耳を疑う咲子に、謎の女神Xはクリスタルが埋め込まれたブレスレットを半ば強引に押し付けてきた。


「これが変身アイテムです。今回はお試しで変身させますね。ハイ、変身」


『時羽咲子、認証。――HENSHIN!!』


 ブレスレットが咲子の左腕に嵌め込まれた瞬間、電子音声が響き渡り、彼女を光が包み込んだ。


「きゃあっ!? なんですかこれっ!?」

「心配いりません、ただの変身アイテムです」

「その言葉自体が矛盾してますーっ!」


 咲子の言葉を無視して、光が物質化する。


 気づくと、咲子の体は異世界での活動に適した肉体に転生を果たしていた。


「えっ!? ええーっ!?」


 すらりとしたボディライン。透き通るような白い肌。体にぴったりとフィットする、競泳水着のような深青のボディスーツ。

 両手には黄に輝く宝石回路を宿したガントレットが、両足にはハイヒールを彷彿とさせる金属製のロングブーツが装着されている。

 風に靡くは、濡れ羽を思わせる艶やかな黒髪。そして首元には、真っ赤なマフラー。


 自らの羞恥心をくすぐる格好を目撃してしまった咲子は、頬を赤らめて叫んだ。


「――ってこれ、アニメと特撮の折衷じゃないですかーーーーーっ!!」


「これからあなたには、時空守護機関クロノ・ガーディアンの一員として時間保護活動をして貰います。 

 それでは、楽しい異世界ライフを!」


 パカッ。

 足元の闇が割れ、咲子が遥か彼方の異世界に落下していく。 


「騙されたぁぁぁぁぁーっ!!!」


 奈落の深淵に咲子の絶叫がこだました――。




★          ★          ★




 咲子を異世界クロノス・ウィンディに送り届けた後、謎の女神Xは右手を払った。


「時間の針は進むも戻るも自由自在。されど、時の針は光と闇を分かつ」


 シャラン。

 時計の針が交差する。光と闇が分かたれ、時がまた、新しい時を生み出す。


「おいでなさい、オーバード・ネメアTYPE2」


 女神Xの召喚に応じて、闇から機械仕掛けの巨大なる獣が現れる。


 ――機獣オーバード・ネメアTYPE2。


 獅子の形を模した機械の獣。12の時の試練を超越した機獣。

 かの機獣は吠え猛る。


「グォォォン!!」


 びりびりと闇が震える。



 シャラン。

 時計の針が交差する。



 女神Xは左腕を払い、機獣オーバード・ネメアTYPE2に指令を与えた。


「あの子を助けてあげなさい。12の光と闇が時の座に戻る、その日まで」

「グォンッ!」


 機獣オーバード・ネメアTYPE2は唸り声を上げると、咲子の後を追って、時間の闇を駆けていった。


「さあ、今回はどんな時が紡がれるのでしょうね」


 一人残された深淵の闇にて、女神Xは呟いた。



時間が空き次第、次話を投稿する予定ですm(_ _)m


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